三途の彼氏は可愛い彼氏「何やってる!ひ、卑怯だぞ1人に大勢なんて……!!!」
16の時だった。授業をサボり、私服でウロウロしていた。1日ゲーセンに行ったり、自分の隊の人間とフラフラし気付けば東卍のシマから離れた場所を散策していた。夕方、ちょうど1人になった時だった。東卍をマイキーをバカにした声が聞こえた。
瞬間、頭に血が登り気付いたら喧嘩。
全員ボコボコにしたのは言うまでもない。流石に人数が多く、1人では体力の限界だった。逃げたやつを追う気にもなれず、見逃す選択肢しかなく、きっと誰か連れてくると予想しその場を早く離れる事にした 。
読みは良かったがアイツらの縄張り。道が分からず待ち伏せされた結果、年上を引き連れたソイツらに囲まれリンチされる。
何人かはノシテやったが多勢に無勢とは今の事だ。数発良いのを貰い、流石にキツイと思っていた時、怯えつつも勇気を振り絞ったガキの声がする。
これまでも何人か大人が通ったが皆馬鹿なヤンキーの喧嘩だと見て見ぬふり。野良猫の縄張り争い程度にしか思ってないんだろう。
「見せもんじゃねーぞ!!」
「なんだチビ助!てめぇもコイツらの仲間ならタダじゃおかねーぞ!」
偽善心で声をかけて逃げてくやつもたまにいるが、大抵凄まれ逃げていく。良くて警察に通報だ。見れば線も体格も細く小さいガキ。直ぐに逃げて行くだろう。
「うっ……うるせー!おっおれが相手だー!!!」
それからサンドバッグが2つ。数が増えたおかげで暴行の手が緩まった。そのガキは立ち塞がるようになってボコられたお陰でもあるが。今の自分よりもボロ雑巾の様な姿。それでも尚、立ち上がる姿とサイレンの音にビビったゴミは逃げていった。
「これに懲りたらもう二度とここらを彷徨くんじゃねぇぞガキども!!」
リーダー格に唾を吐きかけられる。次に会ったらコイツを絶対殺そうと顔を覚えた。
「君……動ける……?ここ、とりあえず離れよう……。俺らが使ってる溜まり場が近くにあるから」
「……っく……うっせぇ……触んじゃねぇ……1人で帰れる。余計なことすんな……」
「元気そうで、良かったっす……!」
守り方も知らないのかボコボコの顔がニコリと笑った。ダサい髪型のガキ。平凡そのものなのに、その笑顔を見たら何故な心臓がおかしくなった。
「肩……腕回して……。それじゃいくよ」
人気のない草やツタで覆われ、放置された民家に連れて行かれる。漫画やお菓子や飲み終わった缶にペットボトルが乱雑に放置され、汚さがより際立つ。
「一応消毒薬はあるから!確か前に買ったジュースが……あったあった!はい!オレンジかリンゴ。どっちがいい?でも君あんな大人数に立ち向かって凄いよ!!俺、タケミチ」
「……普段ならあんな奴らに負けねぇ……。あいつら……待ち伏せしやがって……!!春千夜……リンゴ……」
どうぞ、と渡された。本当は水が良かったが、わがままは言えない。
「春千夜さんっていうだ。よろしく!」
また人懐っこい笑顔に心臓が変になる。
タケミチは一方的に話してくる。隠しているが、どうやらどっかのチームに入ってるが、パシられていようだった。
全身の疲労感もましになり、携帯が生きてるか確認するとちゃんと動く。とりあえず自分の隊で直ぐに動けそうなやつ数名にメールを入れておいた。
「春千夜さん、先にそんな沢山ぶっ飛ばしたんだ?!すっげー!どうやったら喧嘩強くなるんすか?」
「……んなの知らねぇ。お前が向いてねぇんだよ……」
「あはは!そうかも……。女の子の春千夜さんに言われると……そうなんだろつなって……。でも、抜けるなんて……出来ないよ……」
「あ”?!なんつった……?」
「?抜けられないって……だってキヨマサくん……」
