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    蒼月ルートのクロロレです。

    家出息子たちの帰還.24───北部から招かれた巫者はダスカー人が崇めるべき霊について南部のものたちに教える。彼らが崇める霊は大まかに二つの集団に分けられる。亡くなった巫者や貴族そして不審な死に方をしたものたちだ。前者は民を厄災から守る。山河と結びついてその土地の主となることもあり、恵みをもたらす。後者は狂い死にや水死したものであることが多い。彼らは子孫など縁があるものを病気や事故から守り、子供の成長を促す───

     後ろ盾であったコルネリアやアランデル公を失ったせいか、西部諸侯たちの抵抗はかなり散発的になっている。その状況を踏まえて王国軍はディミトリの希望通りフェルディアには戻らず、帝都を目指すことになった。ディミトリとエーデルガルトはいつか必ず激突する。早いうちに、と言う皆の気持ちもわかるが帳簿をめくる度にシルヴァンの手は止まった。
     溜息ばかりが無限に生み出されてくる。フェリクスとディミトリがいない枢機卿の間にまた帳簿が運び込まれた。持ってきたのはローレンツだった。彼も忙しいのか茶器の類はない。
    「レスターの連中は数字の書き方がおかしい!読みづらい!」
    「誤解がないようにきちんと線が引いてあるだけだ。言いがかりをつけるのはやめたまえ」
     ローレンツの眉間に皺が寄る。かつては同じ国だったレスターの領主たちが臣従の証としてまずはミルディンに向かうための物資を提供してくれた。そこから更に南下していく際はローレンツの実家、グロスタール家を頼ることになるだろう。
    「ありがたいとは思ってるさ。何せ次はメリセウス要塞だ」
     これだけ援助されているにも関わらず、常識から言えば圧倒的に何もかもが足りなかった。帝国軍も部隊を再編成し、王国軍に備えている。密偵によると死神騎士が指揮官になったと言う。
    「メルセデスさんが心配だな」
     ローレンツは敢えて、広く知られるようになってしまったディミトリとエーデルガルトの因縁について語らなかった。そこには線を引き、弟や妹が生まれた日の記憶がある第一子として、まずメルセデスの気持ちを慮っている。聞いた話によるとマイクランはシルヴァンが生まれた日にこいつじゃない、と叫んだらしい。民を守って命を落とした実母と生まれてくることのなかったきょうだいがシルヴァンのせいでいなかったことにされるのが辛かったのだろう。
     これまで王国軍は英雄の遺産と紋章の力を借りて敵に打ち勝ってきた。そのありがたみを思い知っているからこそ───誰にも言えないがシルヴァンはエーデルガルトの気持ちがよくわかる。そしてこの気持ちが八つ当たりであることも承知している。


     物資や人員に余裕があろうとなかろうとベレトの闘い方はあまり変わらない。真っ先に敵将を討ち取って他の兵を無力化する。効率を最優先した結果、副次的に敵味方双方の戦死者が減少していく。
     メリセウス要塞攻略戦でも直進したせいでウォーマスターや魔獣に挟み撃ちにされ、ローレンツは生きた心地がしなかった。だがディミトリ、そして意外なことにカスパルがベレトの信頼に応えてくれたおかげでこうして生きながらえている。
     しかし迎えた結末は苦く、未来の予行演習のようだった。民の願いが叶うならディミトリはエーデルガルトを倒すしかない。アネットがメルセデスの手を取って静かな場所へ連れて行ったので、負傷兵の治療はフレンが担当している。
     ギルベルトと共に投降した兵たちの武装解除を終えたカスパルとフェルディナント、それにシルヴァンが厩舎の前で話し込んでいた。少し珍しい組み合わせな気がする。
    「俺がこれまで色々と気にしないで済んだのは親父のおかげだ」
     サリエルの大鎌を得て、リンハルトを死なせずに済んだにも関わらずカスパルの表情は暗い。環境への抵抗がメルセデスにマルトリッツの姓を名乗らせていた。グロスタール家もベルグリーズ家も一家の主人が健在でなかったら、その他の条件が重なったら、あんな風に崩壊していたのかもしれない。
    「皆カスパルのような環境であるべきだ。だが……その実現手段として戦争は有効なのだろうか?メルセデスの弟は救われたのか?」
     姉はマルトリッツの名を名乗る図太さがあった。弟は武勇を誇れど姉のような図太さは持ち合わせていなかった。勿論、環境の違いはある。
    「一度始まれば何でもありだ。理論上は文句のある奴を全員消すことが可能になる」
     シルヴァンが誰を念頭に話しているかローレンツには予想できた。そのヒューベルトとは近いうちに帝都で直接、対決することになる。
    「大人しく殺されるものか、必死で抵抗するに決まっている」
     ローレンツが反射的に言い返すとその場にいた三人が皆、改めて大きなため息をついた。この先、何としても平和な世をもたらさねばならない。ディミトリはたった一人の家族を贄に捧げてでも平和な世をもたらすだろう。


