Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    takami180

    @takami180
    ご覧いただきありがとうございます。
    曦澄のみです。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💙 💜 🍉 🍌
    POIPOI 101

    takami180

    ☆quiet follow

    曦澄ワンドロワンライ
    第十三回お題「食事」
    本編終了後、付き合ってない曦澄。

    #曦澄

     準備は前日からはじめる。
     まず、よく太った豚を一頭選ぶ。これを十人がかりで屠殺場に運び、首を突いて殺す。そこから血抜きをする。その間にわらを持ってこさせ、血抜きが終わった豚にかぶせて燃やす。これで毛が取れる。最後に煤で黒くなった豚に水をかけて洗い、ようやくさばける状態になる。
     さばくのは料理人に任せる。江澄は骨付き肉ともも肉を分けてもらって、この日の準備を終えた。

     翌朝は日の出とともに蓮根を採りに出る。
     蓮根畑の主人に従って、水に潜り蓮根を掘り出す。水が泥でにごる。
     舟二艘がいっぱいになるまで採ったら戻る。三人で抱えられる分を分けてもらって、邸に戻る。
     料理人五人と一緒に大量の蓮根を洗う。穴の中まできれいにする。
     それから用途に応じて切り分ける。
     乱切り、輪切り、薄めのいちょう切り、粗いみじん切り、すりおろし用には丸ごと残す。
     昨日、分けてもらった骨付き肉は江澄が蓮根を採っている間に料理人が煮てくれた。それと乱切りの蓮根を鍋に入れて火にかける。
     もも肉は叩いてひき肉にする。半分は粗いみじん切りにした蓮根と、葱と茸と合わせてあんこを作る。もう半分は葱と混ぜて蓮根に盛る。
     鉄板を火にかける。その上に蓮根の肉盛りを並べて焼く。
     その隣で鉄鍋に油を敷く。いちょう切りの蓮根を炒める。塩を振り、唐辛子を少しだけ入れる。
     それから料理人が用意してくれていた生地で先ほど作っておいたあんこを包む。包み終わったら料理人に引き渡して蒸してもらう。
     最後に残しておいた蓮根をすりおろす。小麦粉と混ぜ合わせ、そこに刻んだ韮を加える。できた生地を平たくまるめて並べて置く。鉄鍋に今度は油をたっぷりと入れる。さっと揚げる。
     江澄は額の汗を手の甲でぬぐった。もう昼に近い。しかし、何とか間に合いそうだ。
     そこに門弟の一人が走ってやってきた。
    「宗主! いらっしゃいました! 客房にお通ししました!」
    「わかった、行こう」
     江澄はいったん自室に戻って、内衣から全部を着替えた。
     蓮根を採った後に一度衣を変えていたが、料理をしているうちに汗だくになっていた。
     夏、沢蕪君は蓮花塢に盛りの蓮を見に来た。そのときに言っていた。
    「秋には蓮根が旬を迎えますね。きっと、とてもおいしいのでしょうね」
     それを聞いて江澄は決めたのだ。この人を招いて、存分に蓮根を味わってもらおうと。
    「お待たせした、沢蕪君」
    「江宗主、お久しぶりです」
     微笑んで拱手する男は、また少しやせたようだった。閉閑を解いて後、彼は無理を押して仕事をしている。
    「夏におっしゃっていたので、蓮根づくしの食事をご用意いたしましたよ」
    「それは、楽しみです」
     この人の笑顔が好きだと思う。
     この人の力になりたいと思う。
     でも、宗主としての付き合いしかない自分にできることは限られているから。
     煮る、焼く、炒める、揚げる、蒸す。
     思いつく限りの調理法を使った。
     どれかひとつでも気に入ってもらえるといい。
     江澄は門弟をひとり呼び寄せて、食事を運んでくるように伝えた。
     緊張で手が震えた。

     江澄は知らなかった。
     前日に宗主自ら豚を下ろしたと町で噂になっていたことも。
     宗主が茸や韮を買っていったと八百屋の店主の妻が触れ回っていたことも。
     明日の朝、宗主がうちの畑に蓮根を採りに来るんだと誰彼かまわずにしゃべっていた爺やがいたことも。
     それを聞いた沢蕪君が、蓮根を採る様子を見に来ていたことも。
    「宗主はもうすぐ参ります。ここでお待ちください。え? ああ、今、お出しする料理をですね」
     江澄が何をしているか、つまびらかにしゃべっていた門弟がいることも。

    「ありがとうございます」
    「いや、あなたは客人だからな」
     沢蕪君は箸を取って、並ぶ器をながめて、なぜか江澄にほほえみかけた。
     江澄は首をかしげつつ、蓮根の炒め物を口に運んだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ♓ℹ❣👏👏☺🙏☺🙏💘💕☺💞☺💞☺💞💞☺👍☺☺☺💯👏👏💞💖👏☺☺💞☺☺☺☺💖💖💘💘💘💘👏👏👏👏☺☺☺💯💯💯💯☺☺☺👏💕💕
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    takami180

