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    haiiro1714

    @haiiro1714

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    haiiro1714

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    誕生日にこっそり入籍するヌヴィレットとフリーナ、そしてフォカロルスに関するお祝いのお話。 フォカロルスは友人から案を頂きました。

    寿ぐ「今日は楽しかったなぁ」
     白いネグリジェを纏ったフリーナはベッドの上から贈り物で足の踏み場もなくなった部屋を見回して微笑んだ。まだ最後の一人と会えていないがいつものことだ。誕生日の余韻を味わいながら、フリーナは部屋の照明をそっと落とした。

     旅人、パイモン、ナヴィア、クロリンデ、リネとリネット……フォンテーヌ廷を一歩進むごとに呼び止められていたフリーナの腕の中はプレゼントで埋め尽くされていった。あっちでよたよた、こっちでよたよた、前が見えないほどに大きく伸びたタワーを頼りない足取りで運ぶフリーナの視界が不意に明るくなった。
    「手伝おう」
     フリーナの視界を塞いでいたプレゼントを奪ったのは彼女の天敵とも言える女性――ファトゥスの第四位『召使』こと、アルレッキーノだった。
    「そ、そんな、悪いよ……」
     慌てて彼女から取り返そうとするも、アルレッキーノはフリーナの腕をひょいひょいと避けてしまい、取り返すことは叶わなかった。渋々、フリーナは彼女の後を追いかける。
     
    「貴女の家はこちらであっているか?」
     アルレッキーノはフリーナの家の前で立ち止まると視線を寄越した。フリーナが頷きながら懐から鍵を取り出す。鍵穴に差し込み、ドアノブを捻ってドアを開ければアルレッキーノがフリーナに持っていたプレゼントの山を手渡した。それから彼女はやるべきことは終わった、とばかりに踵を返して歩き出す。
    「あ……あっ、ちょっと待って!」
     フリーナは玄関の床にプレゼントを置くと小走りで彼女の背を追った。
    「まだ何か?」
     ゆっくりとアルレッキーノが振り返る。赤い瞳に射抜かれてフリーナは身を竦ませた。はくはくと暫く口を動かしたあと、ようやく意を決したように息を吸い込んだ。
    「ありがとう! その、手伝ってくれて、助かったよ……!」
     フリーナの中で彼女への恐怖心が消えたわけではない。だからといって礼を言わないほど薄情ではなかった。フリーナから礼を言われると思っていなかったアルレッキーノは僅かに瞠目した後、目を細めた。
    「少しでも力になれたのなら光栄だ。誕生日おめでとう、フリーナ殿」
     彼女はそれだけ言うと颯爽とその場を後にした。その様子をぽかんと見ていたフリーナは祝いの言葉をくれたアルレッキーノに礼の言葉を返さなかったことを彼女の背が完全に見えなくなってから思い出したのだった。

     こんこん、という窓をノックする音でフリーナは目蓋を開けた。どうやら、回想に夢中になっていたらしい。
    「鍵なら開いてるよ、入っておいで」
     フリーナの言葉の数秒後、窓がひとりでに開き、一匹の猫が入ってきた。
    「にゃあ」
     銀色の毛並みに朝焼けのような双眸を持つ猫はフリーナの前まで来ると光を纏いながら人の形を取った。
    「こんばんは、フリーナ殿。誕生日おめでとう」
     猫――ヌヴィレットはフリーナに近づくと花束とケーキの入った白い箱を手渡した。
    「こんばんは、ヌヴィレット。今年もありがとう」
     時刻は夜の十時を少し過ぎた頃。ヌヴィレットとフリーナ、二人だけの誕生日パーティーが幕を開けた。

