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    takami180

    @takami180
    ご覧いただきありがとうございます。
    曦澄のみです。

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    長編曦澄10
    兄上やらかす

    #曦澄

     夜明けの気配がした。
     藍曦臣はいつもと同じように起き上がり、ぼんやりとした薄闇を見つめた。違和感がある。自分を見下ろしてみれば、深衣を脱いだだけの格好である。夜着に着替えるのを忘れたのだろうか。
    「うーん」
     ぱたり、と藍曦臣の膝に何かが落ちた。手だ。五指をかるく握り込んだ手である。白い袖を視線でたどると、安らかな寝顔があった。
    「晩吟……」
     藍曦臣は額に手のひらを当てた。
     昨夜、なにがあったのか。
     夕食は藍忘機と魏無羨も一緒だった。白い装束の江澄を、魏無羨がからかっていたから間違いない。
     それから、江澄を客坊に送ろうとしたら、「碁はいいのか?」と誘われた。嬉しくなって、碁盤と碁石と、それから天子笑も出してしまった。
     江澄は驚いた様子だったが、すぐににやりと笑って酒を飲みはじめた。かつて遊学中に居室で酒盛りをした人物はさすがである。
     その後、二人で笑いながら碁を打った。
     碁は藍曦臣が勝った。その頃には亥の刻を迎えていた。
    「もう寝るだけだろう? ひとくち、飲んでみるか? 金丹で消すなよ」
     江澄が差し出した盃を受け取ったところまでは記憶がある。だが、天子笑の味は覚えていない。
     藍曦臣は江澄の顔を見た。
     眉は凛々しく、鼻筋が通り、美しい相貌だと思う。敷布に流れる黒髪はつややかで、いつもまとめられているのがもったいない。
     ずっと、ながめていたい。
     藍曦臣は我知らず微笑んだ。
     指を伸ばして、目元にかかる前髪を避けてやる。
     やはり美しいと思う。
     江澄は否定するが、彼は美しいのだ。三毒を御する姿も、紫電を操る姿も、眼光鋭く敵を見定め、苛烈に進む姿も。
     だが、笑う顔は……
     藍曦臣は目を瞬いた。江澄には笑っていてほしいと思う。彼が笑うと、自分も嬉しい。それはいいだろう。友であるのだから。
     そうではなく、今、一瞬こみ上げたものはなんだったのか。正体をとらえる前に、驚きにかき消えたもの。江澄の笑顔をいつも見ていたいと思う気持ち。
     いつも。
    「晩吟、晩吟、起きてください」
     藍曦臣は慌ててその肩を揺すった。
     これ以上はいけない。考えるべきではない。彼に起きてもらわないとよくないことが起こる。
     江澄は寝返りを打ち、藍曦臣の手を払った。
    「まだ早いだろう。もう少し、寝かせてくれ」
    「いえ、あの、卯の刻です」
    「知っている。だから、もう少し寝かせろ」
    「晩吟、あの……」
    「曦臣、うるさい」
     江澄の手がぐいと手首をつかむ。
     藍曦臣はついに黙った。顔の表面に熱が集まってきて、脈がいささか速くなる。
     結局、江澄がすっかり寝入って、手から力が抜けて落ちるまで、藍曦臣は牀榻から動けなかった。
     
     その日、江澄は起きるや否や三毒に乗って蓮花塢に帰っていった。姑蘇から蓮花塢までは御剣の術でも丸一日はかかる。
     藍曦臣は雲深不知処の外まで見送りに出た。西へと遠ざかる背中を見えなくなるまで見送って、それでもしばらくはその場から離れがたかった。
    「江澄は帰ってった?」
    「お帰りになりました」
     山門から入ると、魏無羨に出くわした。彼はおそらく自分を待っていた。
    「あいつ、昨日は寒室に泊ったんだろ?」
    「ええ」
    「あのさ、沢蕪君」
    「なんでしょう」
    「あんまり、ふりまわさないでやってくれよ」
     魏無羨はまっすぐに藍曦臣を見た。あまりにも真剣なまなざしに困惑する。身に覚えはないが、彼は確信を持っているようだった。
    「心がけましょう」
    「ははっ」
     それはどうやら彼の納得できる返事ではなかったようだ。魏無羨は軽い足取りで藍曦臣に近づき、人差し指を突きつける。
    「泣かせたら、承知しない」
    「そのようなことはいたしません」
     大事な人だ。最大限に大切にしたい友だ。泣かせるどころか、できるならば……
    「期待してる」
     魏無羨が笑って言う。
     藍曦臣は微笑みを返したが、腹の奥が凍り付いたかのように冷たい。
     秋の風がそよぐ。
     竜胆の花が小さく揺れた。
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     その日は各々の牀榻で休んだ。
     締め切った帳子の向こう、衝立のさらに向こう側で藍曦臣は眠っている。
     暗闇の中で江澄は何度も寝返りを打った。
     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
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    「ど、どうした」
    「怪我はありませんでしたか」
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