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    aYa62AOT

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    ベルマル真ん中バースデーのお話です。
    ベくんが大学院生でマルちゃが司書さんのお話。
    多分もう何万煎じもされてるやつです

    #ベルマル

    はっぴーべるまるまんなかばーすでー! 大学内に併設された図書館の一部、別館の古めかしい赤レンガの小さな建物へと大学院生のベルトルトは足を踏み入れる。専攻している考古学のレポートに必要な資料を探しに教授の勧めで初めてその別館へとやって来たのだ。図書館、と言うには小さく図書室と言うには少し広い部屋へと足を踏み入れるとふわりと紙の古い匂いが鼻を付いた。
     当たり前だがシン…と静まり返る部屋に人の影は疎らだ、カウンターに座る司書と二人ほどが机に座り本を読んでいる、ベルトルトは教授のメモを片手に一つ一つ棚を確認しなが本のタイトルを探していく、黄ばんだ背表紙の本達がブラインドの隙間から漏れ入る西陽に照らされる。

    「……どれだ、…」
     
     ひと通り棚を探してみたものの見当たらない本にベルトルトは小さく唸りながら棚を眺めていると不意に、背後から声が掛る。

    「何かお探しですか?」
    「…あ、え、はい、どの棚か分かんなくて」

     声の方へ振り向くと少し下からこちらを見上げる司書にベルトルトは苦笑いを浮かべながらメモを手渡す、手渡されたメモを見ながらふん、と納得した様に司書が頷いて、お待ちください。と一声ベルトルトへ掛けてさっさと歩いていく。とりあえずにそのままぼんやりと棚に並ぶ本を眺めていると数分もしない内に数冊の本を抱えて司書が戻り、そしてそれを差し出す。

    「恐らくこれだと思います」
    「あ、ありがとうございます…すみません」
    「いえ、また何かあったら声掛けてくださいね」

     申し訳なさげに頭を下げるベルトルトに司書、マルコはニコリと笑って頭を下げ所定の場所のカウンターへと戻る。テーブルへと腰掛け本を開いて文字の羅列を眺めてはみるものの何となく、司書のカウンターへと視線が流れる。
     黒髪に丸メガネに白のポロシャツ、紺のエプロンは実に彼の顔立ちに似合っている、こんな古めかしい図書館より子供に読み聞かせでもしてやりそうな優しい表情と声をしていた。でもその穏やかな雰囲気はこの図書館に合っている気もして、ベルトルトはまるで絵画でも眺めるようにぼんやりとカウンターを見つめて閉館までの時間を過ごしてしまった。
     本を借りてしまえばそれで済むのにベルトルトはそれから毎日、図書館へ通って少しずつ少しずつ本を読み進めた。チラチラと目の端に入る司書を気にしながら少しずつ、少しずつ。
     別館に立ち寄る人間は少なくベルトルトと司書のマルコが二人きりなんてこともよくあって、自然と二人の距離は近付く。二人きりでもコソリと小さな声で言葉を交わすのは何だか秘密の話をしているようでベルトルトはそれが日々の楽しみになっていた。
     マルコは同い年でこの大学の卒業生、近所のアパートに住んでいて自転車で通ってくる。そんな些細な話を聞くのが楽しかった。
     そしてそれにつれて、ベルトルトの心に淡い嫉妬の炎が灯る。カウンター越しにマルコと笑顔で会話する学生、何かにつけてマルコに頼み事をする教授や講師、全ての人間が下心を抱いている様な気がして心にもやりと影が差す。
     
     自分に下心があるからだ、と心の端で分かっているから尚のこと。

     今日もまさにそんな嫉妬心を煽る日で、小声で常連の学生と談笑するマルコが本棚越しに目に留まる。隔てる本達を抜いて手を伸ばせばその肩に触れてこちらを振り向かせることだって出来る、そんな歯痒い距離感がもどかしく手に持つハードカバーの背表紙に爪が食い込む。
     カタ、と音を立ててマルコ側の本が引き抜かれ視界が少し明るくなる。本の整理を再開したらしいマルコと本棚越しに目が合い優しげに緩む瞳に嫉妬心丸出しの自分を見透かされてしまいそうで思わずベルトルトの視線が泳いだ。

    「……どうした?」
    「いや、…ちょっと、考えごとしてただけ」

     棚越しにコソリとまた言葉を交わす、一冊、また一冊と本が抜かれて互いの距離が詰まる様な気がしてベルトルトの鼓動が高まる、そして自分も一冊二冊、大きな掌で本を引き抜く。
    もうすっかり互いの顔が見える。
     マルコの手が、ゆっくりと本棚の真ん中辺りまで伸びてきてそして誘う様に手を緩く開く。まるで繋いで、と言っているように。
     普段から静かな場所である図書館が余計に静まり返っているような気がして息を飲むのも躊躇する程ベルトルトの緊張は高まりながらそろそろと手をマルコの手に重ねてみる、重ねた手の指が掌を軽く撫でてそして一度離れて指先を絡ませながら繋がる。
     
     本棚の中で二人は初めて、手を繋いだ。
     マルコの指がベルトルトの指の側面の薄い皮膚をなぞる様に動いてそれだけでゾクゾクと背が震える、本棚の秘密の逢瀬はどんなに甘いキスよりもどんなに激しく交わるセックスよりもベルトルトの性的欲求を煽った。
     掌がしとりと汗ばんで来るような気がしてベルトルトの指がヒク、と震えるとそれに気付いてかどうなのか、マルコがコソリと囁く。

    「………丘の上の青い屋根のアパート知ってる?」
    「……うん、」
    「そこの206号室で美味しいコーヒー飲めるんだけど…どうですか?」
    「行、く…」
    「………コーヒー飲んだら続き、しよっか」
    「え、……」

     照れの中に普段のマルコには似つかわしくない色を含んだ表情に続きって、…と尋ねようとした矢先にマルコの背後から司書さんーと呼ぶ声がして繋いだ手がスルリと引き抜かれる、まだ触れ合った熱が残る指先の感触を確かめる様に指の腹を擦り合わせながらベルトルトは期待と緊張に震える息を深く漏らしていつの間にかに誰もいなくなった本棚の先に小さく見えるマルコを目で追う。
     206号室はマルコの部屋でそこでコーヒーを飲んでさっきみたいに手を繋いでそして僕とマルコはそのまま…と頭の中で一気に情報が駆け巡ってベルトルトの頭はそれ所ではなくなる。先程引き抜いた本を元に戻そうと勢いよく本棚に差し込んだ反応で反対側の本がバサバサと数冊落ちていく。


    「——ぁ、あ!すみませ、…!」

     
     ベルトルトは図書館の閉館時間までソワソワとした様子で待ち続けそして、西陽のもう沈んだ紫色の空の中を丘の上のアパートを目指してペダルを踏む。
     小さく見えるアパートの二階の開け放たれたベランダに薄緑のカーテンが揺れ、そして普段の堅苦しい格好とは違うTシャツにデニム姿のマルコが柵に頬杖を付きながら丘の下を眺めている。

     

     あと少し、もう少し。



     逸る気持ちがベルトルトのペダルを踏む足を余計に、力ませた。
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