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    ankounabeuktk

    @ankounabeuktk

    あんこうです。オル相を投げて行く場所

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    ankounabeuktk

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    イベントお疲れ様でした!
    当日無配、現役マイトと駆け出しざわシリーズ(?)です。

    Dear My Hero【オル相】「やあイレイザーヘッド」
    「お疲れ様です」
     オールマイト、と彼の名を呼ばなかったのは目立ちたくない一心のはずだけれど、高層ビルの風が吹き荒ぶ最上階の更に上、屋上の転落防止用の手摺りの外側にしゃがみ込んだ相澤の隣で同じく眼下に広がる街を眺める本人以外にその声を聞く者はいない。
    「君も例の事件に?」
    「ええ」
     ゴーグルをしたまま視線も上げず言葉少なに答える相澤をちらりと見遣りオールマイトは並ぶようにちょこんとしゃがみ込んだ。
     いつもは腰に手を当て自信満々に己を誇示するように立つ姿しか見ないから、返って相澤は驚き、しかしそれを表情に出すことなく今度は黙って首を回して隣を見た。
    「何か御用ですか」
    「君の姿が見えて嬉しくなってね」
    「……持ち場を勝手に離れるのは如何なものかと思いますよ」
     とは言え、オールマイトに持ち場などというものは存在しない。ひとたび現場で何か動けばそのまま飛び込んで行って全てを片付けてしまうのだから。相澤はその現場でオールマイト及び他のヒーローに対して敵が厄介な個性を使わないか監視及び無効化する役割だ。前線と後方支援ではスタート位置が違う。
    (それすらもこの人には多分関係ないんだろうが)
     相澤がゴーグル越しに自分を見つめていると気付き、オールマイトははにかんで言葉を紡いだ。
    「この事件が解決したら少しだけ時間が空くんだ。食事でもどうかな」
    「俺より見るものがあるでしょう」
     目を細め軽蔑の眼差しを向ける。オールマイトはおやおやと言いだしそうな様子で相澤の冷たい態度に特に傷ついた風もなく、そのあおい目をビル群に向けた。
     ホテルの一室を利用して行われている取引。勿論外から見えるようなへまをするような輩ではないけれど、オールマイトの目にはガラスと壁さえ通り抜けて悪事の現場が見えているのかもしれないと思わせるだけの鋭さがある。
     オールマイトはどういうわけか相澤を好いているとのたまい、ことあるごとに(と言っても連絡先を教えているわけではないからこうして現場で偶然会った時くらいだが)口説いてくる。相澤はそれを毎回拒絶する。半ば形式めいたやりとりが繰り返されるようになってどれくらいの月日が経過しただろうか。
     ここまで来れば相澤にだって意地が生まれる。なにしろ相手はオールマイトだ。相澤の連絡先くらい調べようと思えばすぐに調べられるはずだ。二人の間には世話になっている警察官の塚内という仲介できる人間だって存在する。しかしオールマイトはそれをしない。
     だから、オールマイトにとってのこのやりとりは、相澤が振る前提で繰り返される単なる時候の挨拶のようなものだと相澤は判断している。本当に手に入れたいのなら、もっと他の手を使うはずだ。
    「……だめかい?」
     だから今夜、月のない夜、黒くなり切れない大都会のネオンが織りなす光を背景にほんの少しだけ食い下がったオールマイトの、どことなく異なった雰囲気に相澤は僅かに眉を寄せた。
    「オールマイトさん」
     いつも通りに断ってもいいのか。相澤が迷った刹那、背後から爆発音がした。
     振り向けば対象のホテルの上層階で爆発が起き、火と黒煙が立ち昇っている。
     オールマイトと相澤は互いに目を合わすこともなく屋上から飛び降り現場へ向かった。一般人の救助と同時に敵組織の確保が急務だ。
     鎮火と安全確保の目処が着いた時には既に空は明るくなり始めていたし、背後にいた別のヒーローが「オールマイトもう別の現場にいるぜ。タフだな」とスマートフォンを見ながら漏らした声を聞き、既にオールマイトがここにいないことを知った。
     普段ならばそれでおしまい。
     またいつかどこかの現場で会った時、やあイレイザーヘッド、とオールマイトがどこまで距離を詰めるのを許されるのかと迷ったようなステップを踏んで挨拶をしてくるのだろう。
    『……だめかい?』
     あの瞬間、今手放したらもう二度と手に入らないような焦燥感にぎくりとしたのは事実だ。
     それでも別に構わないはずだった。
     オールマイトに話しかけられるというのはそれだけで目立つ。極力避けたいという気持ちに変わりはない。だけれども、二人きりの秘密のようなあのたわいもないやりとりが失われる、そのことは、ほんの少し惜しい気がして。
     オールマイトの心に自分がいる。そんな憧れの人に目をかけられているような高揚感でないのなら、その感情の源泉は一体なんだというのだろう。
    「やあイレイザー、お疲れ様」
     煤に塗れ目の下にクマを作った塚内がねぎらいの言葉を掛けてくれた。
    「……塚内さん、ペンと紙持ってますか」
    「あるよ」
     これでいいかい、とスーツの胸ポケットから差し出された手帳とペンを借り、相澤はさらさらと文字を書き付けるとそのページを破って小さく折り畳んだ。
    「……これをオールマイトさんに。俺は連絡先を知らないので」
     塚内は相澤が差し出した手帳とペンとメモをいっしょくたに受け取り、メモを摘み上げる。
    「わかった」
     それ以上は問わないでいてくれる優しさに相澤は会釈をし踵を返す。
     それから数日後、相澤のスマートフォンに見知らぬ番号が表示された着信があった。道に迷った老婦人の対応をしていて出られず、折り返そうと操作していると同じ番号からショートメールが届いていたことに気付く。
     時間と待ち合わせ場所だけを指定したシンプルなメッセージ。
     塚内に託した伝言は無事に本人に届いたらしい。
     相澤は連絡先の登録ページを開き、名前の欄で指を止める。情報漏洩のリスクがゼロではない以上ここに彼の名を刻むのは気が引けた。
     少し迷って指を動かす。
     my hero。
     憧れとは別の感情を探しに、今夜相澤はオールマイトの誘いに乗る。
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