「そんなことじゃねぇ!女っつったか?!オレは男だ!!」
「えええー!?ご、ごめん!!あんまり顔が綺麗だし!髪もまつ毛も長かったから……!」
「巫山戯んなオラ!」
ヘッドロックをし、頭をグリグリ、頬もつねる。
「いただだっ!い”だい”っす!!ごめんなひゃい……!!」
「女だと思って寄ってやがったのか?!クソ気色悪ぃ!!」
無性に腹が立った。女に間違われる事は多いが、コイツに間違われるのは許せない。
「ちっ……違います!!そんなんじゃ……!例え春千夜くんが男だって、大人だったとしても、リンチされてたら同じことしてるよ……!!」
それを聞いた瞬間、心のモヤモヤが無くなった。
バイブと着信の点滅ランプがカラフルに光る。
「……チッ……世話になった……この借りは今度返す……」
「えっ?!もう行っちゃうの?!もっと休めた方が……その、お、怒んないでよ……!」
「もういい……知り合いが迎えに来たって連絡ついたんだよ。着いてくんなよ……お前……勘違いされてボコられたくねぇだろ……」
タケミチには東卍のメンバーだと何となく知られたくなかった。隊のヤツも話が通じるから説明すればきっとマイキーにまで紹介されるだろう。でも、それが嫌だった。
「あはは……、流石に今日はもうこれ以上やられたら死んじゃうかな……?」
「ヘドロ、お前向いてねぇからとっととチーム抜けろよ!話なら俺がつけてやるから」
「えっ!ヘドロ?!俺の事……?!ちょ……はるちよくん……!」
「着いてきたらぶっ殺すぞ!」
「……。ありがとー春千夜くーん!」
手を振るタケミチに見送られ、何故か後ろ髪引かれつつも連絡してきたやつに電話をする。
少し離れた道沿いにいるらしい。何人かのバイクが停車しているのが見え、そこへ駆け寄る。
「三途さん……!大丈夫でしたか?!ソイツらシメに行きましょう……!!!」
「許せねぇ……!!」
「うっせぇ。マイキーんとこ行くぞ」
集会所に向かった。
タンデムシートに体を預け、タケミチの連絡先を交換しなかったが、きっとこの溜まり場に行けば会えるとこの時は思っていた。
「男前になったな三途」
ドラケンとバジが笑ってくる。
「帰りに年上連れて待ち伏せしてやがった……でなけりゃ負けてねぇ!」
「流石東卍の暴れ馬」
からかわれつつも皆、東卍をバカにされた事、卑怯な手を使った事に腹を立てている。ドラケンの目の中は笑っていない。
「三途、無事に戻ってきてよかったな。どうやって切り抜けたんだ?」
マイキーがお疲れさん、と労ってくれる。普段なら正直に言うが、タケミチの笑顔が脳裏に浮かぶ。
「……誰かポリに通報したみたいで、それにビビって逃げていった……」
嘘はついていない。端的に結果を報告した。
「ははは!三途もポリに助けられる日が来るなんてな!捕まんなくてよかったよ。で、三途。いつお礼しに行くんだ?」
「そんなの決まってる……、明日だ……!」
周りも唸り、翌日お礼は倍で返しておく。
そこから直ぐにタケミチ達の溜まり場へ行ったが、あの日のまま誰も来ていない状態が続いた。
▫
「そういや、東卍の名前使って喧嘩賭博してるらしいぜ」
そんな噂を聞いたのはしばらくたった頃。
名前も上がってこないような雑魚が、最近カツアゲや喧嘩に東卍の名前を使う。そんな輩が増えていた。
「どうでもいい」
率直に言って、どうでもよかった。
マイキーさえいれば、マイキーさえ貶されなければ、東卍の名前をいくら使おうが気にしない。
それより、あの日に会ったタケミチの所属しているチームがどこなのかが気になる。
あの地域のチームを総当りしてみたが、それらしいのを見つけたり、知ってるやつがいなかった。
あの日以降会えていない。