    PROGRESS長編曦澄17
    兄上、頑丈(いったん終わり)
     江澄は目を剥いた。
     視線の先には牀榻に身を起こす、藍曦臣がいた。彼は背中を強打し、一昼夜寝たきりだったのに。
    「何をしている!」
     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
    「ど、どうした」
    「怪我はありませんでしたか」
    「見ての通りだ。もう左腕も痛みはない」
     江澄は呆れた。どう見ても藍曦臣のほうがひどい怪我だというのに、真っ先に尋ねることがそれか。
    「よかった、あなたをお守りできて」
     藍曦臣は目を細めた。その拍子に目尻から涙が流れ落ちる。
     江澄は眉間にしわを寄せた。
    「おかげさまで、俺は無事だったが。しかし、あなたがそ 1337

    takami180

    PROGRESS恋綴3-5(旧続々長編曦澄)
    月はまだ出ない夜
     一度、二度、三度と、触れ合うたびに口付けは深くなった。
     江澄は藍曦臣の衣の背を握りしめた。
     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

    takami180

    PROGRESS恋綴3-2(旧続々長編曦澄)
    転んでもただでは起きない兄上
     その日は各々の牀榻で休んだ。
     締め切った帳子の向こう、衝立のさらに向こう側で藍曦臣は眠っている。
     暗闇の中で江澄は何度も寝返りを打った。
     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
     藍渙、と声を出さずに呼ぶ。抱きしめられた感触を思い出す。 3050

    recommended works

    sgm

    DONEアニメ9話と10話の心の目で読んだ行間。
    現曦澄による当時の思い出話。
    諸々はアニメに合わせて。ややバレあり。
    [蓮の花咲く]にいれよ〜て思って結局入らなかったやつ
     藍曦臣と睦みあいながらも交わす言葉は、睦言ばかりではなかった。
     夕餉の後、蓮花塢ならば江澄の私室か、真冬以外は四阿で。雲深不知処ならば寒室で。酒と茶を飲みながら語り合う。対面で語り合うときもあれば、すっぽりと藍曦臣に後ろから抱きこまれている時もあるし、藍曦臣の膝を枕にして横たわりながらの時もあった。
     一見恋人として睦みあっているかのようでも、気が付けば仕事の話の延長線上にあるような、最近巷で噂になっている怪異について、天気による農作物の状況や、商人たちの動きなど領内の運営についての話をしていることも多い。
     六芸として嗜んではいるが、江澄は藍曦臣ほど詩や楽に卓越しているわけでもなく、また興味はないため、そちらの方面で会話をしようとしても、あまり続かないのだ。そちらの方面の場合はもっぱら聞き役に徹していた。ただ聞いているだけではなく、ちょうど良い塩梅で藍曦臣が意見を求めてきたり、同意を促してくるから、聞いていて飽きることはなかった。書を読まずとも知識が増えていくことはなかなか良いもので、生徒として藍曦臣の座学を受けているような気分になれた。姑蘇藍氏の座学は今でも藍啓仁が取り仕切って 5582

    takami180

    PROGRESSたぶん長編になる曦澄その6
    兄上が目覚める話
     粥をひとさじすくう。
     それを口に運ぶ。
     米の甘味が舌を包む。
     藍曦臣は粥の器をまじまじと見つめた。おいしかった。久しぶりに粥をおいしいと感じた。
     添えられた胡瓜も食べられた。しゃりしゃりとしている。
     包子も口にできた。蓮の実の包子は初めてだった。さすがに量が多くて大変だったが、どうにか食べ切りたいと頑張った。
     食事を終えて、藍曦臣は卓子の上、空の器をながめた。
     たった三日で人はこれほど変わるものなのだろうか。
     首を傾げて、ふと気が付いた。
     そういえば、阿瑶は。
     あれほど、いつも共にあった金光瑶の影がない。目をつむっても、耳を澄ませても、彼の気配は戻ってこない。
     騒々しい町の音だけが藍曦臣を取り巻いている。
    「阿瑶」
     返事はない。当然である。
     藍曦臣は静かに涙を落とした。
     失ったのだ。
     ようやく、彼を。
    「阿瑶……」
     幻影はなく、声も浮かばず、思い出せるのはかつての日々だけである。
     二人で茶を楽しんだ。花を見た。幼かった金宗主をあやしたこともあった。
     そこに江宗主がいることも多かった。
     今やありありと目に浮かぶのは彼の顔だ。
     喜怒哀楽、感情を素直 2851