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    takami180

    @takami180
    ご覧いただきありがとうございます。
    曦澄のみです。

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    takami180

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    47都道府県グルメ曦澄企画
    お好み焼き――広島県

     引き戸を開けて、のれんをくぐると威勢のいい「いらっしゃいませ」が響いた。
     右手にカウンター、左手にテーブル席が並ぶ店内はそれほど広くない。
    「何名様ですかー?」
    「二人です」
    「カウンターどうぞー!」
     昼時である。テーブル席はすでに埋まり、カウンター席の空きも少ない。
     江澄と藍曦臣が言われるままにカウンター席に着くと、間髪入れずにお冷とメニューがババッと出された。
     カウンターの目の前には端から端まで広がる鉄板がある。大きいヘラがシャッシャッと音を立てている。
    「どうする」
    「ええっと、どうしましょう」
     江澄に尋ねられて、藍曦臣はあわててメニューを見た。
     種類は少ない。六種類だけだが、写真がなくて、どれがどんなものだかわからない。
    「俺はダブル肉たまにする」
    「ダブル……」
    「腹減ってるし」
     たしかにもう十三時過ぎだった。これから路面電車に乗って観光することを考えると、しっかり食べておいたほうがいいだろう。
     藍曦臣は再びメニューに視線を落とした。
     スペシャル、ダブル肉、ダブルたまご、ねぎ盛り……
    「私は、このねぎ盛りにします」
    「お決まりですかー?」
     メニューを指差したとたんに、カウンターの向こうから声がかかった。江澄は即座に注文を返し、藍曦臣は「そっちのお兄さんは?」と聞かれて答えた。
     江澄がおかしそうに笑っている。
    「お飲み物はー?」
    「ビール」
    「えっと、烏龍茶で」
     店員は注文を聞き取ると、ぱっとボールを手に取った。お玉でタネを鉄板に二回落として、くるくるっと薄くのばす。その次には鰹節を生地の上に散らして、どさどさとキャベツを山と盛る。キャベツは太めの千切りだ。続けて天かすがのった。
     藍曦臣はその様子をぽかんと見ていた。ここまで何秒かかったことだろう。
    「失礼しまーす!」
     脇からにゅっと腕が伸びてきて、ビールと烏龍茶をカウンターに置いた。藍曦臣はお礼を言おうと口を開けたが、そのときには店員はすでに背中を向けて別のテーブルへと向かっている。
    「こっち、ビール追加ねー!」
    「はーい!」
     テーブル席から声が飛ぶと、カウンターの店員が手を動かしながら答えた。豚バラの薄切りを山盛りの具材の上にのせて、ヘラでパッパッとひっくり返す。キャベツはほとんど散らばらず、どうやって返しているのか全く分からない。
     藍曦臣の背後では店員がビールジョッキを持って、テーブル席へと向かっていった。
     カウンターの店員はさらに豚バラを三枚取り出すと、二つの山の横に並べた。ジュウジュウと油の焼ける音が立つ。
     その次に鉄板にのったのはそばだった。店員は二枚のヘラでふた玉のそばを軽く混ぜるとまるく置き、その上に具材の山をひょいひょいとのせていく。
    「おもしろいか?」
    「おもしろいです……」
     江澄はビールをちびちびと飲んでいたけれど、藍曦臣のグラスは汗をかくばかりだ。
     カッ、ジャッ、という音が立て続けに三回聞こえた。
     藍曦臣が鉄板に目を戻すと、いつのまにか卵が三つ割られて、ヘラの角でかき混ぜられていた。店員は二個のたまごの上に焼いていた豚バラを置き、そばとキャベツの山をさらにその上にのせた。これは江澄のダブル豚たまだ。
     藍曦臣のねぎ盛りも同じようにして重ねられ、店員は少しだけ散らばった具材をヘラで山へと寄せていく。
     クルクル、シャッシャ、と動くヘラは照明を反射して輝いている。
     次に店員はカウンターの下から銀色のカップを取り出した。大きな刷毛で濃色のソースを生地に塗る。
     一気にソースの香りが広がった。
     藍曦臣は目をしばたいた。
     店員が片方の山に青いねぎをどさりとのせたのだ。もうソースの色が見えない。
     これが「ねぎ盛り」の正体だった。
     店員はその二つの山をすべらせて、江澄と藍曦臣の前に置いた。
    「お待たせしましたー!」
    「ほら、できたって」
     藍曦臣はようやく我に返った。まるで魔法のようだった。
    「これで自分で切って食べればいいんだよ」
     江澄が藍曦臣へと押しやった皿にはヘラが添えられていた。これもいつのまにやってきたのだろうか。
     さっそく江澄は鉄板のお好み焼きをヘラで切り分けている。藍曦臣も見よう見まねでお好み焼きにヘラを差した。ザク、と手応えがある。格子状に切って、皿の上にのせると、ぽろぽろとねぎが落ちた。
     割りばしで一口大にまで小さく分けて、口に運ぶ。
     シャキシャキ、もちもち、カリカリ、とあらゆる食感がする。
    「うまいなあ」
     江澄が小さくつぶやいた。藍曦臣は我知らずうなずき、もう一口食べた。
     甘い。
     キャベツの甘さと、ソースの甘さだ。
     じわじわと広がるのはだしの味だろうか。
    「けっこう多いな、これ」
    「そうですね」
     食べ進めるとわかる。そばの量がだいぶ多い。一枚でじゅうぶんお腹がいっぱいになりそうだ。
     藍曦臣はふと気になってスマートホンの時刻を確認した。
     十三時二十分。
     入店して、まだ十分と少ししか経っていない。
    「すごいですね」
     藍曦臣は鉄板から次の一切れを皿に移しながら、また別の客の一枚を焼き終えた店員に声をかけた。
     店員は目を丸くしてから、「ありがとう」と笑った。
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    sgm