何度も溜まり場に行ってみても来ていないのか、時間が合わないのか、誰とも出会ったことがなかった。
今日はどこを当たるか考えていると騒がしい声が聞こえてきた。
「てめぇ負けてんじゃねぇ!!!」
「すっ……すみません……!!」
「こいつ最近手抜いてんじゃねぇ?」
「気合たんねーぞ!おめぇに賭けた金返せや!!」
「ごめんなさい……!すみません……!!」
話からきっとこいつらが喧嘩賭博の犯人だと分かる。嫌なところに出くわした。知らなかった事にして帰るかと思ったが、謝る声に聞き覚えがあった。
薮の奥で見にくいが、ダサい金髪が見える。
「てめぇ服脱げ……」
「えっ……」
「ズボン脱いでちんこ出せって言ってんだよ」
「な……なんでですか……」
「てめぇに足りねぇのはやる気だよ!ちんこ出した写真広められたくなかったらちょっとは気合入んだろ!!!おい、手伝ってやれ」
「許してくださいっ……次は勝ちますから……!!」」
ギャーギャー笑いながら1人に羽交い締めにされ、数人がかりで下半身が剥かれる。
「こいつまだ毛も生えてねぇー!」
「可愛いチンチンですねー」
「……うっ……やめてくださいっ……やめてください……!!!」
カシャカシャと携帯のカメラがなる音がして、タケミチの啜り泣く声がする。
「次は勝つ、次は勝つ、てめぇいつもそう言って負けてんだろう!!」
泣く声を聞いて、頭に血が上る。
「……お前ら、面白い事やってんな」
「あぁ?!誰だてめぇ!!!」
「めっちゃ可愛い顔してんじゃん!俺らと遊びたいんですかぁー?」
「は、るちよくん……!!」
羽交い締めでボロボロに泣いて、喧嘩賭博で殴られ腫れた顔した姿は、強姦されてるようにすら見える。
そう考えた瞬間から記憶がない。
「はるちよくん……春千夜くん……!みんな、皆死んじゃうよ……!」
腕にしがみつくタケミチを見て、ぴくりとも動かない連中を認識する。
「はぁー……はぁー……ヘドロ……?お前……、ズボン履け。あと、もうお前帰れ……」
「春千夜くん1人……置いてけないよぉ……!!」
さっき以上に泣いている。返り血で汚れた服と手を見て全部自分がやったのかと理解した。
「大丈夫だ、殺さねぇから……。あとは話つけるだけだ」
「でもっ……でもはるちよくん……!!」
「……また明日……。お前んとこの溜まり場……これ以上、なんもしねーって約束する」
「っ……約束です……!!指切りげんまん……!!!」
迷いつつも服を慌てて着て、指切りなんて幼稚な約束を取り付け、何度も振り返りながらタケミチは帰って行った。
倒れた奴らは、意識は無いが多分死んでない。動けないコイツらを放置し、あるものを買いに行く。
戻ってきてもまだ眠っていた。日もだいぶ落ちて、あたりは暗い。起きる様子のないコイツらの携帯を探り出す。先程撮られたタケミチの写真を全部自分メールに添付送信してから画像を削除、携帯も逆折して一つ一つ壊していく。
なんでタケミチの写真を集めたのか分からなかった。でも、消すのは惜しいと思ったからだ。
こいつらの賭け金で買ったのか、盗ったのかは知らないが、デジカメなんていいモノも持ってる。中を見るとバカな連中の馬鹿な行為の写真と女とのハメ撮りが多く、最新はタケミチの姿。不要なのは後で消すがこれは貰っておく。
「っ……う……あ……?」
喧嘩してるはずなのに柔らかったタケミチの指が絡んだ小指をボーッと見ていると、1人がやっと起きた。
「お目覚めか、おい?いつまで待たせんだウスノロ、スクラップにすんぞゴミ」
「ひっ……!あっ……ぅあっ」
怯えて逃げようとするが、痛くて動けないようだ。
「他の奴らも叩き起こせ。まぁ、起きても起きなくてもいいから、これでそいつらの腹に名前かけ。名前書いて、服脱がせろ」
