石乙♀散文 初めて乙骨と出会った時は、ぺったんこの胸だと思っていた。全裸で術式により局部を隠していた烏鷺がそこそこいい胸をしていたから尚のことそう思ったのかもしれない。とはいえ乙骨は性別関係なく自分を圧倒してみせた。それだけで自分は好感を持ったし、SWEETなやつだと気に入った。
だから、乙骨が自分の監視役として常に一緒にいるようになってから、実は乙骨は自身の胸にサラシをぐるぐるに巻いて抑えていて、それを解くとぽにゅんとかなり豊満な胸を持っていることを知った。
初めてシャツ一枚の私服姿を見た時は、目玉が飛び出るかと思った。そんなぽよぽよのおっぱいを晒したまま、ベッドでごろんと横になるのである。これはあれか?襲っていいってことなのか?と何度自問したことか。
ただでさえ年頃の女とそこそこ年齢のいった男が同じ部屋で寝食を共にするとか有り得ないと思うのだ。ここは一応学校という枠組みで、乙骨はそこの生徒なんだよな?正気か?と思ったが、受肉体は人間として扱われていないからこその体制らしい。それにしたってそれにしたってだろ。
『まぁ、憂太に手を出したらそのまま消し炭にするから覚悟しておいてね』
目隠し教師にはそう釘を刺されていたが、正直、自分は一度死んだ身で、心残りも乙骨のおかげで昇華して、もういつ死んでも構わない気持ちでいるのだ。だったら死ぬ前に手を出しちまうのもありだなぁなんて思ってしまう部分もあり。
そんな狼を傍に置きながら、乙骨は今宵もベッドの上で無防備に寝ていた。
身体に掛かった毛布の隙間からは、大きな胸の谷間が見えて少し覗き込んだら、先端まで見えてしまうのでは?と思えるほどだ。
一度トイレに立ち、部屋に戻ってきて、そんな乙骨に気付いた石流は、そのままぼんやりとベッドサイドから乙骨の様子を見つめていた。
(…コイツの胸、さわってみてぇな…絶対マシュマロみたいに柔らかいんだろうな…)
その柔らかさを堪能したら、そしたら意地悪く先端を摘まんでやりたい。乙骨はどんな顔をするだろう、嫌そうに顔を顰めるか、それもと気持ちよさそうに頬を染めるのか。
(そこを舐めてやったら、どうなるかな?俺の舌はわりとざらっとしてるし、敏感なところ舐めてやれば、めちゃくちゃ反応しそうだよな…)
それはどんな反応だろう、見てみたい、試してみたい。
(胸だけじゃねぇ…そのまま、こいつの全部を…)
身を乗り出し、寝ている乙骨に覆い被さる。はぁはぁと荒い息をしていても、乙骨は目を覚まさなかった。そのままそろりと、毛布の下のその身体に触れようとした──その時。
「ん……」
乙骨が僅かに呻いたと思ったら、口に出した言葉は。
「…いしごおり、さん……」
石流の手がピタリと止まった。乙骨は変わらずすよすよと穏やかに寝ている。その顔が嬉しそうで幸せそうで、そんな表情で名前を呼ばれて、もう、無理だと思った。
(あ~~~~~~~)
石流はバフリと顔をマットレスに押し付けた。
(無理だろ……こんなん……そんな風に名前を呼ばれて、無理矢理なんて、手を出せるかよ…)
我ながらバカだと思うのだ。仮に乙骨が自分のことを好いているのだとしたら、構わず抱いてしまえばいいと思う。しかし、単純に乙骨が自分のことを慕ってくれているだけだとしたら?ここで手を出すのは、乙骨の気持ちを踏みにじることになるのでは?
(しかも……そうなったら俺は確実に処分される。その処分を、乙骨がすることになるかもしれない)
自分が好きな相手を、自分のせいで傷つけて、更に殺させるなんて最悪だ。
そう考えて、ふと気付く、そうか、自分は乙骨のことが好きなのか、と。
(身体目当てじゃねぇのか……我ながら意外)
そう思いながら、改めて乙骨の顔を見る。黒髪を垂らし、穏やかな表情で寝息を刻んでいる。その顔を見ながら、好きだなぁと思う。
そのままキスしてしまいたい気持ちをぐっとこらえて、せめてこれくらいはいいだろと思いながら、石流はベッドに投げ出された手を取り、その甲にちゅっと口づけた。
石流が自分の寝床にもどったあと、寝ているはずの乙骨の頬が僅かに色づいたのは、ここだけの話だ。