幕間の楓恒⑦吐き出した息は重く自分でも疲れていることはわかっていた。
情報収集に、アーカイブの整理、雑用も何件かあったかもしれない。そう考えてしまうほど資料室に戻ること自体が久しぶりではあった。
鍵のかかっていない扉を抜けると聞き慣れた機械音に肩の力が抜ける。一休みしたいところではあるがまだアーカイブの整理が残っている。
「丹恒」
「…っ、たんふう…」
丹楓が居たことをすっかり忘れてしまっていた。思わず足を止めて呟くように名前を呼ぶと丹楓に腕を掴まれた。
「いつから休んでいない?」
「…休んでは、いる…」
「ならば、此処に戻ってきたのが何時ぶりが言えるのだな?」
「………」
外で短時間の休息ならとっていたと伝えても丹楓は納得しないだろう。だが、俺自身何時から戻っていないのか既に覚えておらず答えることは難しい。
「自己管理が疎かだと責めている訳では無い、自己管理ができぬ程いそがしかったのだろう?」
「…それは、そうではあるが…」
「余は心配しているだけだ、丹恒」
掴まれた腕を引かれる。勢いがあった訳では無いが力の入らない体では、されるがまま丹楓の肩口に顔を埋める体勢になってしまった。
「……お前は、時々俺を甘やかしすぎではないか…?」
「余が好きでしていることに、過度も適度もない…甘やかされていろ」
後頭部に触れる丹楓の手つきが優しい。まるで眠気を誘うようにゆったりと撫でられると、丹楓から香ってくる白檀にも似た香りのせいか瞼が重くなってくる。
これまで甘やかされる等されたことはなく、不必要なものだと思っていたはずなのに。今は、離れがたく感じてしまっていた。