    「それで、召使が僕の荷物を持ってくれたんだ。親切なところもあるんだね」
     フリーナがリオセスリから贈られた紅茶の缶を開ける。
     薬缶の沸き立つお湯をポットとカップに注いで捨てると、茶葉を入れて、上から湯を注ぎ込んだ。慣れた手つきで砂時計をひっくり返すとトレーに乗せ、カバーをかけてヌヴィレットの待つテーブルへと運ぶ。
    「水についての文句は受け付けないよ。ここには普通の水しかないからね」
    「勿論、承知の上だ」
    「そう。ならいいけど。そっちの準備は――うん、ばっちりみたいだね」
     青いテーブルクロスが掛けられたテーブルの上にはヌヴィレットが持ってきた花束が生けられ、皿には小さなケーキが行儀よく載っていた。フリーナが茶の準備をしている間にヌヴィレットが整えてくれたのだろう。
     テーブルにトレーを置くとヌヴィレットが椅子を引き、その上に腰を下ろすと彼も向かい合わせの席に腰掛けた。
     さらりと最後の砂が落ちるのを見届けたフリーナはポットカバーを外すと紅茶をカップへと注ぎ入れた。部屋の中が暖かな紅茶の香りで満たされる。
    「じゃあ頂こうか」
    「では、君の誕生を祝して……誕生日おめでとう、フリーナ殿」
     グラスの代わりにティーカップを持ち上げて、一口啜る。
    「甘い……オータムナル(秋摘み紅茶)かな」
    「ああ。リオセスリ殿の紅茶の審美眼は確かなものだ。過剰摂取の傾向はあるが」
    「前に貰ったお茶も悪くない味だったしね。キミが言うなら相当なものなんだろう」
     フリーナが紅茶に舌鼓を打つ。雨季が近づいて来ていることもあり、温かな紅茶は冷えた身体を芯から暖めてくれる。
    「今年の贈り物なのだが……」
     ヌヴィレットが懐を探る。贈り物ならケーキと花束を貰った筈だ。首を傾げるフリーナの目の前にビロード張りの青い箱が置かれた。
    「私と結婚してくれないだろうか」
     ほう、結婚……結婚かぁ……。
    「あはは、ヌヴィレットも冗談が上手くなったね。それで、誰と誰が結婚するって?」
    「君と私だが……?」
    「ふーん、そう。僕とヌヴィレットがね〜……な、な、なんだってぇ!?」
    「そう、何度も言われると少し照れてしまうな……」
     ヌヴィレットは全く思っていなそうな顔で腕を組んだ。
    「待て待て待て! キミ、もう少し考えなよ!? 結婚だぞ!? 生涯を共にするんだぞ!?」
     ヌヴィレットが眉間に皺を寄せる。なんで、キミがそんな顔をするんだ。寧ろ、僕がしたいくらいだ。
    「この一年間、考えに考え抜いて出した結論だ。君が神座を降り、人の身になったとき、君と過ごしてきた数百年という時間が悠久に続くものではなくなったのだと恐れを抱いた。そして、君と少しでも長く共に在るためには、どうしたらいいのか……それをずっと考えていた」
    「それで結婚?」
     フリーナの呆気に取られた声にヌヴィレットが頷いた。
    「ああ。婚姻とは契約だ。だからこそ、その強制力は計り知れない。だが、私は君のこれからを縛ることに抵抗もある。もし、君がこれから先、誰かを好いたとして、その者と添い遂げたいと言われた時……恐らく正気ではいられないだろう……君が泣き喚こうともその手を離すことは不可能になる……誰の目にも止まらない……助けを求められもしないほど奥深くへと押し込めて……」
     もういいよ、とフリーナがヌヴィレットの言葉を遮った。
    「もういいんだよ、ヌヴィレット。キミがそんなに苦しむ必要はないんだ」
     フリーナが立ち上がり、ヌヴィレットの元へと向かうとその頭を掻き抱いた。
    「ありがとう。僕をそんなに好きで居てくれたんだね、ごめん。ずっと近くにいたのに気づけなくて」
     辛かっただろう、苦しかっただろうと思う。この数百年間、ヌヴィレットは一度だってフリーナに何も聞いては来なかった。例え、何か秘密を抱えていると気づいてはいても、フリーナが自ら吐露するまでは、と待ち続けてくれた。最後は、シナリオ通り秘密を暴くことになったとしても、ギリギリまで彼は沈黙を守っていた。これを愛と呼ばずに何と呼ぶのか、フリーナには分からない。ただ、彼の想いを受け止められるほどフリーナにはずっと余裕がなかった。予言のこと、秘密のこと――いつだってフリーナは自分のことばかりで。神を辞めて、水の娘に出会い、ようやく舵を切ったばかりのフリーナにとって、ヌヴィレットの想いは確かに重い。人と龍、種族という壁は大きく高く、だからこそ――――こんなにも愛おしい。
    「ヌヴィレット、顔を上げて?」
     優しい声でフリーナが呼びかけた。ヌヴィレットがゆっくりと顔を上げる。
    「不束な僕だけど……それでもいいかい? もし僕に失望してやっぱり返品で、なんて言われたって返品不可だからね」
     冗談めかしてフリーナが笑った。何処か悪戯っぽい顔で。ヌヴィレットが僅かに瞠目し、フリーナを抱き寄せた。
    「それはこちらの台詞だ……本当にいいのだな?」
     いいのか、だって?そんなの――
    「いいんだよ。だって僕はとっくに覚悟は出来ているんだから!」