さっき買ってきた油性マーカーを投げて渡す。
「か……勘弁してください……」
震えた声で懇願してくるが、そんなの知らない。
「あぁ?勘弁ってなんだぁ!?東京卍會 伍番隊副隊長の俺の言うことが聞けねぇのか?マジでスクラップだなぁ!!」
胸ぐらを掴み、拳を作ると壊れたように泣き出した。
「……と、とうまんの……ごばん……すんませんっ……すみません……!!やりますから……!!」
慌てて何人かを叩き起こし、言われた通りにやりだした。
「いい加減な事しても、どうなるか分かるよなぁ?」
「……は……い……。分かってます」
震える手でそいつらの腹名前が書かれ、下半身を裸にさせて順に携帯とデジカメで撮影していく。
こんなのを保存しておくなんてゲロでしかないが、タケミチの為なら仕方ない。
「二度とタケミチに関わんじゃねぇぞ?ちょっかい出してみろ。コイツが東京全部に回んぞ」
「関わりません!すんません……!!」
起きてるやつ全員下半身裸のまま土下座をさせ、それもデジカメに収めておく。
満足し、その足で集会所へ向かった。今日はまだほとんど集まってない。1人神社の端、あまり人目のつかない場所に座りグロいハメ撮り画像を次々消していく。
「デジカメとかいいもん持ってんな」
「貰った……」
バジが気付き声をかけてきた。三ツ谷とドラケンも気付き集まってくる。
「まさか……盗んだんじゃねぇよな……?」
「……んな事するか。喧嘩賭博やってるとこに、たまたま行っちまってシメた。その戦利品だ」
ドラケンは少し驚いたような、感心したような声を出す。
「お前そんなことしたのかよ?マイキー以外興味ねーんだと思ってたわ」
「……うるせぇー」
よし、あらかた消えたな、と操作したら突然表示された画像は名前が書かれた男の陰部。
「えっ……」
「お前……」
「……グロっ」
ドラケン、バジ、三ツ谷が息を飲むのがわかった。
「ちっ、チゲー!!これは、……これは訳あってだな……!!!」
「……なんも言わねぇけど……。東卍の名前で変なことすんなよ……」
「違うっつってんだろ三ツ谷!!!」
なんとも言えない視線に晒され、それ以降三途はケツで千人斬りしてる。やった男の名前とちんこを記録する性癖持ちと言う噂がずっと着いて回る原因となった。
翌日朝からタケミチの溜まり場で待っていると夕方やっとやって来た。
「おせぇドブ!」
「ドブ?!ヘドロの次はドブっすか?!いや、それより春千夜くん……大丈夫でしたか?!」
「大丈夫だから来てんだよ」
「でも……。相手……あの……東京卍會の奴らで……!だから……」
余程酷い目にあっていたのか、ビクビクと脅えている。
「話つけといた。お前もう関わんなくていい」
「春千夜くん……。東卍に手を出したら……お礼参りとか……そういうのが……」
「あー……。そういうの、俺は大丈夫だから気にすんな。そっちも話ついてる……。知り合いが東卍にいる」
話がついてるというより、東卍だから問題ないし、あれは粛清扱いになった。でもそれをタケミチには言えない。「春千夜くん!俺もやっぱり東卍入りたいっす!」なんて言われて、着いてこられたら嫌だ。
「ええっ……?!東卍で話通じる知り合いって、春千夜くんすごい……!!」
「すごくねぇ……。それよりお前の写真、消しといたぞ」
ポポっと頬が赤くなり、俯いてしまった。
「……っ……、その、……ありがとうございますっ!!!」
あいつらの携帯からは消したが、自分のメールと、貰ったデジカメの中にはあるから感謝されると変な気持ちになる。
「春千夜くんは……その、恩人です……!」
感動からか、恥ずかしさからか、目を潤ませるタケミチ。きっとこいつは元から泣き虫なんだろう。その泣き顔にまた心臓が痛くなる。
