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    takami180

    @takami180
    ご覧いただきありがとうございます。
    曦澄のみです。

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    takami180

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    曦澄ワンドロワンライ
    第十回お題「嫉妬」
    本編終了後、付き合ってない曦澄。
    兄上閉関明け数年後のことです。
    (モブが出ます)

    #曦澄

     その年、清談会は金鱗台で開かれた。
     各世家の宗主たちが集まり、交流を深める中、江澄はひとり杯をかたむける。視線の先にあるのは沢蕪君の姿である。
     藍家宗主は二人の宗主とその娘に囲まれて、にこやかに話を交わしている。その手には杯があるが、彼が金丹で酒精を消していることは知っていた。
     いまや四大世家の宗主で妻帯している者はいない。金家宗主は若年に過ぎ、見合いに失敗続きの江家宗主と、そも見合いに応じない聶家宗主となれば、己の娘を売り込む先は自然としぼられる。沢蕪君と称される彼の人には気後れしそうなものではあるが、閉閑を経て、彼はふしぎと気安くなっていた。
     江澄は盃を重ねた。
     人に囲まれる沢蕪君をながめていても具合が悪くなるだけであるとわかっていたが、ちらちらと様子をうかがうことをやめられない。
     酒を一口飲むたびに、やりきれない気持ちが咽喉を通って腹の中に落ちる。
     沢蕪君が閉閑に入る間、江澄は何度となく雲深不知処を訪れた。
     世間のように彼を放っておくことができなかった。
    「なあ、江澄。そんなに沢蕪君が好きなのか」
     魏無羨の声が耳朶によみがえる。江澄はうるさいと蠅を払うように手を振ったが、声はこびりついたまま消えていかない。
     あの男の、あの一言さえなければ。
     これほどに厄介な感情を、身の内に抱えていることなど知らないままであったに違いない。
     若い娘の白い手が、沢蕪君の腕にすがる。
     彼はまったくほほえみをくずさずに、娘の手をそっと外す。
     江澄は見ていられなくなって席を立った。
     夜も深まり、宴から去る人の姿もちらほらと見える。この時機であれば見とがめられることはないだろう。
     江澄にとっては自家同然の金鱗台である。
     西の空に傾いていく月の光をしるべにして、江澄は中庭をそぞろ歩いた。
     金凌が幼いころは、この庭でよく遊んだ。そこには斂芳尊もいたし、沢蕪君もいた。
     穏やかな時を過ごしたかつての記憶を追うように足を運ぶ。
    「お待ちください、江宗主」
    「……偉宗主」
     背後から声をかけてきたのは最近宗主になったばかりの若い男だった。背が高く、顔も整っていて、仙子には評判の男である。小さな世家の宗主ながら、しょっちゅう夜狩に出て、人民に頼りにされていると聞く。
    「なにをなさっておいでですか」
    「散歩だ」
    「もうお戻りに?」
    「そのつもりだが」
     問題はないだろうと視線を投げると、彼は「私もご一緒します」と江澄の隣に並んだ。
     江澄は隣の男の顔をにらみ上げた。
    「なぜだ」
    「あなたをおひとりにしたくない」
    「意味が分からん。ばかにしているのか」
    「そんなつもりは……、ただ、ひどく酔っていらっしゃるようですし」
    「雲夢の者はそうそうつぶれん」
     しかし、偉宗主も引き下がらず、ぶしつけにも江澄の腕をつかんだ。
    「あなたが心配なんです。宴の間も、ご不快なご様子でしたし」
    「機嫌が悪いとわかっているなら近寄るな。離せ」
    「どうして、そのように……」
     江澄は手を払ったが、偉宗主は離さなかった。そればかりか、もう片方の腕をもつかまれた。にらみつけた顔はひるむことなく、江澄を見つめている。
    「江宗主は不要だとおっしゃっていますよ」
     やわらかな響きの声だった。しかし、有無を言わせぬ圧力をまとっていた。
    「沢蕪君」
    「偉宗主、ほら、その手をお放しなさい」