    DONE曦澄ワンドロお題「秘密」
    Twitter投稿していたものから誤字と句点修正版。
    内容は同じです。
     冷泉へ向かう道の途中に注意しないと見逃してしまうような細い道があることに、ある日江澄は気が付いた。
     魏無羨が金子軒を殴って雲夢に戻りひと月ほどたった頃だったろうか。
     魏無羨が帰ってからというもの、江澄は一人で行動することが多くなった。
     時折は聶懐桑と一緒に行動することもあるが、半分かそれ以上は一人だった。
     藍氏の内弟子以外は立ち入りを禁止されているところも多くあるが、蓮花塢と違って、この雲深不知処は一人で静かに過ごせる場所に事欠かない。誰も来ない、自分だけの場所。かつ、仮に藍氏の内弟子に見つかったとしても咎められないような場所。そうして見つけたのが、この細い道を進んだ先にある場所だった。おそらく冷泉に合流するだろう湧き水が小川とも呼べないような小さな水の道筋を作り、その水を飲もうと兎や鳥がやってくる。チロチロと流れる水音は雲夢の荷花池を思い出させた。腰を掛けるのにちょうど良い岩があり、そこに座って少しの間ぼんやりとするのが気に入っていた。ともすれば、父のこと、母のこと、魏無羨のこと、五大世家の次期宗主、公子としては凡庸である己のことを考えてしまい、唇を噛み締めたくなることが多 3083

    takami180

    PROGRESS続長編曦澄4
    あなたと口付けを交わしたい
     さわやかな朝に似合わない、沈鬱なため息がもれる。
     客坊に向かう江澄の足取りは重い。
     どんな顔をして藍曦臣に会えばいいのかわからない。だが、今日姑蘇へ帰る客人を放っておくことはできない。
     さらには厄介なことに、自分は藍曦臣に触れられたいと思っている。手を握られたように、口付けられたように、またあの温もりを感じたい。
    「何なさってるんですか、宗主」
     声をかけられて我に返った。いつのまにか足を止めていた。食事を片付けに行っていた師弟が、訝しげにこちらを見ている。
    「沢蕪君、お待ちですよ」
    「ああ、わかっている」
     江澄は再び歩きはじめた。
     客坊に着くと、藍曦臣はすでに外出の支度を終えていた。
    「おはようございます」
    「おはようございます、江澄」
    「もうお帰りになるのか」
    「ええ」
    「門までお送りしよう」
     江澄は踵を返した。よかった、いつも通りに話せている。
     ところが、「待ってください」と引き止められた。振り返る前に腕を取られる。
    「江澄、ひとつお願いが」
     腰をかがめて、思い詰めたような表情で藍曦臣は言う。江澄はごくりと唾を飲んだ。
    「なんだろうか」
    「また、しばらくあなたに 1443