「……助けられた、借りを返しただけだ……」
「そんな……、俺あのときも春千夜くんを守れなかったし……。むしろ、 春千夜くんに助けて貰ったし……俺のヒーローっす!!何か、俺にできることがあったら言ってください!」
あぁ?!なら1発ヤラせろや!と出かける言葉を飲み込んだ。
「……っ、番号……番号交換しろ……」
「あ、ずっと連絡先知らなくて困ってたんです……!」
赤外線センサーで互いのアドレス交換を済ませた。名前を確かめるとフルネームは花垣武道らしい。やっと交換できて、何故か満足感がすごい。
「……これから、たまに遊べ……それでチャラ」
「え、……そんなことでいいんすか?」
「ん……」
「えへへへ……。嬉しい……!」
照れて喜ぶ顔を見て、またたまらない気持ちが湧く。それを消すようにタケミチの肩に腕を回した。
「ならカラオケ行くぞ」
「えー!?俺今金ないっす……」
「俺がだす。お前幾つだよ?」
「悪いですよ……!14です」
「2個下か……。お前の面倒位見てやる。俺が連絡したら即返せよ」
「えぇっ?!わ、分かりました春千夜先輩!」
「年下なんだから……甘えとけ。それと、その呼び方やめろ。今まで通りで呼べよヘドロ」
「ウッス……!春千夜くん!」
そうして、半年間は先輩後輩として交流を続け、タケミチの露出画像で抜ける事が分かり、抜くのが当たり前となったある日、ふとタケミチの事が好きなのだと気が付いた。
気が付けば行動は意外と早い。ずっとタケミチの側に彷徨く女がいて、本人は気付いていないが、それといい感じの雰囲気だということを話から察していた。ツーリングで来た海で、そんな女よりも先に告っておく。
「おい、ドブス……。お前……に惚れた……!付き合え……!!」
「えええー?!春千夜くん……、そこは付き合ってもらえませんか?じゃないんですか?!」
「うっせー!付き合うんだろうな?!置いて帰んぞ……!!」
「拒否権ないやつじゃないっすか……?!もう、決定されてるなら、聞かないくても……あぁーもう。……その、喧嘩賭博から助けてくれた時から……、気になってました……。その、よろしく……お願いします……!」
「……へ……どろ!!!」
感極まるとはこの事だろう。目の前のタケミチを強く抱きしめると、同じように抱きしめ返してくれた。そこからお付き合いが始まった。
まず、付き合ってからしたのはタケミチのお迎えだ。自慢ではないが、この美貌に勝てる女はそんなにいない。あえて中性的な服を選び、校門の前でタケミチを待つ。生徒たちの視線がすごい。
「あれ!?春千夜くん……!どうしたんですか?」
「……迎えに来たんだろ、ヘドロ……」
タケミチの隣に立つホクロの女が驚いた顔をしている。こいつがタケミチの周りに彷徨く女だとすぐにわかった。悔しさの混じった目で見られたら誰だってわかるだろう。わざとらしくタケミチの腕に腕を絡めてニコリと笑って挨拶する。
「この子がヒナって子か?初めまして、こいつの”恋人”の春千夜です」
「ちょっ……春千夜くん……!は、恥ずかしいよ……!!」
「……こ、んにちは……。タケミチくん……恋人……出来たんだね……。ヒナ、知らなかった……」
「えっと……最近付き合ったんだ……!」
「もう行くぞタケミチ」
「あ、うん!ごめんねヒナ!また明日!!」
なかなか度胸の座った女だった。目で絶対に負けないと語っていた。こっちだって、タケミチを手放すわけない。
「あの、春千夜くんどこ行くんすか?」
「ツーリング。……夜景、見せてやる……」
「春千夜くんとのツーリング好きっす!」
「おう」
「今日はなんだか普段と違いますね?春千夜くんは何着ても似合ってます」
ニコニコ顔に思わず手が動き頭を撫でて、キスをする。