    「これは、その……」
    「江宗主のお望みではないでしょう」
    「……失礼いたしました」
     偉宗主は今度はすんなりと手を離し、さっと拱手をすると庭の奥へと去っていく。
     江澄はそれを呆然と見送り、首を傾げた。結局、あの男が何をしたかったのかはわからずじまいだ。
    「江宗主はお戻りになる途中でしたか」
    「ああ……、懐かしくて、散歩をしていた」
    「では、お付き合いいたしましょう」
     江澄は沢蕪君とふたり並んで歩き出した。
     月は山の端にかかり、次第に闇が濃くなっていく。
    「あなたは、もういいのか」
    「なにがでしょう」
    「宴を辞して、構わなかったのか」
    「ええ、亥の刻は過ぎておりますし」
    「だいぶ前に過ぎたな。あなたならば、その時点で辞去してもよかったのではないか」
    「そうなのですが」
     沢蕪君がふと足を止めた。江澄も立ち止まり、闇にかすむ男を振り返った。
    「どうした」
    「いえ、どうしても、気になる方がいたもので」
     突然の言葉だった。
     それは鋭利な刃物となって江澄の胸に突き立ち、一瞬、呼吸を奪った。
    「あ、なたに、そのような方がいたとは驚きだ」
     周りを囲んでいた娘の内の誰かだろうか。それとも、ほかの宗主の娘だろうか。誰だってかまわない。早くここからいなくなりたい。
    「その方はもういいのか。俺にかかずらっていないで、戻ったらどうだ」
    「いえ、その方はもうあちらにはいませんから」
    「そうか……、いや、どちらにしても、俺をかまう必要はないだろう。まだ、俺は歩くから、あなたは戻られてはいかがか」
     江澄が一歩下がると、なぜか沢蕪君も一歩近寄る。
     二歩、三歩、と同じことをくり返して、そのたびに距離が狭まる。
    「なぜ、こちらへ来る」
    「どうして、遠ざかろうとするのです」
    「俺は、散歩を……」
    「あなたは、私があなたを追って来たとは考えないのですか」
    「は?」
     江澄が立ち止まると、沢蕪君は目の前にいた。月がかげった闇の中でも、輪郭が分かるくらいの距離だった。
    「宴の間、ずっとあなたの視線を感じていました」
    「気のせいだ」
    「私が、気になる方がいると言ったとたんに、青ざめて」
    「こんな暗さで見えるものか」
    「理由が知りたい」
     気が付けば両手を取られていた。ぎゅっと握った手は熱く、江澄は逃れることも忘れた。
     じっと見つめてくる瞳は、今までにない近さで江澄の顔を映している。
    「教えてください、江宗主」
     心臓がろっ骨をでたらめに叩いている。
     露見してはいけない醜悪な汚泥が、さらされようとしている。
     江澄は腕を引いたが、沢蕪君はしっかりと握ったままで、離れるどころかぐいと引き寄せられた。
    「もし、私が、あなたと同じ気持ちだと言ったら、教えてくれますか」
    「なにを……」
    「あなたが、偉宗主と寄り添っているところを見たときの私は、きっとさきほどのあなたと同じ顔をしていたことでしょう」
     とうとう、沢蕪君との距離はなくなった。
     江澄は白い袖の内側にいて、背中にはあたたかな手のひらがあった。
    「今日まで、自信がなくて、伝えられませんでした」 
     耳のすぐそばで聞こえる声は、たしかに沢蕪君のものである。
     白檀の香が、鼻腔を満たす。
    「でも、私の思い上がりではありませんよね」
     美しい娘の手を除けていた沢蕪君のその手が、江澄の頬をなでていく。
     江澄はおそるおそる白い衣の端を握った。
     息のかかる距離で、沢蕪君がささやく。
     江澄にだけ聞こえる声だった。
     月でさえ、闇に隔てられた夜のことだった。
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    PROGRESS恋綴3-5(旧続々長編曦澄)
    月はまだ出ない夜
     一度、二度、三度と、触れ合うたびに口付けは深くなった。
     江澄は藍曦臣の衣の背を握りしめた。
     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

