Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    takami180

    @takami180
    ご覧いただきありがとうございます。
    曦澄のみです。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💙 💜 🍉 🍌
    POIPOI 101

    takami180

    ☆quiet follow

    曦澄ワンドロワンライ
    第十六回お題「冬支度」
    支部の雨路を通う、の二人。
    体だけの関係、付き合ってない曦澄。

    #曦澄

     江澄が雲深不知処に着く頃に雨が降り出した。
     藍曦臣は山門で待ち構えていて、小雨の中を二人で寒室に急いだ。
     寒室にはすでに火鉢が出されていた。
     濡れた外衣を脱いで、かごにかぶせて乾かす。
    「どうして、迎えに来ていたんだ。あなたまで濡れることはなかっただろう」
    「空を見ていたら御剣するあなたが見えたもので、つい」
     藍曦臣は「とりあえず」と江澄の肩に白い衣をかけて、火鉢のそばに座らせると、自分は茶の用意をしに出ていった。
     衣からは白檀の香りがする。
     江澄はしかたなしに座って待つことにした。
     夕暮れの雨は外廊を濡らし、時折、屋根から滴ったしずくがぱたぱたと音を立てる。
    「少しは温まりましたか」
     藍曦臣は戻ってくると、手際よく茶を蒸して、江澄に差し出した。茶碗を手に取ると、じわりと手のひらが熱くなる。
    「まあな。あなたも、もう少しそばにきたらどうだ」
     茶を口に含むとさわやかな香りが鼻を抜けた。
     火鉢は江澄の傍らにあり、卓子を挟んで座す藍曦臣が暖を取れているようには思えない。
     藍曦臣は微笑んだだけで動こうとしなかった。
     しばらく、沈黙が続いた。
     このところ、藍曦臣は妙だ。会うとなると、すぐに抱き合ってばかりいたはずなのに、今日もこんなふうに茶を用意して、触れてくる気配がない。伏し目がちにして、視線も合わない。
     興味が失せたというなら呼び出さなければいいのに、と思う一方で、文があればのこのこやってきてしまう自分が恨めしい。
    「おや」
     ふいに藍曦臣が顔を上げた。
     窓際に立つ。
     黒髪に沿って流れる抹額の白さに、どきりとする。
    「みぞれになりましたね」
     そういえば音が変わった。重たい音が耳に響く。
    「もう、冬の支度は済んでいるのか」
    「ええ、先日。皆で野菜を漬けました。きのこも干して、あとは豆を仕込めば終わりです」
    「たくわえは十分にあるのか」
    「おかげさまで、今年はよく採れました」
     藍曦臣は座に戻ってきて、また茶を飲む。
     蓮花塢でも、少し前に収穫の祝いとして豚をつぶした。魚も塩漬けにしてから干した。鶏はよく太っていて、きちんと卵を産む。小麦も米もたくわえがある。
     秋はせわしい。それが一段落するころには、もう冬の入り口だった。
    「忙しいのに、こんなことをしていていいのか」
     藍曦臣がようやく江澄を見た。驚いたように、軽く目を見開いている。
     今度は江澄が目をそらした。言う必要がないことを言った自覚はあった。これで「そうですね」と言われたら、自分はどうする気だろうか。日暮れである。みぞれの中、帰れとは言われないだろうけれど、むしろその時はいたたまれなくて帰らざるを得ない。
     急に手を握られて、江澄は驚いた。
     いつの間にか藍曦臣が傍らに膝をついていた。
    「こんなこと、ではありません」
    「え……、っ!」
     強引に引き寄せられて、口をふさがれた。ぼんやりとあたたまってきていた体が、沸き立つように熱くなる。
     藍曦臣はひとしきり江澄の口内を味わってから、江澄の手を引いた。
    「来てください」
     牀榻に向かいつつ、江澄は揺れる抹額を見つめた。
    (こんなことではない、とは、どういう意味だ)
     牀榻には掛布が何枚も用意されていた。藍曦臣は毛織物の一枚で江澄をくるむと、するりと帯紐を解いた。
     江澄は口をつぐんだままだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖❤❤💘👏💖💕💖💖💖💖💕👏👏👏💖💕💖💖💖💖💖💖💕👏👏💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    takami180

    PROGRESS恋綴3-2(旧続々長編曦澄)
    転んでもただでは起きない兄上
     その日は各々の牀榻で休んだ。
     締め切った帳子の向こう、衝立のさらに向こう側で藍曦臣は眠っている。
     暗闇の中で江澄は何度も寝返りを打った。
     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
     藍渙、と声を出さずに呼ぶ。抱きしめられた感触を思い出す。 3050

    takami180

    PROGRESS恋綴3-5(旧続々長編曦澄)
    月はまだ出ない夜
     一度、二度、三度と、触れ合うたびに口付けは深くなった。
     江澄は藍曦臣の衣の背を握りしめた。
     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

    takami180

    PROGRESS長編曦澄17
    兄上、頑丈(いったん終わり)
     江澄は目を剥いた。
     視線の先には牀榻に身を起こす、藍曦臣がいた。彼は背中を強打し、一昼夜寝たきりだったのに。
    「何をしている!」
     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
    「ど、どうした」
    「怪我はありませんでしたか」
    「見ての通りだ。もう左腕も痛みはない」
     江澄は呆れた。どう見ても藍曦臣のほうがひどい怪我だというのに、真っ先に尋ねることがそれか。
    「よかった、あなたをお守りできて」
     藍曦臣は目を細めた。その拍子に目尻から涙が流れ落ちる。
     江澄は眉間にしわを寄せた。
    「おかげさまで、俺は無事だったが。しかし、あなたがそ 1337

    recommended works