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    「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です

    23.間際
     盗み聞きがばれないようにレアたちのいる場から自室に戻ったクロードは考えを整理するためお気に入りの書字板を取り出しセイロス教の五戒を鉄筆で記した。

    ・女神の存在とその力を疑ってはならない
    ・女神の名をみだりに口にしてはならない
    ・父母と教会を敬え
    ・女神から与えられた力を正しく使え
    ・殺し、傷つけ、嘘をつき、盗むことを禁ずる

     セテスは先ほど禁忌に触れるような行いをしたのかと大司教レアに問うた。彼女は少なくともこの五戒のうち四番目と五番目を破っている。彼女の能力が正しく生かされたのならばセテスに隠さないはずだ。故に四番目の戒律を破っている。そして親の同意を得ずにその子供の身体に不可逆な変化を与えるのは傷をつけるのと同じだしそれを取り繕うために嘘をついた。故に五番目の戒律を破っている。

     彼女が生まれたばかりのベレトに何かしたのは確定している。ジェラルドはそれを怪しんでガルグ=マクを出たのでレアは結果を確かめることができなかった。しかし遅れてその成果が出たからこそあんなに彼女は色合いが変わったベレトを見て喜んでいたのだ。ベレトの亡き父ジェラルドならベレトの変化をどう評価するのだろうか。きっと全く動じず受け止めるのだろう。

     ローレンツの記憶でもエーデルガルトとヒューベルトがガルグ=マクにいるのは今節が最後だ。どう立ち回るべきかローレンツと相談する必要がある。早く相談したいのだが彼は今、青獅子の学級へ課題協力を依頼された為泊まりがけで出かけていた。

     数日後、青獅子の学級がガルグ=マクに帰還したと聞いたクロードはローレンツを探して敷地内を彷徨いていた。ようやく見つけた彼はシルヴァンやイングリットらと共に厩舎で何やら話し込んでいる。

    「そういうことであれば金鹿の学級に転籍してはどうだろうか?」
    「ですが殿下がなんと仰るか……」
    「座学は今まで通りなのだからたいした違いはないと思う。考えてみて欲しい」
    「ローレンツの言う通りファーガスに帰っちまったら縁遠くなるのは確かだな」

     デアドラに現れた帝国軍と相対するのに故郷のパルミラからわざわざ部隊を派遣してもらったが隣国かつセイロス騎士団をすぐに引き取ったディミトリと連合軍を作る方が得策だったかもしれない。密入国させるのも面倒だったし今のクロードはフォドラのセイロス教徒がどれだけ忍耐強く勇敢なのかを知っている。クロードはローレンツの邪魔にならないようそっと厩舎を立ち去った。

     その晩はローレンツの方から話がある、とクロードの部屋を訪れた。扉を開けたローレンツは疲れた顔をしている。座れるようにしておいた椅子を勧めて蒸留酒を注いだ杯を渡すと薄い唇の端が上がった。

    「お疲れさん、どうだった?」
    「いや、とにかく寒さが身に堪えたよ。フェルディアにいたことはあるがあくまでも街中だ。雪中行軍ではない」

     ローレンツはどうしてファーガスの者たちに苦手意識がないのだろうか。クロードは正直言って自分にとどめをさしたベレスではないのに顔がそっくりなベレトが苦手だったしペトラ以外の黒鷲の学生と積極的に話す気になれない。

    「俺も寒いのは苦手だよ」
    「だが逃げるならオグマ山脈を縦走すべきだ。あれなら帝国軍は追いつけない。雪に慣れているファーガスの者たちと協力すべきだ」

     クロードは書字板の蝋を均してフォドラの地図を描いた。出身地の地点に皆の名を書いていく。

    「そうなるとヒルダやリシテアとは別行動だな」
    「儀式の後でそれとなく話しておくべきだ」
    「ローレンツは五年前もそうやって自領に戻ったのか?」

     ローレンツは大きくため息をついて首を横に振った。クロードの記憶でも蜘蛛の子を散らすようにそれぞればらばらに帰郷している。

    「試す価値はありそうだ。ところでな、いよいよ聖墓で儀式がある。俺たちも出席せよとのことだ」
    「聖域に入れるのか……」

     そう語るローレンツはどこか嬉しそうだった。クロードの見たところ彼は盲信的な信者ではなく己を律し高めるためにセイロス教を利用しているのだがそれでもやはりありがたく感じるらしい。

    「そしていよいよ開戦だ。親帝国派の筆頭グロスタール家の嫡子どの。どうする?」

     クロードは茶化したがローレンツは菫青石のような瞳で真っ直ぐ見返してきた。

    「当家は親帝国派ではあるがレスター諸侯同盟の一角を担っている。五年前はその本分を忘れたから一族を守る為に僕が犠牲になった。今度は本分を忘れるような行いはしない。クロード、君こそレスター諸侯同盟を守るために全力を尽くすのか?」

