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    takami180

    @takami180
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    曦澄のみです。

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    takami180

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    曦澄/訪来、曦臣閉関明け、蓮花塢にて
    攻め強ガチャのお題より
    「いつか自分の方から「いいよ」と言わないといけない澄 こういう時だけ強引にしない曦がいっそ恨めしい」

    #曦澄

     蓮の花が次第に閉じていくのを眺めつつ、江澄は盛大にため息を吐いた。眉間のしわは深く、口はむっつりと引き結ばれている。
     湖に張り出した涼亭には他に誰もいない。
     卓子に用意された冷茶だけが、江澄のしかめ面を映している。
     今日は蓮花塢に藍曦臣がやってくる。藍宗主としてではなく、江澄の親しい友として遊びに来るという。
     江澄は額に手の甲を当てて、背もたれにのけぞった。
     親しい友、であればどんなによかったか。
     前回、彼と会ったのは春の雲深不知処。
     見事な藤房の下で、藍曦臣は江澄に言った。
    「あなたをお慕いしております」
     思い出せば顔が熱くなる。
    「いつか、あなたがいいと思う日が来たら、私の道侶になってください」
     しかも、一足飛びに道侶と来た。どういう思考をしているのか、江澄には理解できない。そして、自分はどうしてその場で「永遠にそんな日は来ない」と断言できなかったのか。
     いつか、とはいつだろう。まさか、今日とは言わないだろうが。
     江澄は湖の向こうに視線を投げた。
     行き交う舟影が見える。
     藍曦臣はいったいどういう顔をして現れる気なのだろう。友というからには友の顔をしてくれると期待したい。
     ふと、強い風が吹き、視界が赤く染まった。
     炎に沈む蓮花湖が見える。
     江澄は頭を振った。
     今でもこうして過去を見る。
     この景色はきっと一生見続けるだろう。
    「宗主」
     呼びかけられて、江澄は我に返った。
     青い空と穏やかな湖面が視界に広がる。
    「藍宗主がお見えです」
     振り返れば、江家師弟の向こうでにこにこと笑う藍曦臣の姿があった。
     江澄はしかめ面のまま立ち上がった。
    「ようこそ、藍宗主」
    「お招きいただきありがとうございます、江宗主」
     師弟が恐る恐る茶器を一揃い並べて去っていく。それを見送って、江澄は藍曦臣に椅子をすすめた。
    「長旅でお疲れでしょう」
    「いえ、飛んできたのでそれほどでも」
     藍曦臣はさらりと言った。
     江澄が目を丸くしても、その笑顔は崩れない。
    「あなたに早くお会いしたくて、舟を待てませんでした」
     唖然とする。
     つまり、御剣の術でやってきたということか。
    「ふふ、驚きましたか?」
    「当たり前だろう。何故、そのような無茶を」
     藍曦臣の手がするりと伸びて、江澄の頰をなでた。
    「ですから、あなたに会いたくて」
     これは、友か。本当に友なのか。
     江澄の眉間のしわがより深くなる。
    「藍宗主、あなたは」
    「江澄」
     許してもいないのに名を呼ばれた。
    「ぜひ、私のことは藍渙とお呼びください」
     藍曦臣の目が細く笑う。
     間違いなく友ではなかった。
     藍曦臣は少しばかり強引に、江澄を恋の相手としている。
     蓮の葉を風がなで、水鳥の羽ばたきが聞こえた。
     江澄は吹き出した。
     腹を抱えて笑う。
     なんてことだ。この湖のほとりに佇んで、悩むことが藍家の宗主についてだなんて。
     眼裏に焼きついた炎の影が消えたわけではないのに、心をしめるのは眼前の呆けた顔の男についてだ。
     これほど、平穏な悩みがあるだろうか。
     船着場から威勢のいいかけ声が聞こえてくる。
     どうか、彼らの悩みも同じであることを願う。
     家族と、恋人と、それから食事の献立と。
     思い悩むことなど、それで十分だ。
    「俺は蓮花塢が一番大事だ」
    「はい」
    「月に一度も会えないかもしれない」
    「っ……! はい!」
    「それに、今日はいいとは言えない」
     藍曦臣は何度も頷いて、最後は江澄を抱きしめた。
    「おい、なにをする」
    「江澄、ああもう、あなたという人は」
    「離せ」
    「いやです」
     藍曦臣の腕は江澄の背中をしっかりとつかまえて離さない。
     江澄は諦めて、その肩に頭を預けた。
     湖に浮かぶ蓮花は、もう花弁を閉じてしまった。
    「明日の朝、蓮を見ないか」
    「ええ、ぜひ」
     夏の陽光が湖面にきらめく。
     江澄は目を閉じた。
     まぶしいからしかたない、と言い訳をして、近づいてくる笑顔を受け入れた。
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    PROGRESS長編曦澄17
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     江澄は目を剥いた。
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    「何をしている!」
     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
    「ど、どうした」
    「怪我はありませんでしたか」
    「見ての通りだ。もう左腕も痛みはない」
     江澄は呆れた。どう見ても藍曦臣のほうがひどい怪我だというのに、真っ先に尋ねることがそれか。
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    1437

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     もう、一時は経っただろうか。
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     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
     藍渙、と声を出さずに呼ぶ。抱きしめられた感触を思い出す。 3050

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    takami180

    DONE曦澄ワンドロワンライ
    第三回お題「夢」

    本編終了後、付き合っている曦澄。
    現実での大事なものと、本当は大切にしたいもの。

    ムーンライト宗主→ごめんねすなおじゃなくて→夢、という連想結果が何故こんなことに。
     その夜は金氏と合同の夜狩だった。そこで江宗主は大怪我を負った。
     邪祟から師弟を庇い、腹に穴をあけられた。
     江澄自身、これはまずいと感じた。血を吐き、体から力が抜ける。
    「宗主!」
     倒れたところを誰かに抱え起こされた。
     すかさず金凌が矢を射る。放たれた矢は狙い違わず邪祟を貫いた。
    「叔父上!」
    「金凌っ……」
     声にできたのはそれだけだった。怪我をせず、健やかに、生きてほしい。お前の生きていくこれからは、どうか穏やかな世界であるように。
     江澄は手を伸ばそうとしてかなわなかった。
     まぶたの裏に、白い装束の影が映る。心残りがあるとすれば、あの人にもう会えないことか。
    「誰か止血を!」
     怒号と悲鳴が遠ざかり、江澄の意識は闇に沈んだ。


     まばゆい光の中で、白い背中が振り返る。
    「江澄……」
     ああ、あなたは会いにきてくれたのか。
     江澄は笑った。これは現実ではない。彼は姑蘇にいるはずだ。
     体を起こそうとして、まったく力が入らなかった。夢の中くらい、自由にさせてくれてもいいのに。
    「気がつきましたか」
    「藍渙……」
     ほとんど呼んだことのない名を口に出す。これが最後の会話にな 1653