それはある日の公園でのこと。
「おにーちゃん、みてて!おにーちゃんはうごかないでね。ぼくのてをこうすると…」
そう言いながら律は茂夫に手を近付ける。そおっと慎重に、けっして触れないように。
「ほら!くっついた!」
律の影が茂夫の影に重なりそうになる直前、律の影がにょーんと伸びて茂夫の影と繋がる。実験が大成功した律はけらけらと笑った。
「うわぁ!りつすごいね!これ、りつのちょうのうりょく?」
茂夫は夢中になって手をパタパタさせて影を離したり近付けたりしてる弟に話しかけた。
「う〜んわかんない。ちがうとおもう。ぼくてをのばしただけだし…。」
そう言いながら律は自分の手を見つめた。その顔はさっきまでの笑顔が消え、前髪の影が幼い顔を覆い悲しげに見えた。
「そっかぁ、でもりつはすごいよ。だいはっけんだね!」
「えへへ。」
「ねぇ、てをつなごうよ。ぼくたちのかげがくっついておおきくなってつよそうだよ。」
「やったぁ!おにーちゃんとおててつなぐ!」
律はぴょんぴょん跳ねて嬉しそうだ。茂夫はホッとした。良かった、律が笑ってくれた。さっきはどうして悲しそうだったんだろう?
それはある日の学校からの帰り道。
「見て律。僕達の影繋がってる。」
そう言いながら茂夫は律から少し横に離れた。そして離れた律に向かってゆっくり手を伸ばす。すると茂夫の影が律の影に重なる直前、茂夫の影がにょーんと伸びて律の影と繋がった。
「懐かしいね。昔を思い出すな。これはね兄さん、本影と半影というのがあって…」
律が説明するのを聞きながら茂夫は手を近付けたり離したりした。不思議な現象だ。律は賢くて凄い。説明全然分からないや…。
ふと気付くと律は黙っていた。茂夫がどうしたのだろうと顔をあげると
「!!律!」
「ふふ、兄さん。隙ありだよ。」
いきなり茂夫の口にキスをした律は、慌てる茂夫を見て軽やかに笑った。
「影だけ兄さんにくっつくなんて不公平だよ。僕だって兄さんにくっつきたい。」
「何それ…。」
いつも穏やかで優しい弟はたまに兄をからかうときがある。キスはいいとしてここはまだ外だ。もう少し我慢してもらいたい。そうだ、家ならキスだってそれ以上だって安心だ。
茂夫は律の手を握ると早足で自宅に向かう。律は驚いた顔をしてついていく。二人の影はひとつに合わさり大きくなり、怖いものなしなのだ。