まどろみ【オル相】 濃密な夜を終えようとしている。
深く眠れば次瞼を開けた時には朝だろう。そう思い、幸福に疲れ切った体が急速に眠りに落ちるのを相澤は止めなかった。シャワーを促す恋人の声が聞こえた気がしたけれど、今夜はきちんとゴムを使ってくれたおかげで中を素早く洗う必要がない。汗に塗れた体はお互い様だし、もはや風呂場に這っていく気力もなくて明日でいいです、と答えようとした口がきちんと動いたのかすら怪しい。
ともかく、そのような至福のままに眠りに落ちた相澤の意識がふと舞い戻った。
目を開けても部屋は暗い。夜明け前のひんやりとした空気が額と頬を冷やしている。
(……)
何故起きたのか、その理由が胸にかかる圧力だと気が付いた。
視界を動かさずともわかる。暗闇の中、カーテンの隙間から差し込むわずかな街明かりのおかげで輪郭が見える。相澤の胸に抱き付き、心臓の音を確かめるように耳を当て眠っている恋人の髪だ。
(……珍しいこともあるもんだな)
大きなベッドで寄り添って眠るのは毎回だが、体格差のせいで相澤を抱き込むのが常だ。こんな風に枕から頭を外し、まるで相澤がどこかにいくのを拒むようにしがみつく形で抱き付かれること自体が稀有だった。
相澤の目覚めに合わせて夜の名残りで戯れているのかと思いきや、寝にくい体勢だろうにオールマイトはそんなことお構いなしに規則的な寝息を立てている。汗の乾いた肌の上を空気が撫でた。
とろりと眠気が襲って来る。
顔は冷えているのに首から下は密着するオールマイトと布団のおかげでぬくぬくとしていて、目覚めにはまだ早いと相澤を心地良い世界へ引き戻す。
横に落ちていた手を持ち上げ、何故かそこにいる抱き枕のような恋人を抱いた。愛おしさのままに頭のてっぺんに顔を擦り寄せる。髪の毛が擽ったくて、シャンプーの香りに混じった汗臭さにやはり珍しいと感じる。普段ならば事後のシャワーを欠かさない人だ。寝落ちした自分から離れたくなかったのだろうかと自惚れたことを考えて自嘲する。
回した手でその頭を撫でた。ゆっくり、その眠りを邪魔することなく安眠できるように。
動かしている指が、睡魔に負けて途切れ途切れになる。
(重いけど、あったけえ……)
明日の朝からまたしばらくこんな時間を過ごすことは難しくなるだろう。次に触れ合える時が来るまで、この熱と安らぎを深く蓄えておかなくてはいけない。
髪の感触と頭の丸みに手を添えたまま、相澤は夜と朝の真ん中で愛を抱いて眠った。