     折角なら、式を挙げようよ――フリーナの提案にヌヴィレットは二つ返事で頷いた。招待客は、と問うたヌヴィレットにフリーナが首を振ってニヤリと笑った。折角ならどこまでバレずにやれるのか、そういうのも面白いだろう――? と。
    「証人はどうするのかね?」
     パレ・メルモニアで書類一式を揃えたヌヴィレットはフリーナに手を引かれて昇降機に乗り込んだ。
    「勿論、考えてあるよ。僕らの門出に相応しい――とっておきのキャストをね!」
     がこん、という音と僅かな振動の後、昇降機のドアが開く。巡水船の運航が終わった深夜のナヴィア線は人っ子一人居らず、しんと静まり返っていた。
    「君は水の上を歩けたよね?」
     フリーナが振り返り、ヌヴィレットに訪ねた。
    「ああ。だが、それと結婚式になんの関係があるのかね?」
    「多分、誰にも邪魔されずに目的地に着くには巡水船の航路を使うのが一番だと思うんだ。ほら、ここまでは魔物もやってこないだろう? それに人目に付きにくいしね……それに僕の知っている限りでは『夜の航路を歩いてはいけない』なんて法律、フォンテーヌにはないし」
    「確かに君の言う通りだが……」
    「確認は終わりだね。ほらほら、ボサッとしてると日付が変わっちゃうよ!」
     フリーナの神の目が輝き、二人の周りにサロンメンバーの三人が現れる。フリーナが恐る恐る水面へと歩を進めた。
    「ふぅ……まだ、ちょっとだけ緊張するんだ。あ、勘違いしないでくれよ? あくまで神の目に慣れてないっていうだけなんだからな」
    「なるほど、ではそういうことにしておこう」
     ヌヴィレットが頷けば「そういうことってなんだ、そういうことってぇ!」と言いながらフリーナが地団駄を踏んだ。
    「置いていくぞ」
     ヌヴィレットはフリーナを置いて歩きだす。後ろから「置いていくな!」という焦った声が聞こえて、ぱしゃぱしゃと水を踏む音が近づいて来た。
    「先ほどから疑問に思っていたのだが、それは何だ?」
     ヌヴィレットがフリーナのぱんぱんに膨れた鞄を指さした。フリーナは少し考えたあと、指を口の前で立てて「内緒」と頬を僅かに染めながら言った。
     二人はぽつぽつと話をしながら歩を進める。天を仰げば満天の星空でフリーナは息を呑んだ。
    「――――綺麗だ……」
    「あぁ……雨季の時期にこれほどの星が見られるとは……」
    「……祝福なのかもしれないね」
    「祝福?」
     ヌヴィレットが怪訝そうな顔でフリーナを見つめる。
    「きっと、僕らは上手くいくってこと!」
     フリーナはくるりと回るとヌヴィレットの手を取った。無邪気に笑いながら「早く、早く」とヌヴィレットを急かす。サロンメンバーの三人はそれを何処か楽しそうに眺めていた。
     ねえ、ヌヴィレット。例え、テイワットの星空が偽物であったとしても、キミと見たという真実があればそれで十分なんだ。