    五年前のクロードは保険を掛けていてしかも受取人に相談すらしていなかった。色々と察していたエドマンド辺境伯とグロスタール伯が後始末をしたはずだ。五年前のクロードが知るマリアンヌとローレンツは親と意見を違えることがなかったので自分の戦死についても少し残念だと思っただけだろう。戦後処理をしているうちに二人が付き合って結婚でもしていてくれたらなんとなく救われるような気がする。クロードは五年前のローレンツの人生に影響を与えるようなことはもうない。だが目の前の彼に関しては違う。クロードはローレンツの目を見つめはっきりと全力を尽くす、と宣言した。
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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    4.遭遇・下
     犠牲者を一人も出すことなく野営訓練を終えて修道院に戻ることが出来た。ローレンツのほぼ記憶通りではあるが異なる点がある。ベレトが金鹿の学級の担任になったのだ。正式に採用された彼は既に士官学校から学生の資料を貰っている。だがグロンダーズで行われる模擬戦を控えたベレトはここ数日、放課後になると学級の皆に話を聞くため修道院の敷地内を走り回っていた。

     ローレンツはあの時、模造剣を配ろうとしたのは何故なのかとベレトに問われたが予め野盗達に襲われているのを知っていたから、とは言えない。言えば狂人扱いされるだろう。

    「歩兵の足が早すぎたからだ。補給部隊が本体と分断されたら敵に襲われやすくなる」

     食糧がなければ兵たちは戦えない。敵軍を撤退させるため戦端を開く前に物資の集積所を襲って物資を奪ったり焼き払ってしまうのは定石のひとつだ。ローレンツの言葉聞いたベレトは首を縦に振った。

    「それで足止めして予備の武器を渡したのか。装備をどうするかは本当に難しいんだ。あの場合は結果として合っていたな。良い判断をした」
    「ありがとう先生。そう言ってもらえると霧が晴れたような気分になるよ」

    2068

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    7.背叛・上
     皆の初陣が終わるとクロードの記憶通りに事態が進みロナート卿の叛乱の知らせがガルグ=マクにもたらされた。養子であるアッシュへセイロス教会からは何も沙汰が下されていない。軟禁もされずアッシュの方が身の潔白を証明するため修道院の敷地内に閉じこもっている。鎮圧に英雄の遺産である雷霆まで持ち出す割に対応が一貫していない。前節と同じく金鹿の学級がセイロス騎士団の補佐を任された。クロードの記憶通りならばエーデルガルト達が鎮圧にあたっていた筈だが展開が違う。彼女はあの時、帝国に対して蜂起したロナート卿を内心では応援していたのだろうか。

     アッシュは誰とも話したくない気分の時にドゥドゥが育てた花をよく眺めている。何故クロードがそのことを知っているかと言うと温室の一角は学生に解放されていて薬草を育てているからだ。薬草は毒草でもある。他の区画に影響が出ないようクロードなりに気を使っていたがそれでもベレトはクロードが使用している一角をじっと見ていた。

    「マヌエラ先生に何か言われたのか?致死性のものは育ててないぜ」
    「その小さな白い花には毒があるのか?」

     ベレトが指さした白い花はクロード 2097

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    11.末路・上
     クロードは先日、あんなことをしでかしておきながら怯えさせてすまない、とローレンツから逆に謝られてしまった。あれから何度か時間をとって話し合いをしてみたが互いの知る未来にかなり大きな食い違いがあることが分かりその後はおかしな雰囲気にはなっていない。

     細かな違いはあれどクロードの祖父が体調を崩し盟主代理として円卓会議に出席すること、それとマイクランが破裂の槍を盗み出すことは共通していた。

    「俺はマイクランが討ち取られたという話しか知らない」

     クロードの知る過去でもローレンツの知る過去でも級長が不在の可能性があるなら、と言うことで金鹿の学級はコナン塔へ行かなかった。

    「そちらでも箝口令が敷かれていたのか」

     教会は何かを隠している、というのが元からのクロードの主張なので教会の態度に矛盾はない。ベレトから馬の面倒を見るように命じられた二人はそれぞれ別の馬に新しい水や飼い葉を与え体を拭き尻尾の毛に櫛をかけ絡まっている塵を取り除いてやっている。いななきや馬が立てる物音が話し声を隠してくれた。今後の展開が色々と気になるところだが今回も祖父ゴドフロアの具合が悪くなるなら 2156

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    赤クロ青ロレの話です。
    13.誘拐・上

     フレンが行方不明になった。クロードとローレンツは誘拐犯がイエリッツァであること、彼が死神騎士でありエーデルガルトの手の者であることを既に知っている。ローレンツが知る過去ではディミトリたちがフレンを見つけクロードが知る過去ではベレスとカスパルがフレンを見つけている。

    「ではこの時点でベレト…失礼、言い慣れないもので。ベレス先生は現時点で既に教会に不信感を持ち敵対すると決めていた可能性もあるのか」

     ローレンツの知るベレトは教会と敵対せずディミトリに寄り添っていたらしい。記憶についての話を他の者に聞かれるわけにいかないので近頃のクロードはヒルダにからかわれる位ローレンツの部屋に入り浸っている。彼の部屋に行けばお茶と茶菓子が出るので夜ふかし前に行くと夜食がわりになってちょうど良かった。

    「そうでもなければあの状況で親の仇を守ろうとしないと思うんだよな」
    「だが今、僕たちの学校にいるのはベレト先生だ」

     ベレスは戴冠式に参加していたらしいのでそこで何かあった可能性もある。クロードはどうしてもかつての記憶に囚われてしまう。

    「大手を振って何かを調べる良い機会なのは確 2090