わっ!と周りから声が上がった。恋は早い者勝ちだ。少し順番が違えばこうは出来なかった。
「その……ひ、人が……学校の……あの!」
何度も何度もキスをしてるが、未だなれないらしい。赤く照れる顔があまりに可愛いく、タケミチ用のメットを強引に被らせる。この顔は俺だけが知ってればいい。
「痛たた!!は、春千夜くん!イタイっす!!」
「カスが、早くメット被れ。しっかり捕まってろよ?」
「は、はい!」
後日、溝中だというやつに話を聞いたら年上のバイカー女と付き合ってる、ダサいのがいると広がっているらしい。ダサいなら タケミチに違いない。計画通りだ。
▫
その日は珍しく学校に行っていた。出席日数がやばい。成績は問題ないが、出席日数はどうにもならない以上行かないという選択肢が無かった。
『今日春千夜くんは学校?』
タケミチからメールが来て、すぐにそうだと返信をする。
タケミチの溝中と、通う高校は距離が少しばかし離れている。近かったらなぁ、なんてことを最近思ったりする。
「春千夜くん、一緒に帰ろう?ツーリング連れてってよぉ」
「ハルくん帰りクレープ食べ行こうよ」
「それよりカラオケ行こう春くん」
「行かねー」
弁当を食べていると、ギャルが群れだしめんどくさい。全員数度寝てるし、同時にしたことがある。
いつもは蘭と竜胆の双子も混ざっているし、こういう誘いはアイツらが乗るので無視していいが、今日はアイツらがサボっていて、タイミングの悪いやつだと思った。
はる様とか春千夜くんとか春くんとかうるさくて仕方ない。
タケミチ専用に設定してる青と緑のライトが光る。
『いつも裏門から出ます?正門?』
変なメールがくる。意味不明だが裏門とだけ送っておいた。
帰りもずっとヤリマンのクソギャルに囲まれて鬱陶しい。
裏門の近くに行くと、少し騒がしいかった。
「てめぇなんだぁ?!どこ中じゃ!」
「喧嘩でもふっかけにきたのか?」
「誤解です……!その、人を待ってるだけで……!!」
泣きそうな声と、チラリと見えた制服でまさか!と思って駆け寄ると、やはりタケミチだった。
「何してんだヘドロ!」
「あぁ~!は……はるちよくんぅ~!」
怯えた子犬は囲まれていた人垣から飛び出し、駆け寄ってくる。
「三途さん……ソイツ三途さんの知り合いっすか……?」
タケミチを詰めてた男が青いを通り越して白くなった顔で聞いてくる。
「……そうだけど。コイツになんかしたか?」
「してねぇっす……!すんません!!」
全員が頭を下げる。
タケミチに本当に?と目で問えば、あたふた答える。
「俺が、こんな格好で彷徨いてたのが原因なんで……!何もされてないです……!!」
「もう行っていいぞ。なんでヘドロがこんな所いるんだよ……」
そいつらは失礼します!と慌てて帰っていった。
「あ、そのぉ~春千夜くんを驚かそうと思って!この間、学校来てくれたの嬉しかったから……その俺もしたいなぁ?って……ごめんなさい……」
萎れた耳としっぽの幻覚が見えてきそうだ。嬉しくないわけない。驚いたし、めんどくさい学校に1日いて良かったとすら思えた。
「ビビらせんな……。ここ、ヤンキー多いんだよ。お前絡まれやすいから……心配すんだろ」
「ごめんなさい……」
「……もう絡まれねぇように言っとくから……また来いよ……。でもちゃんとこれからは連絡しろ」
「っ!は、はい!」
嬉しそうに返事をするタケミチに、間違いなく耳としっぽが見えた。
「はるちよぉ~?その子誰?そんなんほっといてカラオケいこーよぉー」
「ハルくんのパシリ?」
「急に春が走り出すから驚くじゃん!」
忘れていた。まだクソギャルがいたらしい。
「はぁ?うぜぇよヤリマンクソビッチ。お前らイカくせェんだよ」