     ドゥドゥーはディミトリの父や義母それに少女時代のエーデルガルトを知らない。ダスカーの悲劇を経て、彼らと入れ替わるようにしてフェルディアの王宮に入った。だから捕虜の供述もギルベルトの推理もすんなりと受け入れることができたがディミトリは違う。新たな事実のせいで過去が揺らぎ、せっかく固まってきた現在が崩れかねない。
     再び戻って来れるとは思っていなかったガルグ=マクの寮で、ドゥドゥーはとりあえずカミツレの花茶を淹れた。茶器を素直に受け取ったディミトリは湯気を顎に当てながら考え込んでいる。
    「釣り合いが取れていない」
     ダスカーにも呪詛のため人間の内臓を要求する巫者は存在するが、それでもあのような殺戮は求めない。ディミトリの義母を利用して大量の死を捧げたものたちは一体、何を求め、何を得たのか。ダスカーの悲劇で大切な誰かを失ったものたちはしょっちゅう、その問いに囚われてしまう。
    「そう考えてしまうのは俺が酷薄な人間だからだろうか」
     握りしめて卵の殻のように割ってしまう前にディミトリはそっと茶器を卓の上に置いた。五年間寮に放置されたにも関わらず、無事であった茶器はまだ幸運に恵まれているようだ。
    「それは違います。少なくとも俺にとっては違います」
     離れ離れになっている間、ギルベルトが何を目印としてディミトリを探していたのかドゥドゥーは知っている。損壊された亡骸を見つけるたびにどんな気持ちになったのだろう。絶望と喜びに耐えた甲斐はあった、と言うためにも帝都でエーデルガルトたちと決着をつけねばならない。
    「今から善行を積んだところで帳消しにならないのは分かっている」
     幼い頃の自分はディミトリに取り憑いた悪霊を祓うことに失敗した。
    「それでも積み重ねていきましょう。俺がお手伝いします」
     彼の肉体が犯した罪は生涯、本人と他人を苛むだろう。だがそれでも長い旅を経てあの時、災禍の中でドゥドゥーを助けてくれたあの高貴な魂が本来の場所に戻ってきた。
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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    3.遭遇・上
     三学級合同の野営訓練が始まった。全ての学生は必ず野営に使う天幕や毛布など資材を運ぶ班、食糧や武器等を運ぶ班、歩兵の班のどれかに入りまずは一人も脱落することなく全員が目的地まで指定された時間帯に到達することを目指す。担当する荷の種類によって進軍速度が変わっていくので編成次第では取り残される班が出てくる。

    「隊列が前後に伸びすぎないように注意しないといけないのか……」
    「レオニーさん、僕たちのこと置いていかないでくださいね」

     ラファエルと共に天幕を運ぶイグナーツ、ローレンツと共に武器を運ぶレオニーはクロードの見立てが甘かったせいでミルディンで戦死している。まだ髪を伸ばしていないレオニー、まだ髪が少し長めなイグナーツの幼気な姿を見てクロードの心は勝手に傷んだ。

    「もう一度皆に言っておくが一番乗りを競う訓練じゃあないからな」

     出発前クロードは念を押したが記憶通りそれぞれの班は持ち運ばねばならない荷の大きさが理由で進軍速度の違いが生じてしまった。身軽な歩兵がかなり先の地点まで到達し大荷物を抱える資材班との距離は開きつつある。

    「ヒルダさん、早すぎる!」
    「えー、でも 2073

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    4.遭遇・下
     犠牲者を一人も出すことなく野営訓練を終えて修道院に戻ることが出来た。ローレンツのほぼ記憶通りではあるが異なる点がある。ベレトが金鹿の学級の担任になったのだ。正式に採用された彼は既に士官学校から学生の資料を貰っている。だがグロンダーズで行われる模擬戦を控えたベレトはここ数日、放課後になると学級の皆に話を聞くため修道院の敷地内を走り回っていた。

     ローレンツはあの時、模造剣を配ろうとしたのは何故なのかとベレトに問われたが予め野盗達に襲われているのを知っていたから、とは言えない。言えば狂人扱いされるだろう。

    「歩兵の足が早すぎたからだ。補給部隊が本体と分断されたら敵に襲われやすくなる」

     食糧がなければ兵たちは戦えない。敵軍を撤退させるため戦端を開く前に物資の集積所を襲って物資を奪ったり焼き払ってしまうのは定石のひとつだ。ローレンツの言葉聞いたベレトは首を縦に振った。

    「それで足止めして予備の武器を渡したのか。装備をどうするかは本当に難しいんだ。あの場合は結果として合っていたな。良い判断をした」
    「ありがとう先生。そう言ってもらえると霧が晴れたような気分になるよ」

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    14.誘拐・下
     ローレンツとクロードの記憶通り事態は進行した。一つ付け加えるならばクロードがセテスにちょっかいを出したことだろうか。見当違いだと分かっていることを敢えてセテスに聞いたら先方が何故か安心した、とクロードから聞いてローレンツは眉を顰めた。やはりセイロス教会は何かを隠している。五年前から問題視していたクロードが正しかった。だがそれは大乱を起こす理由になり得るのだろうか。クロードは元から英雄の遺産と白きものについて探っていたがそれに加えてエーデルガルトが檄文で言及していた教会の暗部についても調べ始めた。

    「先に掴んで暴露してしまえば檄文自体無効になるかと思ったがそんな都合の良い案件は見当たらなかった。敢えて言うならダスカーがらみか?」
    「だがあれも機能不全に陥った王国の要請がなければ騎士団が担当することはなかっただろう」

     エーデルガルトが見つけたと称するセイロス教会がフォドラの全てを牛耳っている証拠とセイロス教会の秘密は同一なのだろうか、それとも違うのだろうか。探さねばならないものが増えてクロードは大変そうだ。大変そう、と言えばベレトも大変そうだ。彼は修道院内を丹念に探 2099