「おかえり、兄さん。」
「ただいま、律。」
「もっと遅くなるかと思った。」
「うーん、楽しかったけど流石に疲れたよ。朝からずっとだったし…。」
今日の茂夫は朝から祝われ通しだった。午前中は霊とか相談所、午後は高校の友人達とカラオケで騒ぎ、夕方からは中学時代の部活仲間がファミレスで祝ってくれたのだ。
「兄さんは人気者だから。」
そう言って笑う律の顔は小さい頃アニメで見た猫みたいだ、そう茂夫は思った。律は時々こういう顔で茂夫をからかう。それは最近になってからの変化のような気がするし、本当はずっと昔から変わらないような気もした。
「今日の夕飯ちょっと豪華でローストビーフと角煮があったんだよ。兄さんいないのにね。」
「えーいいな、食べたかった。」
「そう言うと思って兄さんの分取っておいたよ。」
家族でする茂夫の誕生日祝いは二日前に済ませてあった。母は本人不在でもいつも通りの夕食にするのは躊躇われたらしい。その気遣いが面白くて二人は顔を見合わせて静かに笑った。
「…律、誕生日なのに僕がいなくて寂しかった?」
「えぇ?寂しくはないよ。どうして?」
「えーと、律は、特別な日はふたりきりでいたいかもしれないと…思ったんだ。」
「…ふたりきりで過ごすのも楽しいけど…兄さん、最後は帰ってくるじゃないか。それが分かるようになったから寂しくないよ。」
「そっか。」
「うん。」
「ふふ、おかえり兄さん。」
「ただいま、律。」
ふたりはゆっくり両手の指と指を絡ませた。