全員ヤッた女だ。タケミチにこんな奴らと付き合いがあったと思われたくない。
「はぁ?!ふざけんなクソ野郎!!」
「ちょーしのんなカマ野郎!キメェ!!もう行こう!!」
「キメェのはお前らの顔だクソアマ!!」
サイテー!!と口々言い散ってくれた。下手な事を口走るようなら、女に手を出さないというタブーを侵すところだった。
「カス行くぞ」
「あ……うん」
少しでも早く学校から離れるため、いつもよりお大股で歩く。
「あの!春千夜くんって学校で番張ってるんすか?!」
後ろから追ってくるタケミチが質問して来た。
「……張ってねぇ……。灰谷って双子がやってる。黄色と黒の変な髪色した三つ編みとカラフルな頭だから近寄んなよあいつら、マジで頭おかしい奴で道端に立ってるだけで殴ってくるからな」
嘘だ。張ってる。灰谷兄弟とはチームという意味でもそう言う意味でも敵対してる。まぁ、幼なじみでもあるからこそ、学校ではそんなに揉めてはない。
「えっ、そんなやばい奴がいるんですか……?春千夜くんの学校やばい……。しかも春千夜くんより強いなんて……」
「俺の方が強いに決まってんだろ!そんなくだらないことしてねぇだけだ」
あの双子より弱いなんてことは無い。サシでも2人同時でもぶっ殺せる。タケミチには特にその辺は念押ししておいた。
「そっか、春千夜くんはそんなタイプじゃないっすもんね!……あー……。その、さっきの女の子って、春千夜くんの……元カノ……、そのまさか今カノ……なーんて……わっ!」
足を急に止めたため、タケミチがぶつかる。
「っざけんな!あんな汚ぇのと付き合うけねぇ!!それに、お前と付き合ってんだろ!!」
怒鳴りながら振り返ると、タケミチは瞳に涙を沢山溜めている。
「か、可愛かったし……、ハルくんハルくんって……呼んでたから……春千夜くんかっこいいし……綺麗だし……強いのに……、俺なんか、……俺なんか……うっ、ふぅっ……!」
少し暗い路地に腕を掴み連れて行き、顔を掴んで何度も深いキスをしてやる。
「んっ、ンンゥ……はるちよくん……はるちよくん……」
「ヘドロ……嫉妬してもいい……でもな、俺を疑うな……ヘドロ……ヘドロ……」
「はァ……んっ、春千夜くん……ごめっごめんね……」
「うるせぇカス……」
何分そうしていたか、分からない。泣き止み、強く抱きしめてくるタケミチのアタマを何度も何度も撫でてやる。
「……俺……春千夜くんには嫉妬深かったみたいっす……女の子に囲まれて……ハルくんて呼ばれてるの見たら……不安で……」
シャツが涙で濡れて冷たい。今までこんなの汚いとしか思わなかったが、初めて見るタケミチの嫉妬心に満足したのか、タケミチだから特別なのかは判別できないが、嫌ではなかった。
「お前だってそう呼べばいいだろう」
「じゃぁ……、千夜くんって、呼んでいいっすか……?」
「千夜?まぁいいけど……」
「だって、みんな春くんって……俺だけの呼び方にしたくて、千夜くん……ダメ?」
イタズラっぽく見上げる顔に心臓が鷲掴みされる。
「……可愛いやつ……」
「えへへ、千夜くん、千夜くん……」
「今日……家こい……」
「うん……いく……お泊まりしていい?」
「んな事きくな、当たり前だろ」
こんなに可愛い恋人を目の前に、帰せるわけない。
▫
それから18になる。お付き合いは順調。問題は東卍を中心に起きた数々の事件。途中バジが刺されたり、ドラケンが刺されたり、多くのトラブルはあったがどちらも致命傷をハズレた。しかも執刀は運良く名医。難しい状況だったが命を取り留め、幾重にも重なった奇跡で障害すら残っていない。それもこれも、勝利の女神である俺のタケミチのおかげだと思っている。