     フリーナとヌヴィレットは巡水船乗り場を離れ、道なりに進む。ナヴィア線を出発した時点で目的地は一つしかなかった。
    「着いたよ、僕らの式場に」
     ヌヴィレットとフリーナは人のいないルキナの泉を通り過ぎてエピクレシス歌劇場へと向かう。客席を通り越し、舞台に立ったところでフリーナがちょっと待ってて、と言って控室へと消えていった。
     待つこと数分。
    「じゃじゃ〜ん! どうだい? 少しは見違えただろう?」
     白いワンピースに白いシーツを被ったフリーナが控室から駆けてきた。
    「フリーナ殿、その姿で走っては――」
    「うわぁっ!?」
     ヌヴィレットの制止も虚しく、フリーナはシーツを踏んでバランスを崩した。目を瞑り、来たるべき衝撃に備える。
    「……?」
     いつまで経ってもやって来ない痛みを疑問に思い、フリーナはゆっくりと目を開けた。
    「あ、ありがとう……」
    「そのような格好をするのなら走るな。怪我をしたら元も子もない」
     ヌヴィレットがフリーナを抱き止め、そのまま、安堵したように息を吐き出した。ぎゅう、と強く抱きしめられてフリーナの体温が上昇する。
    「それで? 証人とは?」
    「あ、あぁ……そ、そうだったね!」
     パッとヌヴィレットを振り切ってフリーナが一歩後ろに飛び退いた。そして、物言いたげなヌヴィレットの視線には気づかないふりをして、諭示裁定カーディナルへとゆっくりと近づく。
    「『もうひとりの僕フォカロルス』に証人になってもらおうかなって。僕らの結婚式をするのなら、この上ないくらいぴったりの配役だろう?」
    「なるほど。確かに彼女ならば、私たちの証人に相応しい」
     それからヌヴィレットとフリーナは二人で式場の準備を始めた。とはいえ、演説台に婚姻届とペンを置き、指輪の入った箱を開いただけの簡素なものであったが。
     準備が整い、二人は諭示機の前で向かい合う。フリーナはシーツを深く被っていて、その顔は伺えない。
     フリーナが息を吸い込み、誓いの言葉を唱える。
    「新郎ヌヴィレットは、水神フォカロルスの名の下に、病める時も健やかなるときも、喜びの時も、悲しみの時も、新婦フリーナを愛し、敬い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
    「誓います」
     ヌヴィレットが答え、今度はヌヴィレットが誓いの言葉を唱える。
    「新婦フリーナは、水神フォカロルスの名の下に、病める時も健やかなるときも、喜びの時も、悲しみの時も、新郎ヌヴィレットを愛し、敬い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
    「誓います」
     二人が指輪を取り、フリーナが「では、新郎新婦。指輪の交換を」と言った。ヌヴィレットがフリーナの手を取ると指輪を薬指に嵌める。
    「すまない……少し大きかったようだ。後ほど新しいものを用意しよう……」
     ヌヴィレットが選んだ指輪はフリーナには少し大きく、指を少し下に向けるだけで落ちてしまいそうだ。フリーナは首を左右に振ると壊れ物でも扱うかのように静かに指輪に触れた。
    「ううん、いいよ。これが……これがいいんだ」
     ヌヴィレットは彼女の幸せそうな声に「そうか」と短く答えた。存在を主張するかのようにぼーん、ぼーん、と時計の鐘が鳴った。
    「……日付変わっちゃったね」
    「……そのようだな」
     二人は顔を見合わせ、くすくすと一頻り笑ったあと、
    「ほら、次はキミの番だよ」
     フリーナがヌヴィレットの手を取り、指輪を嵌める。こちらはヌヴィレットの指にすっぽりと収まった。
    「ふふっ……なんだかこそばゆいね」
     シーツの波間から頬を染めたフリーナが笑いかけた。ヌヴィレットも同意する。その優しげな眼差しにフリーナは恥ずかしくなって僅かに目を逸らした。
    「あー、あー、コホンッ……では、新郎新婦、誓いのキスを」
     フリーナがちょっと気取って告げる。ヌヴィレットの手がフリーナのシーツに伸びて、シーツがゆっくりと持ち上がる。
    「ちょっと緊張するな……」
    「私もだ……」
     二人の顔が近づき、唇が重なり合う。その後、ゆっくりと離れていった。次に二人は演説台に近づくとペンを手に取る。
     名前の欄に自身の名前を書き込み、最後にフリーナがフォカロルス、と証人の欄に書き入れた。フリーナは振り返って客席を向くと大きく息を吸い込んだ。
    「ここに一組の夫婦が生まれた。会場にいる者たちは盛大な拍手を!」
     よく通るフリーナの宣言にフリーナとヌヴィレット、それにサロンメンバーの三人が拍手をした。

