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    takami180

    @takami180
    ご覧いただきありがとうございます。
    曦澄のみです。

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    曦澄ワンドロワンライ
    第四回お題「看病」

    現代AU、友人でもない曦澄。
    大学生澄+羨はルームメイト、今回は忘羨を含みます。

    #曦澄

     江澄は呆然とその人を見返した。
     扉を開けた先に立っていたのは藍曦臣、大学の先輩である。彼はまったく似合わないコンビニ袋を下げている。
     有料袋を買ったのか、もったいない。
     益体もないことを考える江澄に、藍曦臣は眉尻を下げて笑った。
    「弟から連絡をもらったのだけど、差し入れを持ってきました」
    「はあ、はい、ありがとうございます」
     彼の言う弟とは藍忘機である。江澄の義兄とは恋人同士で、今日は二人で温泉旅行に行っているはずだ。
    「ゼリー飲料と、栄養剤と、それから経口補水液。あとおかゆも入っているから」
     コンビニ袋を差し出され、江澄は素直にそれを受け取る。
     おかしい。何故、藍曦臣が自分の体調不良を知っている。
    「あれ? 魏無羨からなにも聞いてない?」
    「魏嬰? いや、なにも」
     と言いかけたところで、江澄はスウェットのポケットからスマートホンを取り出した。
     そういえば昨晩から放置していた。今、何時かも確認していない。
     ホーム画面には十四時とある。それから着信とメッセージの通知が大量に表示されていた。
    「あ……」
     慌ててアプリを開くと、義兄からのメッセージが流れていく。
     ——おーい、電話に出てくれー
     ——お前、熱出してないか?
     ——藍湛の兄さんにいろいろ頼んだから。
     江澄はもう一度顔を上げて、藍曦臣を見た。
     魏嬰はなんだって大学の同期ではなく、この人に頼んだんだろう。この人もどうして差し入れなんか持ってきたんだ。
     江澄と藍曦臣とのつながりは、同じ学部の先輩後輩というだけだ。無理に上げるとすれば、義兄と彼の弟になるが、それだってわざわざ家まで来るほどのことではないだろう。
    「今、熱は?」
    「計ってません」
    「そう、ちょっと失礼」
     藍曦臣は手の甲を向けて、江澄の首筋に当てた。ひやりとして気持ちいい。思わず目を閉じると、咳払いの音が聞こえた。
    「熱は、高そうだね。ぶしつけで申し訳ないけれど、少し部屋に上がらせてもらってもいいかな」
    「はい、どうぞ」
     二人暮らしの部屋は2DKと広めである。藍曦臣をソファに座らせ、キッチンに向かったところで、「待って」と声がかかった。
    「あなたは部屋に戻って横になって」
    「でも」
    「私は客じゃないよ。少しだけ、あなたの看病をしたいだけだから」
     そうか、それなら。江澄はくるりと体の向きを変えた。自分の部屋は左の扉、開けてすぐ左側にベッドがある。
     倒れ込むように横になって目をつむる。
     のどが渇いた。
     キッチンに行ったついでに水を飲めばよかった。
    「失礼するよ、江晩吟。水分をとった方がいい。ゼリーは、まだ無理そうだね。ほら、ストローで飲めるようになっているから」
     江澄は背中を支えられて、なんとか身を起こした。口元に差し出されたストローをくわえると、水……じゃなくて、経口補水液が出てくる。
     おいしい。
    「さあ、横になって。何かあればすぐに呼んで。しばらくは帰らないから」
     まぶたを持ち上げると、微笑む顔が目の前にあった。
     キャンパスでたまに見かける先輩だ。学部長お気に入りの優秀な学生。この人に憧れてこの大学に入ったのは、もちろん誰にも言っていない。
     その人が優しくしてくれるなんて。
    「晩吟? どうしたの?」
     江澄の目にじわりと涙が浮かんだ。
     藍曦臣はまた「失礼するよ」と言って、その手で江澄の頭をなでた。
    「あなたが嫌でなければ、この部屋にいるから」
    「い、いやじゃない」
    「そう、それなら、ほら、横になって」
     江澄はうながされるままに体を横たえた。ふわりと布団を掛けられる。そうして、その上にかすかな重み。
    「おやすみ、晩吟」
     とんとん、と腹の上をやさしくたたかれて、江澄は目をつぶった。
     魏嬰が帰ってきたら、どういうつもりか問いたださなければ。それから、もう二度と余計な気を回すなと忠告しないと。
     江澄は眉間にしわを寄せたまま、次第に意識が遠ざかる。
     彼が夢と現実の狭間にいる頃、やわらかく額に触れるものがあった。それは懐かしい記憶を呼び、江澄はするりと夢の中に入っていく。
    「おやすみ、江澄」
     藍曦臣のささやきを聞く者は誰もいなかった。
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    「何をしている!」
     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
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    1437

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