大きな抗争が起きる度にタケミチは「千夜くんが無事に帰って来ますように……、それに千夜くんの大切な人がいつも通り過ごせますように」と言ってくれるのだ。抗争の事、東卍の事は一言も言ってないのに何を感じとっているのだろうか。
マイキーにも東卍の誰にも相変わらずタケミチと付き合ってることは言っていない。
ゆっくり、ゆっくり時間をかけて思い出を作り、愛して来た。そうして、今日タケミチとセックスする。
まだ14のタケミチとはずっと触り合いと後ろの開発のみ。アナルセックスはやはり負担と危険が高いのと、怖がらせたくなかった。
本当ならもう少し待ちたかったが、もう引き伸ばすのは無理だった。タケミチも16。いつも素股で終わると少し物足りなさそうな顔をするのも我慢の限界の要因。
「今日最後までヤルから。ヘドロいいよな……?」
「えっ!は、はいっ!!!」
17の時に一人暮らしを始め、半同棲状態。一緒に学校の途中まで登校する日々ももう終わる。
後わずかで学校も卒業だ。この後の進路は既に決まっている。
「準備……できてます……!!」
何度も触りあってるのに、ガチガチに緊張してるのが面白い。体を軽く押すと素直にベッドに倒れ、恥ずかしそうに足を広げ、ずっと開発し続けたそこを指で広げる姿の破壊力は凄まじい。
「春千夜くん……はやく、来て……」
ドロっとローションが零れた。
「タケミチ……オレの……俺のタケミチ……」
「千夜くん、大好き」
その一夜は本当に素晴らしいものだった。恥ずかし話、脱童貞したてのガキみたいにガッツいしまった。
動く度に善がり、縋り、背に爪を立て、必死にしがみついて名前を呼ぶ姿を記憶に焼き付け、スヤスヤ横で眠る姿も目にやきつる。
翌朝起きた、少し照れた顔のタケミチに口を開く。
「……お前もういいわ。男ってやっぱだるいし、もう家来んな」
「え……ち、千夜くん……?どうしたの?」
「だから、お前にだいぶ前から飽きて別れたかったんだよ。散々待って、期待したけどケツってやっぱ微妙だったわ……。もういい。この家も今月で契約切ってるから必要なもんは持って出てけよ」
「待ってよ……!千夜くん……!!俺、上手にできなかった……?ごめん、ごめん千夜くん……もっと上手になるから……」
「あーうぜぇ。ピーピー泣くのも、ずっとうぜぇと思ってたんだよ!飯も不味いし、金も持ってねぇ。お前の顔見ると最近気が滅入るんだよ!!」
そう言ってタケミチが初めてバイトで買ってプレゼントしてくれた安い腕時計をゴミ箱に投げ入れ、ごめん、嫌いにならないでという声を背に、泣くタケミチを置いて家を出る。
そう、進路は決まってる。マイキーを頭に置いた東京卍會は、昔のガキの夢とは違うの方向へ進んでいる。どこからボタンを掛け違えたのか、反社会勢力に近い存在になっていた。近いうち、ヤクザと同じになるだろう。
マイキーの手足になるのだ。タケミチを側に置けない。今までだってタケミチが何度か襲われたことがあった。通り魔、スリという形で警察からは処理されたが、東京卍會三途春千夜の側にいる使いっ走りとして認知されだしていた。
もうこの家にも戻らない。この日でタケミチとの関係全てを精算する。
何度も携帯に着信とメールが来るがそのまま汚れた河川に投げ捨てる。
その後、タケミチがどうなったかは知らない。
誰かに頼んで下手に監視をつければ、いつかは誰かにみつかる。なにより、下手に顔をみたら手放せないのが分かっている。1人手にかけたあの瞬間から、もうタケミチと過ごせる時間に限りがあることを悟った。ずっと引き伸ばして、引き伸ばして、限界ギリギリまで過ごせた。
それでいい。
きっと直ぐにタケミチなんて忘れる。いい女なんてこの世にごまんと存在している。
それからすぐに薬に溺れた。
▫