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    すなの死ねたってどんなんだろうとおもってたら、人魚になった

    二十歳の夏、角名が死んだ。大学のゼミ合宿で行った、伊豆の海で。はじめこそ事故と自殺の両面で調べられたが、すぐに自殺だと判断された。満月の夜。砂浜で行われた最終日のバーベキュー。酒はそれほど飲んでいなかったと近くにいたやつが証言している。明日は帰ったら練習に出るから、そう言っていたと。しかし宴が佳境に入ったころ、角名はひとり、まっすぐに海に向かっていった。そのまま海に入った角名を見て、最初は全員が冗談だと思った。だが、角名はそのまま歩き続け――腰まで海水につかり、打ち寄せる波が背の高い角名の肩まで及んだ時、さすがに皆が声をかけた。なにをやっているんだ、戻れと。でも角名は振り返りもせず、消えたのだ。
    ゼミ生全員、教授までもが目撃者だ。
    角名の身体はどこを探しても見つからなかった。どれほど深く潜っても、どれだけ範囲を広げても。穏やかで潮の流れもそれほど速くはないはずの海で、角名の身体は文字通り忽然と消えた。
    『月に溶けたみたいだった』
    それは、話を聞いた同級生が、とても言いにくそうに、何でもいいからと食い下がる俺に、一言だけ発した言葉だ。

    どうせ死ぬならそんなところをおまえが選ぶわけがない。俺は今でもそう思っている。
    暑いのも、海も嫌いだった。高校二年の夏、インターハイ後の休みに出かけた須磨の海で、あいつはガンとしてビーチパラソルから出ようとしなかった。それでも反射で焼けた、ムカつくなんていっていたお前が。

    あれから何度も何度も、あの海に行く。なぜだったんだろうと思いながら。あの日と同じ時間、俺は海を見る。もうあれから何年経ったのだろう。あの日、あの時間、そして今日はあの日と同じ月齢14.9。

    ここ数年ではないくらい、ひとの気配がない夜だった。ただ波の音だけが規則的に耳に流れ込んでくる。満月の明かりが海と空の境目を曖昧にした。あの夜もこんな風に月が見えていたのだろうか。
    なにかが月の近くで動いた気がした。水が跳ねるような小さな気配。波が不規則に揺れる。銀色と白。きらりと光るのは、ガラスのような、宝石のような輝きだ。不規則に、でも確実にそれは大きくなった。

    びしゃりと水が跳ねる。白く飛沫が上がり、月光がそれを照らした。影がいよいよ大きくなり、俺はようやく近づいてくる何かが、魚の尾ひれであることを確信する。デカい。鱗がまるでダイヤモンドのようにきらめいて海面に消え、一瞬ののちに、再び高く飛沫が上がった。その飛沫のなかから、ひとの形をした影が像を結ぶ。逆光でよく見えない。でもその姿を俺は知っていた。何度も何度も見ていた、背中だった。
    幻だろうか。

    「――角名」

    振り返ったのは、懐かしいあの頃の姿のままの、焦がれてやまない男だった。
    ――水の中で、ぱしゃりと跳ねた黒く輝く尾ひれを除けば。
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