レモン味 ふたりっきりの部屋の中、ベッドの上で、はじめてキスをした。ちゅ、って軽い音がして、ポップのくちびるが離れる。ポップが頭を撫でてくれるから、その手に懐きながら口を開いた。
「すっぱくないね」
「うん?」
「はじめてのキスって、レモンの味がするんだろ? でも、すっぱくなかった」
首を傾げたおれに、ポップが笑いだす。
「たとえだよ、たとえ。実際には味しなかったろ」
「うん。ポップのにおいがしただけだった」
「……くさいんか、おれは」
「ちがうよー。おまえのにおい、おれは好き」
そっと離れようとするポップに、ぎゅっと抱きつく。
「いちばん近くにいけるから、いっぱいにおいするんだよ」
ちょっと上の方にあるポップの顔に近づいて、頬を包んで、ちゅっとキスをした。ふに、って唇が柔らかいのを感じながら、すぅっと息を吸い込んだ。ポップのにおいが頭の中をぐるぐるする。ふらりと傾いだおれの頭を、ポップの手が支えてくれた。するすると髪を撫でてくれる手は大きくて、息ができなくて、はふ、と、唇を離す。それでもポップから離れがたくて、息が掛かるような近さで抱き合ったまま口火を切った。
「おれ、キスってすきだな。お前のいちばん近くにいけるもの」
「……恥ずかしいやつ」
「ポップはきらい?」
「嫌いなわけねーだろ」
「ふふ、ならよかった」
ポップがおれの顎をすくって、ちゅっと唇を合わせる。そのままベッドに転がって、ぎゅうぎゅうと抱き合いながらキスをした。ポップのにおいに包まれて、ポップの心臓がどきどきしているのを感じる。ぎらぎらした目にぞくぞくして、はふ、と熱い息を吐きながら、ポップに強請った。
「もっと」
唇を割り開かれて、舌がぬるぬると口の中で暴れている。とろとろと混ざり合い、口の中いっぱいにポップのにおいが充満して、頭の中がどろりと溶けた。
はじめての大人のキスは、すっぱさなんてどこにもなくて、ただ、絡む舌が熱かった。