石乙散文 冷たい空気から逃げるように、ぷちゃんとお湯の中に入る。少し熱いくらいのお湯は、冷めた身体をじんわりと温めて、ふぅとひとつ息を吐いた。
その直後、後ろから「さむっ」という声が聞こえたかと思えば、すぐ隣でざぶんとお湯が盛大に跳ねた。それは見事に自分の顔にもお湯を浴びせてきて、思わず垂れた前髪を掻き上げた。
「……石流さん」
「はぁ~~~やっぱり風呂はいつの時代でも最高だなぁ~~」
こちらの声掛けに、しかし相手はそんな声を漏らすだけで「もう……」と思いながら顔を逸らした。
すると隣に飛び込んできた彼、石流が「ん?」と何かに気付いたようにこちらを見てきた。
「なんだ?なんか言ったか乙骨?」
「ナンデモナイデス」
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