Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    takami180

    @takami180
    ご覧いただきありがとうございます。
    曦澄のみです。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💙 💜 🍉 🍌
    POIPOI 101

    takami180

    ☆quiet follow

    恋綴4-9
    ひさしぶりですみません。
    短いですが、尻叩きの意味も含めて上げさせてください。

    #曦澄

     夕方になって江澄は目を覚ました。
     藍曦臣が古琴を弾き続けていたことに気が付くと、彼は申し訳なさそうにするでもなく笑顔を浮かべた。
    「本当だ、いてくれたのだな」
    「ええ、約束いたしましたので」
    「うれしい」
     藍曦臣が牀榻に腰かけると、彼はすぐに腕を伸ばして抱きついてきた。やはり体が細い。背中をなでるとよくわかる。
    「今日はなにをしたんですか」
    「いつもどおりだ。仕事が片付かなくてな」
    「起きている間はずっと仕事ですか?」
    「そうだな。最近は仕事しかしていない」
    「夜狩りにも行っていないのですね」
    「そういえば、行っていないな」
     藍曦臣は少し体を離して、両手で江澄の頬を包んだ。
    「私が来るまで、夢の中ではなにをしていました?」
     藍曦臣は確信していた。江澄は夢とうつつを取り違えている。彼にとって現実は夢の中にあり、夢は現実なのだ。
     江澄はふしぎそうに眉根を寄せつつも、「仕事だ」と答えた。
    「夢でも仕事が多かったな。だから、ものすごく疲れていたんだ。全然休んだ気がしなくて、夜狩に行く気にもなれなくて」
    「そうでしたか」
    「でも、あなたが来てからいいことばかりだな。ちゃんと休めるし……、ああ、でも」
     江澄は藍曦臣の手に頬を擦りつけながら、眉根を下げた。
    「本当は、現実であなたに会いたい」
    「阿澄」
    「文を、出してみたんだが、返事がないし、もう本当に会えないかもしれない」
     藍曦臣はたまらずに江澄をきつく抱きしめた。
     どうやら江澄は彼の現実の中で藍曦臣をあきらめることなく、関係の修復を図っていたらしい。
    「抱いてくれ、藍渙。あなたにこうして会えるうちに、あなたを覚えておきたい」
     江澄は藍曦臣の髪をかき分け、あらわになった耳に唇を寄せた。
     藍曦臣も今度はそれをとどめず、江澄の体を押し倒した。彼にとっては夢でも、己にとっては現実である。こんなふうに肌を重ねて、あとで江澄は傷つかないだろうか。だが、求めてくれる本心は間違いでないと信じたい。
     藍曦臣は江澄の首元に顔を埋め、その肌に吸いついた。



     安学逸は元々、向家の門下であった。十五の歳に自ら志して江家に移り、失われた蓮花塢の書物について、集積と修復を行ってきた。
     向家は今こそほどほどに大きな世家ではあるが、かつては江家の翼下にあった。武を得意とせず、呪術の研究と開発に重きを置いていた。五代前に遡れば、江家宗主の妹が嫁いでくる近さである。
     その彼が、夜半に前庭に出ていた。庭は夜狩から帰ったばかりの一団でにわかににぎわっている。
     安学逸はその中にいたひとりの仙子の腕をつかんだ。
    「ようやくつかまえたぞ、向陽紗」
    「学兄! 学兄こそ! やっと会えた!」
     向陽紗は飛び上がって笑顔になった。
     安学逸が向門下にあったころ、彼女は十歳にも満たない子どもであった。よく子どもの相手をした安学逸を慕って、しょっちゅう後をついて歩いていた。
     しかし、安学逸のほうは厳しい顔をくずさない。
    「ふざけるな。お前、宗主になにをした」
    「なにって? なに? 江宗主になにかあったの?」
    「ここのところ表にお出ででない」
    「え! そうなの!」
    「しらばっくれるつもりか」
    「そんなこと言われても! 私だって三日も夜狩に出てたんだ。今帰ったところだし、なにかできるわけがないよ」
     安学逸はそれでも引き下がらずに、向陽紗の腕を引いた。
    「向家には呪織があるだろう」
     向家の編み出した術式の中に呪織というものがある。通常は札に書く呪紋を布に織るという術であったが、おそろしく手間がかかる。機織りの間霊力を流し続ける必要があり、さらには裁断すると効力を失うという、まったく実践的ではない術であった。
     しかし、逆手を取れば、手間さえかければいいのである。しかも、周知されていない術となれば警戒されることもない。
     これほど貴人に害をなすのに適当な術はないと思えた。
     しかし、向陽紗は首をかしげた。
    「呪織?」
     初めて聞いたと言わんばかりの表情に、安学逸も怪訝な顔になる。
    「まさか、知らないのか」
    「うん、聞いたことない。なんだ、それ」
     安学逸は思わず口元を手で隠した。
     杞憂か、と一瞬安堵したものの、あれは運び手を選ばない。向陽紗が正体を知らずとも、呪織が江宗主のそばに運び込まれた可能性はある。
    「向家から贈物があっただろう」
    「ああ、うん。なんか、いっぱいあった」
    「内訳を覚えているか」
    「覚えてるわけないよ! ほとんど返しちゃったし」
    「ならば受け取ったものは?」
    「えーと……、興味ないから聞かなかった」
     がっくりと肩を落とす安学逸に、向陽紗は慌てて記憶をたどった。
     たしか、あのとき取りまとめていたのは誰だったか。
     受け取ることにした物品を采配していたのもたしか同じ人だったはず。
    「秀師兄!」
     唐突に叫んだ向陽紗は、安学逸の両肩をつかんでゆすった。
    「学兄! 秀師兄なら詳しく知ってる!」
     二人は顔を見合わせると、急いで試剣堂へと向かった。
     夜狩の報告を受けるため、師兄の誰かひとりはいるはずだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺👏👏🙏👏👏👏🙏🙏🙏🙏🙏🙏👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏🙏👏👏👏💕☺👏👏👏👏👏👏🙏👏💕💕👍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    takami180