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    PROGRESS長編曦澄17
    兄上、頑丈(いったん終わり)
     江澄は目を剥いた。
     視線の先には牀榻に身を起こす、藍曦臣がいた。彼は背中を強打し、一昼夜寝たきりだったのに。
    「何をしている!」
     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
    「ど、どうした」
    「怪我はありませんでしたか」
    「見ての通りだ。もう左腕も痛みはない」
     江澄は呆れた。どう見ても藍曦臣のほうがひどい怪我だというのに、真っ先に尋ねることがそれか。
    「よかった、あなたをお守りできて」
     藍曦臣は目を細めた。その拍子に目尻から涙が流れ落ちる。
     江澄は眉間にしわを寄せた。
    「おかげさまで、俺は無事だったが。しかし、あなたがそ 1337

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    PROGRESS恋綴3-2(旧続々長編曦澄)
    転んでもただでは起きない兄上
     その日は各々の牀榻で休んだ。
     締め切った帳子の向こう、衝立のさらに向こう側で藍曦臣は眠っている。
     暗闇の中で江澄は何度も寝返りを打った。
     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
     藍渙、と声を出さずに呼ぶ。抱きしめられた感触を思い出す。 3050

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    PROGRESSたぶん長編になる曦澄その1
    閉関中の兄上の話。
     穏やかな笑みがあった。
     二哥、と呼ぶ声があった。
     優美に供手する姿があった。

     藍曦臣はゆっくりとまぶたを持ち上げた。
     窓からは午後の光が差し込んで、膝の上に落ちている。眼裏に映った姿はどこにもなく、ただ、茣蓙の青が鮮やかだ。
     閉閑して一年が過ぎた。
     今に至っても夢に見る。己の執着もなかなかのものよと自嘲する。
     優しい人だった。常に謙虚で、義兄二人を立て、立場を誇ることのない人だった。大事な、義弟だった。
     毎晩、目をつむるたびに彼の姿を思い出す。瞑想をしたところで、幻影は消えるどころか夢へといざなう。
     誘われるままについて行けたら、この苦悩は消え去ってくれるだろうか。あの時のように、「一緒に」とただ一言、言ってくれたら。
    「兄上」
     締め切ったままの戸を叩く音がした。
     藍曦臣は短く息を吐いた。
    「兄上」
    「どうかしたかい」
     弟に応えて言う。
     以前、同じようにして藍忘機に呼びかけられても、どうにも答える気になれなかった時があった。そのとき弟は一時もの間、兄上と呼び続けた。それから、藍曦臣は弟にだけは必ず返事をするように心がけている。
    「江宗主より、おみやげに西 3801

    takami180

    PROGRESS長編曦澄15
    おや、再び兄上の様子が……
     あの猿は猾猿という怪異である。
     現れた土地に災禍をもたらす。
     姑蘇の、あまりに早く訪れた冬の気配は、疑いなくこの猾猿のせいである。
     猾猿は気象を操る。江澄を襲った倒木も、雨で地面がゆるんだところに風が吹きつけた結果だった。
    「何故、それを先に言わん」
    「あんな状況で説明できるわけないだろ」
     魏無羨はぐびりと茶を飲み干した。
     昨夜、江澄は左肩を負傷した。魏無羨と藍忘機は、すぐに江澄を宿へと運んだ。手当は受けたが、想定よりも怪我の程度は重かった。
     今は首に布巾を回して腕を吊っている。倒木をもろに受けた肩は腫れ上がり、左腕はほとんど動かない。
     そして今、ようやく昨日の怪異について説明を受けた。ちょっとした邪祟などではなかった。藍家が近隣の世家に招集をかけるような大怪異である。
    「今日には沢蕪君もここに来るよ。俺が引いたのは禁錮陣だけだ。あの怪を封じ込めるには大きな陣がいるから、人を集めてくる」
     話をしているうちに藍忘機も戻ってきた。彼は江澄が宿に置きっぱなしにした荷物を回収しに行っていた。
    「なあ、藍湛。江家にも連絡は出したんだろ?」
    「兄上が出されていた」
    「入れ違いにな 1724