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    takami180

    @takami180
    ご覧いただきありがとうございます。
    曦澄のみです。

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    takami180

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    曦澄_嫉妬_続き1
    ワンライで書いた曦澄の続きその1

    #曦澄

     唇にやわらかく触れるものを感じて、江澄は思わず胸を押し返した。
     いきなりで驚いた。まだ、動揺がおさまらないのに、さらに混乱がかぶさってくる。
     しかし、「なぜ?」とのぞき込んでくる瞳に正直なところは言えなかった。
    「ここでは……」
     口をついて出たごまかしに、藍曦臣はうなずいた。
    「そうですね。こちらへ」
     手を引かれて外廊を行く。
     宴の明かりも遠く、星明かりだけでは足元にも届かない。
     江澄は向かう先も知らぬまま、ただ男について歩いた。白い背中とひるがえる抹額だけが進むべき目印である。
     藍曦臣は客棟のひとつに入ると、暗いままの室内を迷いのない足取りで進んだ。そこが藍曦臣の客室だと江澄が気がついたときには、再びその腕にからめとられていた。
    「えっ」
     倒れる、と思わず藍曦臣にしがみつく。
     次に見えたのは天蓋だった。
    「たくっんんんっ……!」
     構える間もなかった。
     唇の隙間からぬるりと入り込んできたものがなんなのかなんて、わかりきっている。
     江澄は抗議もできず、さきほどのように押し返すこともできずに、目をきつく閉じた。
     いきなりすぎる、と文句が浮かぶが、あっという間に息苦しさにのまれて消えた。
     藍曦臣の舌はかたまったままの江澄の舌を何度もなでる。
    「んん……ふ……」
     次第に、ぞくぞくと背中にしびれが這うようになった。そうなるとふしぎなことに自然と体から強張りも解ける。
    「あ、んんっ」
     唾液が口の端を伝う。
     藍曦臣は角度を変えて口を吸いつづけ、離そうとしない。
     江澄の思考はだんだんと薄れて、気がつくと完全に藍曦臣にすがっていた。
    「江澄……」
    「ひっ」
     耳朶に息を吹き込まれて、江澄は身をすくめた。
    「藍渙と」
    「ら、藍渙」
     江澄は言われるままに名を唇に乗せた。字で呼んだこともないというのに、恐れ多いと思う余裕すらなかった。
    「うれしい」
    「んっ」
     再び深く口づけられる。
     藍曦臣の指がほおをなでて、首すじをなぞり、するりと袷をゆるめていく。
     江澄は気づいていた。気づいていたが、どうすればいいかわからなかった。これから自分がどうなるのかもわからない。藍曦臣の望むこと、それだけがわかっていた。
    「ふあっ……」
    「ああ……、江澄……」
     視線を上げると、藍曦臣が目を細めてほほえんでいた。
    「夢のようだ」
    「……夢、でいい」
    「そのように言わないで。夢にするつもりはないよ」
     藍曦臣の顔が再び近づき、江澄は反射的に目をつぶった。しかし、唇に触れる感触はなく、耳殻をなまあたたかいものがなでていく。
    「っ……!」
     藍曦臣は江澄の肩をなだめるようにさすりつつ、肌の上に唇をすべらせる。
     勝手に背が跳ねた。
     今まで知らなかったしびれるような感覚が表皮を這っていく。
     江澄は下唇をかんだ。
     やめてくれ、待ってくれ、と転がり出そうになった言葉が、行き場をなくして咽喉の奥で渦を巻く。
     本当に夢かもしれないのだ。次はないかもしれないのに、静止をかけられるわけがない。
     藍曦臣は首元に顔を埋めて、そこを舐めたり、吸ったりをくり返す。鎖骨から、喉仏をたどり、胸骨に下りたところで彼はようやく顔を上げた。
    「江澄、江澄、口を開けて」
    「……っは、は」
     詰めていた息が解放されて、江澄は何度も短く息を吐いた。のぞきこむ藍曦臣の顔がにじんでいく。
    「すみません、無理をさせました」
     江澄は首を振った。
     声はまだ出せない。
    「舞い上がってしまいました。許してください」
     許すもなにも、藍曦臣は悪くない。そう思うのにまなじりからはしずくが伝い落ちる。
     藍曦臣はそれを拭い取り、いまだ声を出せない江澄の唇に触れた。
    「いやなことをしましたね。もうしません。大丈夫ですから」
     安心させようとしているのか、彼はいつもの笑顔を作り、体を起こす。
     なにも大丈夫ではない。
     江澄は慌てて、藍曦臣の衣をつかんだ。
    「い、いやじゃない」
    「江澄……」
    「平気だ、大丈夫だから」
     今、この機を逸したら、この人に触れてもらえることはもうないかもしれない。せっかく、なにかの気の迷いで望んでもらえているのに、それをふいにするつもりはない。
     しかし、藍曦臣は江澄を見下ろしたまま動かない。
    「無理を強いるつもりはありません」
    「無理じゃない」
    「本当に?」
    「ああ」
     藍曦臣は「それなら」と身をかがめ、江澄の耳に唇を寄せた。
    「力を抜いて」
     手のひらが、衣の上から胸をなでていく。
    「そう、ゆっくり息を吸って」
     江澄は言われたとおりにつとめたが、その間にも藍曦臣の手が脇腹や腰をさするものだから、どうしても体は強張ってしまう。
     さらには耳に熱い息を吹きかけられて、江澄は「う」と肩をすくめた。
    「ふふ、江澄。ありがとう」
    「え?」
     目を開けると、また藍曦臣の笑顔があった。
    「今日はもう寝ましょう」
    「は?」
     藍曦臣は江澄の隣に横になると、「おいで」と体を抱き寄せる。
     そうして、そのまま本当に寝息を立てはじめた。
     江澄は呆然と天蓋を見つめた。
     自分が失敗したことだけがわかっていた。
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     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
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    「んんっ」
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     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

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     しばらく行った先には涼亭があった。江家離堂の裏に位置する。
    「おはようございます」
     涼亭には藍曦臣がいた。見慣れた校服ではなく、江家で用意した薄青の深衣をまとっている。似合っていいわけではないが、違和感は拭えない。
     江澄は拱手して、椅子についた。
    「さすが早いな、藍家の者は」
    「ええ、いつもの時間には目が覚めました。それは蓮の花托でしょうか」
    「そうだ」
     江澄は無造作に花托を卓子の上に置き、そのひとつを手に取って、藍曦臣へと差し出した。
    「採ったばかりだ」
    「私に?」
    「これなら食べられるだろう」
     給仕した師弟の話では、昨晩、藍曦臣は粥を一杯しか食さず、いくつか用意した菜には一切手をつけなかったという 2183