    PROGRESS長編曦澄17
    兄上、頑丈(いったん終わり)
     江澄は目を剥いた。
     視線の先には牀榻に身を起こす、藍曦臣がいた。彼は背中を強打し、一昼夜寝たきりだったのに。
    「何をしている!」
     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
    「ど、どうした」
    「怪我はありませんでしたか」
    「見ての通りだ。もう左腕も痛みはない」
     江澄は呆れた。どう見ても藍曦臣のほうがひどい怪我だというのに、真っ先に尋ねることがそれか。
    「よかった、あなたをお守りできて」
     藍曦臣は目を細めた。その拍子に目尻から涙が流れ落ちる。
     江澄は眉間にしわを寄せた。
    「おかげさまで、俺は無事だったが。しかし、あなたがそ 1337

    takami180

    PROGRESS恋綴3-5(旧続々長編曦澄)
    月はまだ出ない夜
     一度、二度、三度と、触れ合うたびに口付けは深くなった。
     江澄は藍曦臣の衣の背を握りしめた。
     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

    takami180

    PROGRESS恋綴3-2(旧続々長編曦澄)
    転んでもただでは起きない兄上
     その日は各々の牀榻で休んだ。
     締め切った帳子の向こう、衝立のさらに向こう側で藍曦臣は眠っている。
     暗闇の中で江澄は何度も寝返りを打った。
     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
     藍渙、と声を出さずに呼ぶ。抱きしめられた感触を思い出す。 3050

    recommended works

    sgm

    DONE現代AU
    ツイスターゲームをしようとする付き合い立て曦澄。
     確かに、藍曦臣があげた項目の中に「これ」はあった。そして自分もしたことがないと確かに頷いた。
     ただ、あまりその時は話を聞けていなかったのだ。仕方がないだろう?
     付き合い始めて一か月と少し。手は握るが、キスは付き合う前に事故でしたきりでそれ以上のことはしていない。そんな状態で、泊まりで家に誘われたのだ。色々と意識がとんでも仕方がないではないか。もしもきちんと理解していれば、あの時断ったはずだ。十日前の自分を殴りたい。
     江澄は目の前に広がる光景に対して、胸中で自分自身に言い訳をする。
     いっそ手の込んだ、藍曦臣によるからかいだと思いたい。
     なんならドッキリと称して隣の部屋から恥知らず共が躍り出てきてもいい。むしろその方が怒りを奴らに向けられる。期待を込めて閉まった扉を睨みつけた。
     だが、藍曦臣が江澄を揶揄することもないし、隣の部屋に人が隠れている気配だってない。いたって本気なのだ、この人は。
     江澄は深いため息とともに額に手を当てる。
     「馬鹿なのか?」と怒鳴ればいいのだろうが、準備をしている藍曦臣があまりにも楽しそうで、金凌の幼い頃を思い出してしまうし、なんなら金凌の愛犬が、 4757

    newredwine

    REHABILI
    味覚を失った江澄が藍曦臣とリハビリする話(予定)②辿り着いた先は程々に栄えている様子の店構えで、藍曦臣の後について足を踏み入れた江澄は宿の主人に二階部分の人払いと口止めを命じた。階下は地元の者や商いで訪れた者が多いようで賑わっている。彼らの盛り上がりに水を刺さぬよう、せいぜい飲ませて正当な対価を得ろ、と口端を上げれば、宿の主人もからりと笑って心得たと頷いた。二家の師弟達にもそれぞれの部屋を用意し、酒や肴を並べ、一番奥の角の部屋を藍曦臣と江澄の為に素早く整え、深く一礼する。
    「御用がありましたらお声掛けください、それまでは控えさせていただきます」
    それだけ口にして戸を閉めた主人に、藍曦臣が微笑んだ。
    「物分かりの良い主人だね」
    江澄の吐いた血で汚れた衣を脱ぎ、常よりは軽装を纏っている藍曦臣が見慣れなくて、江澄は視線を逸らせた。卓に並んだ酒と肴は江澄にとって見慣れたものが多かったが、もとより藍氏の滞在を知らされていたからか、そのうちのいくつかは青菜を塩で炒めただけのものやあっさりと煮ただけの野菜が並べられていた。茶の瓶は素朴ではあるが手入れがされていて、配慮も行き届いている。確かに良い店だなと鼻を鳴らしながら江澄が卓の前に座ろうとすると、何故か藍曦臣にそれを制された。
    2924