「にゃー(疲れてそうだね、ヌヴィレット)」
「問題はない。いや、多少の疲れもあるが。」
眉間を揉む姿がやけに年季が入っていて人間らしさすら感じさせることにフリーナは嬉しくなった。
「にゃにゃ!(ふふん、素直でよろしい!)」
フリーナは待ってました!とばかりに机の上に仰向けになる。
「…何をしている?フリーナ殿。」
「にゃー!にゃ?(何って猫吸いだよ!猫吸い!知らないのかい?)」
疲れのせいか、頭痛までしてきたらしい。
今度は額を押さえる。
「にゃー、にゃ!(僕がたまに一緒に遊ぶ猫ちゃん達はお日様の匂いがしてとってもいい匂いなんだ!だから君もやってみなよ!)」
ね?と上目遣いで小首を傾げる子猫は可愛さを通り越してあざとさすらあった。
まず、第一に君は本来は猫じゃないだろう…と突っ込みたい気持ちになったが寸での所で飲み込む。
ごろごろと机の上で喉を鳴らす子猫。
まあ、彼女の言う通りにしてみてもいいだろう、と心底楽しそうなフリーナを両手で抱き上げる。
ヌヴィレットは心底疲れていたし、疲れから自棄になっていた。
「ふむ、では君の言う通りにしよう。」
「にゃ!(どうぞ!)」
ヌヴィレットの顔がフリーナに近付く。
近づいてきた顔を見て、あれ?僕、とんでもないことを言ったんじゃ…?と今更ながらに気づいた。
「にゃーーーー!(ヌヴィレット!ストップ!ストップ!)」
ぷにっとした肉球でヌヴィレットの鼻を受け止める。
「なんだ?」
僅かに不機嫌そうな顔をしてフリーナを睨めつけるヌヴィレット。
「にゃにゃ!(やっぱなし!なし!)」
器用に前足でバッテンを作るフリーナ。
どうやら、今更恥ずかしくなったらしい。だが、自棄になった水龍は止まらない。
「君がいいと言ったんだ。まさか君ともあろう者が約束を違える訳があるまい?」
挑発的に言ってやる。
フリーナの反応が手に取る様に分かった。
「にゃー!にゃー!にゃにゃ!(ああもう!分かった分かったよ!君の好きにすればいいよ!)」
フリーナも自棄になって、バッと四肢を広げた。
所謂大の字である。
「では、遠慮なく。 」
ヌヴィレットがフリーナの毛並みに鼻を埋める。
こそばゆさにフリーナの体がピクリと跳ねた。
どれくらいそうしていたのか、徐ろにヌヴィレットの顔が離れていく。
「………。」
「…にゃあ〜…(何か言ったらどうだい…)」
居た堪れない気持ちになってフリーナが呟く。
「そうだな…君の言うお日様の匂いとやらが最初に香った。」
「にゃあ!にゃ!(そうだろう!そうだろう!)」
「次に君の付けている孤高の鈴蘭の香水。あとは焼き菓子の様な甘い香りに」
「にゃにゃ!?(ちょっとヌヴィレット、何言っているんだい!?)」
「…?…猫吸いの感想だが?」
次に感じたのは、とヌヴィレットが一々匂いの感想を並べ立てていく。
「にゃう…にゃあにゃ…(うぅ…僕、もうお嫁に行けない…)」
フリーナは顔を前足で隠しながら三角の耳を萎れさせた。
「安心したまえ。その時は私が貰おう。」
さも当然の様な顔をして言い放ったヌヴィレット。
とんでもない発言をモロに受け取ってしまったフリーナはというと、彼の手から素早く逃れ、机の上で毛を逆立てて威嚇を一つ。
「しゃあーー!(ヌヴィレットは今後一切猫吸い禁止!!!)」