目の前、正しく言うならば足元でこちらを見上げている物体を目にして、江澄は瞬きを繰り返した。
本来であればこの部屋は藍曦臣にあてがった部屋だ。日中は仕事で町のほうへと行かなければならないから好きに過ごしてくれと言っており、今までも江澄が不在の時に来た際は、この部屋で瞑想などをしていた。
だが今この足元にいるのは一体なんだ。
白く小さくふわふわとして、黒いつぶらな瞳とつんと上を向いた濡れた小さな黒い鼻。金凌に与えられたばかりの仔犬の頃の仙子と同じくらいの大きさの毛玉だった。
閉じていた口を開いて、小さな桃色の舌がはッはッと息を吐く。
犬だ。
おそらく犬だ。
初めて見る種類ではあるが犬だろう。
仔犬かと思ったが目がしっかり開いて、輪郭もしまっているためこの小ささで成犬だと江澄は判断した。
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