本命交通機動隊第六班通称『悪魔隊』。
内部からも外部からも異端の扱いを受けつつも、唯一無二の交機として確固とした辣腕を振るう、そのオフィスの扉はーーー
「狩野くん!バレンタインだよ!!」
今日もド派手にばばんと開かれまくっているのであった。
豪快にドアを開け放った旭都子は、きょろきょろとオフィスを見渡し、目が合った悪魔隊の連中に気軽に挨拶を交わしたのち、真っ直ぐに自席へかけている狩野友嗣の元へ距離を詰めてきた。そして吊り上がった三白眼を臆することなく見つめながら、もう一度元気よく声を上げる。
「狩野くん!バレンタインだよ!」
「二回も言われなくても分かってますって」
呆れたように狩野は旭へ視線を合わせる。
「で、なんスか」
「ふふ……散々ぱら宣言していただろう。今日というこの日に、きみに渡すものがあると」
そう言いながら、旭は手に下げた紙袋をずいと狩野に差し出す。
「本命チョコだよ狩野くん!受け取ってくれるよね!!」
「だーーーこの旭サンの言う本命チョコっつーのは、オレを弟として本気でかわいがりてーっつー信頼のそれだからな!心房!ブレン!妙な顔すんな!メディック撮るな!ミセモンじゃねえ!!」
旭の発言を半ば以上かき消すような大声で、狩野は周囲の悪魔隊のメンバーに弁解する。それでも続く悪魔隊の面々のからかいの声については、持ち前の鋭い目つきで睨みつけて、とりあえずの間黙らせることには成功したようだった。焦りと照れからなる真っ赤な頬をしたままぜーぜーと荒い息を一度二度吐いて、呼吸を整えたあと。
「あざす」
その袋を、頭を下げながら素直に両手で受けとる。そういった愚直なまでの礼儀正しさを、旭は実に好ましく思う。
「どういたしまして。きっと狩野くんも気に入るだろう、少しビターな味わいのトリュフチョコなんだ」
「そーなんスか!食うの楽しみッス」
旭の話にふんふんと頷きながら、嬉しそうな顔を隠しもせず、包みをためつすがめつする彼を、旭は目を細めて見やる。
「ああ、それで」
狩野は弾んだ声のまま、デスクの引き出しを開ける。そしてそこから包みを取り出して、旭に差し出した。
「ホワイトデーだとオレ忘れちまうかもしれないんで。先に渡しちまいます」
「え」
「だって、旭サンがくれんのは分かってたんで」
これでもけっこうマメなんスよ、オレ。にかー、と先ほどと同じ笑顔でそう言ってのける彼に対し。
「宣言しておくものだなあ」
どこかくすぐったい気持ちで、旭は綺麗にラッピングされたその包みを受け取った。
ーEND-