落花恋に気づいたのは、いつだったのか、もうわからない。
すべてが正しいひとではなかったけど、誰よりもそうありたいと思っている奴だった。
誰よりも怖がりで泣き虫で。恐怖で膝が笑っても、それでもその一歩を誰かのために踏み出せる、そんな勇気が好きだった。
表情がくるくる変わって、楽しいのも悲しいのも素直に表現してくれるのが好きだった。おれもそうしていいと思えたから。おれがそうできなくても、おまえが泣いてくれるから、おれも救われたんだ。
おれの手を握ってくれるのが好きだった。おれを抱きしめてくれるのが好きだった。おれがどうなってもおれであると、おれよりも信じてくれる、その優しさが好きだった。それがおれにとってどれほど嬉しい言葉であったか、ついぞおまえは気づいてくれなかったけれど。そういう鈍感さも、好きだった。
気づけば心の中には赤く色づいた恋がそこかしこに咲き誇って、鮮やかに世界は作り替えられていた。赤い花は心の中で煌々と光って、おれに行くべき道を示してくれた。おまえは夜の月みたいに、ひとりぼっちの道に寄り添ってくれたから。おれの恋は心臓の上に咲いて、たしかに火を灯し続けていた。
あいつの告白を聞いて、おれの恋は咲いたままぽとりと落ちた。知っていた。誰よりもおまえの想いを、一途を知っていた。そういうところも好きだった。すきだった。
すこしだけ悲しかったけれど、あいつの勇気の光がきれいで綺麗で、また、心に真っ赤な花が咲いた。
おまえとなら悪くない、なんて。まるでプロポーズみたいだね。心にまた花が咲く。蹴り落とした後ろから、おまえの泣き声が聞こえる。ああ、おまえと一緒がよかったな。ぽろりと、涙と一緒に花が落ちた。
ただひたすらに目指す太陽は、目が眩むほど白くて、目を閉じた。腕の中の熱量が爆発的に膨れていくのを感じる。ああ、終わりだね。
瞼の裏には、見覚えのある恋がくるくると落ちていく。赤い花の形をしたそれは、鮮やかで優しくて苦しくて、ただ甘やかな思い出だった。
咲いていたことすら、誰にも言えなかったけれど。すべてが燃えて消え失せてしまうけど。
「ポップ」
それでもやっぱり、おまえがすきだった。