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    無双黄ルートの話です。
    「レスター連邦国が清らかであったことは一度もない。我々は大乱で純潔を失いそれを悔やんだことは一度もなかった」

    クロロレワンドロワンライ第31回「走る」 体力をつけなければ魔力は伸びないと言われる。フェルディアの朝は寒いが走っているうちに温まることをローレンツの身体はもう知っていた。エドギアは好きだが生まれて初めて体験する両親の目がない暮らし他所の土地での生活が楽しくて仕方がない。
     フェルディアの方が日の出が遅いため朝を告げる鐘と同時に走り始めると朝焼けが辺りを照らしていく様子を見ながら走ることができる。冷たい石造の校舎に投げかけられた陽の光が辺りに息を吹き込んでいるかのようでその景色を眺めつつ走るのがローレンツの日課だった。冷たさを吸い込み体内の熱を吐き出すと日頃は意識しない呼吸という行為が深く身に刻まれるような気がする。
     ローレンツが敷地内を走り終え寮に戻る頃には蝋燭を節約するため夜ではなく朝に勉強する学生たちが呪文の詠唱を練習する声が辺りに響き始める。毎朝その声を背にローレンツは寮の入り口で汗を拭き息を整えていた。この後部屋で着替えてから食堂で朝食を取り座学に出席する。そんな日々が続くとローレンツは信じていた。
     しかしローレンツの平穏な日常は父エルヴィンの書状を携えた家臣によって崩されてしまった。エドギアにいるはずの父がフェルディアにいる自分より王宮の中で起きたことに詳しいのは何故なのか、という問いは飲み込むしかない。嫡子が政争に巻き込まれ同盟と王国の外交問題になったら取り返しがつかないという父の言葉にローレンツが逆らえるわけもなくしぶしぶ荷物をまとめ教授や級友に別れの挨拶をすることになった。ガルグ=マクの士官学校と違い魔道学院はほぼ男女別学だ。入学したての頃に軽く話した女学生たちと再び会話することもなくローレンツはフェルディアを後にした。夏至の祭りまで在学できたら彼女たちと再び話す機会が得られたかもしれない。

     エドギアの館に戻ると残念そうな顔をした父エルヴィンがローレンツを出迎えてくれた。次々と届けられる密偵たちの報告が父の判断の正しさを伝えてくる。身体を鍛えるため気分転換のためローレンツはエドギアに戻ってからも機会を見つけては走るようにしていた。将来的には父のように密偵を放っただけで各地の情勢を完全に理解せねばならない。一度よその土地で開放感を味わった分だけ余計にローレンツの肩に重積がのしかかるが走っている最中は余計な考えに囚われずに済む。

     日課の走り込みを終えてすぐ政庁の執務室へ呼び出されたローレンツは父から報告書に手渡された。政庁では立ち振る舞いに気をつけねばならないのだが走っている時のように鼓動が全身に強く伝わっていく。

    「これは本当ですか?」

     エルヴィンは息子の所作を視線だけでたしなめてからそうだ、と言った。そこにはグロスタール家がデアドラのセイロス教会に潜ませている者がリーガンの紋章を持つクロードという少年の存在を確認したと記されている。

    「リーガン家から正式な発表があるまでしばらくかかるだろう。付け焼き刃でも嫡子としての教育を施してからでなければ人前には出せない」

     知識や心構えそれに礼儀作法だけでは足りない。名家の嫡子は高い理想を掲げその理想を体現できるだけの力を身につける必要があるのだ。ローレンツの両親はその点において抜かりはない。

    「その後は箔をつけ"友人"を作るためガルグ=マクの士官学校へ入れられるはずだ」

     これでローレンツが魔道学院へ復学する可能性はなくなってしまった。グロスタール家繁栄のため領民のためにも為人を見定めてきて欲しい、という父の言葉を盾にローレンツは一つ約束を取り付けた。取り付けはしたが癪に触ることに変わりはない。これで将来の配偶者に相応しい貴族の子女に出会えなかったらと思うとローレンツはまだ顔すら見たことがないクロードという少年に対して虚心ではいられなかった。
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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    8.背叛・下
     雷霆を振るうカトリーヌの名を聞いた者に多少なりとも英雄の遺産や紋章の知識があったならばそれがとんだ茶番だと判るだろう。だが無謬であるセイロス教会が彼女をカサンドラではなくカトリーヌと呼ぶのならそれに従うしかない。カロン家当主としても令嬢カサンドラに死なれるよりはガルグ=マクで生きていてくれた方が良いのだろう。

     ローレンツは霧深い街道をガスパール城に向けて黙々と進んでいた。前方ではクロードとベレトとカトリーヌが何やら話している。五年前、ローレンツは帝国軍が破竹の快進撃を見せた時に正直言ってファーガス神聖王国がほぼ崩壊したと思った。今の彼らの会話を耳にしてもファーガスが凋落しているという印象が深まっていく。青獅子の学級の学生たちは士官学校に入る前に初陣を済ませている者が多いのはダスカーの悲劇以降小規模な騒乱が後を立たずにいるからだ。

     だからあの時ローレンツはフェルディナントと共にミルディン大橋に立った。ファーガスは近々自壊するだろうしパルミラとの国境を守りながら強大な帝国に抗う力が同盟にはない。ならばせめて領地と領民を守りたいと思ったからだ。霧の立ちこめる行路は人生 2090