     片付けを終え、後は帰るだけ、となった頃、フリーナがヌヴィレットに言った。
    「ねえ、ヌヴィレット。最後にちょっとだけ寄り道してもいいかい?」
    「それは構わないが……どこへ?」
    「すぐに分かるよ」

     フリーナに連れられ、やって来たのはエピクレシス歌劇場の奥深くの一室。こんなところがあったのか、と辺りを見回すヌヴィレットを追い越してフリーナが部屋の奥へと進む。掃除の行き届いていない室内は歩く度に埃が舞った。
    「けほっ……けほっ……今度、掃除しないとなぁ……」
     独り言を言いながら大きな布を掴むフリーナ。ヌヴィレットはその様子を後ろから静かに見守った。
    「遅くなってごめん。キミも誕生日だったのにね」
     大きな衣擦れの音を立てて布が下へと落ちる。そこにあったのは――
    「鏡……?」
     フリーナの背丈を有に超える大きな姿見がそこにはあった。
    「驚いただろう? ここは僕が生まれた場所なんだ。あ、いや、正確には僕が僕をフリーナと認識した場所、かな?」
     フリーナが鏡に触れる。五百年以上の時を見守ってきた鏡は腐食が進み、端の方は黒い染みのようなもので覆われ、全体的に曇っていた。
    「やっぱり、小まめに手入れはするべきだったね」
     フリーナは持ってきていた布で息を吹きかけながら拭いていく。多少、曇りが取れた後、小さな青い箱を鏡の前に置いた。
    「キミがどんな物を好むのか、実はあんまり知らないんだ……会ったのもたった一度だけだったしね。でも一生懸命、キミのことを考えて選んだんだ。だから、気に入ってくれたら嬉しいな――――お誕生日おめでとう、もうひとりの僕フォカロルス
     フリーナは鏡の前で座りこむと祈るように手を組んだ。
    「――――……ヌヴィレット?」
     ヌヴィレットも彼女に倣うように隣に並び、手を組むとフリーナの方を向いた。
    「私も一緒に祝わせてもらっても良いだろうか?」
     フリーナはヌヴィレットの言葉に微笑んだ。
    「ああ。勿論。一人より二人の方がきっと嬉しい。だってこの僕がそうなんだから」
     
     

    「じゃあね。ヌヴィレット」
    「ああ、フリーナ殿も」
     片付けを終え、フォンテーヌ廷へと戻ってきた二人は別れの挨拶をする。ヌヴィレットは来たときと同じように猫の姿になり、窓辺にちょこんと座っていた。
    「そんな顔をしないでくれ……これからはいつでも会えるのだから」
     ヌヴィレットが寂しそうなフリーナの顔に柔らかな肉球を押し当てた。
    「うん……そうだね。おやすみ、ヌヴィレット」
    「おやすみ、フリーナ殿」
     ヌヴィレットが窓から降りて姿が見えなくなるまで見送った。ぴゅう、と冷たい風が入り込みフリーナは震えながら窓を閉める。
    「今日はいい誕生日だったなぁ」
     とろとろと目蓋が重くなっていく。ゆっくりと意識を手放すフリーナの耳に「プレゼントありがとう。お誕生日おめでとう、フリーナ」という優しい声が聞こえた気がした。
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