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    takami180

    @takami180
    ご覧いただきありがとうございます。
    曦澄のみです。

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    長編曦澄12
    おや兄上の様子が……?

    #曦澄

     金鱗台で清談会が開かれる。
     その一番の意味は、新しい金宗主を筆頭にして金氏が盤石であると、内外に知らしめることである。
     江澄はそのために奔走していた。
     今回ばかりは金凌が全面的に表に立たねばならない。彼を支えられる、信頼に足る人物をそろえなければいけない。なにより江澄が苦心したのはそこだった。
     おかげさまで、金光善の時代に金氏を食い物にしていた輩は、金光瑶によって排されていた。しかし、今度は金光瑶に傾倒する人物が残されている。彼らに罪はない。しかし、金凌の側に置くわけにはいかない。
     江澄が目をつけたのは金深微という人物であった。金光善、金光瑶と二人の宗主の側近として職務を果たしてきた仙師である。すでに白頭の老仙師だが、その分見識は深い。
     彼を第一の側近として、その周囲を金凌の養育に関わってきた者たちで囲む。金光瑶の側近でもあった彼が中枢にいれば、派閥の偏りを口実にした批判は潰せる。
     金深微は忠実に黙々と実務に勤しむ。それは宗主が誰であろうと変わらない。そのような彼に信頼が置けるからこそ採用できた布陣である。
     金宗主として宗主の席に座る金凌を、江澄は江宗主の席から見上げた。こうして見ると、まさに侮られやすい少年である。
     しかし、その背後には老年の貫禄をもった金深微が控え、両脇には金凌を幼年から養育してきた女仙が固めてくれている。
     そして、江澄がなにくれと世話を焼く中で、金凌自身が宗主としての自覚をもってくれたのは大きかった。
     彼は参集した宗主たちに気後れせず、朗々と清談会の開催を宣言した。
    「皆様、本日はご出席くださいましてありがとうございます。年若い宗主としてご不安はおありでしょうが、私には支えてくれる師兄たちがおりますのでご安心ください。皆様は私よりもよくご存知かと存じますが、改めて、本日の会を取り仕切ってまいります仙師をご紹介いたします」
     一歩進み出た金深微は、真顔のまま拱手した。
    「皆様、お久しぶりでございます。まずは昼食をお楽しみください。その後、各家剣舞の御披露目となります」
     江澄は視線を自分の膳へと移した。必死になって見張っていなくとも、この分なら問題ないだろう。
     まだ、肩の力を抜くには早いが、はじまりとしては上々だ。
     ふと、向かい側に座る藍曦臣と目が合った。彼は薄く微笑み、すぐに視線を外す。
     想定していなかったことだが、藍曦臣の貢献もあった。彼が閉関を解き、宗主として清談会に姿を現したことである。集まった宗主たちの注目は、金凌よりむしろ藍曦臣にあるといっていい。
     無闇に金凌にからみにいく輩は確実に減っただろう。
     後はなるようになる。
     江澄は盃をあおった。
     
     金鱗台は夜を迎え、宴は一層華やかさを増す。金宗主は若年を理由に、金深微は老年を理由にして早々に席を外したが、その後を埋めたのは江澄と共に金凌を守ってきた百戦錬磨の女仙たちであった。
     彼女たちは華麗に微笑み、文句をつけたがる宗主たちの毒気を抜いていく。
     そして、それに引っかからない厄介な宗主を引き受けるのは、江澄の役目だった。
    「いやはや、金宗主もご立派になられた」
     江澄の隣席に座るのは何宗主である。彼はたくわえたひげをさすりつつ、江澄に含みのある笑みを向けた。
    「江宗主、あなたのおかげですね」
    「いえ、ひとえに金宗主のお力によるものでしょう」
    「ははは、ご謙遜を仰る。まだ、金宗主はお若い。あなたのご助力あってのものでしょう」
    「はあ……」
    「しかし、うらやましいことです。これで雲夢江氏は安泰ですからな」
     これが蓮花塢であれば江澄は大声を張り上げていただろう。しかし、ここは金鱗台、金凌の努力を無にするわけにはいかない。
    「ははは、何宗主、少しお酒を召し上がりすぎたのでは」
    「いやいや、お隠しめされるな。ともあれ、金氏は江氏に大きな恩ができましたな。恩というのは金ではとても贖えないものですから」
     江澄は笑顔のまま、盃を握りつぶす強さで力を込めた。
     いくらなんでも、ここまで言われる筋合いはない。いや、だが落ち着け。金凌ががんばっていたのだ。ここで自分が暴れるわけには。
     そこに、白い衣が割って入った。
     穏やかな微笑みを浮かべて、藍曦臣が何宗主へと拱手する。
    「失礼いたします、何宗主」
    「た、沢蕪君」
    「久しぶりなもので、皆様にご挨拶にうかがっているのですよ」
    「は、はあ、左様で」
    「ところで、先程のお話し、もう一度仰っていただけますか。ええ、あなたの貴重なご意見をしっかりとお聞きしたいと存じまして。私も皆様に比べれば若輩者です。藍家宗主として、省みなければいけないことがあるかもしれません」
    「いやいや、なにも、その、ただの世間話ですよ。ねえ、江宗主」
     江澄はそこでようやく我に返った。
     あまりに突然すぎて、何が起きたか把握ができなかった。呆然としたまま、江澄は何宗主にうなずいた。
    「まあ、世間話といえば、そうですね」
    「ですよねえ、沢蕪君にお聞かせするようなことはなにも……、いや、まいったな。少し飲みすぎたようです。私はこれで」
     そそくさと席を立って広間を出て行く何宗主を見送り、目の前に膝をつき微笑んでいる藍曦臣に視線を戻す。
    「晩吟、大丈夫でしたか」
     苛立ちが爆発する勢いでよみがえった。
     何故、藍曦臣が割り入る必要があったのか。これでは自分ががまんしていた理由が無くなるではないか。
     江澄はさっと広間を見回した。
     会場はすでに散会の雰囲気を漂わせており、主だった宗主たちはすでに客坊へと移動したようだ。これならば金家の師弟に任せても問題はないだろう。
    「ご助力感謝する。失礼」
     江澄は素早く立ち上がって広間を出た。
     藍曦臣が江澄に求めているのは友ではない。庇護する相手だ。くすぶっていた疑念が確証になった瞬間だった。腹立たしいことこの上ない。
     藍曦臣が追いかけてくるのを背後に感じ、江澄は行き先を変えた。言い争う姿をほかの参加者に見せるわけにはいかない。
     藍曦臣もわかっているのだろう。声をかけてくるわけでもなく、ただ連れ立つように歩いていく。
     中庭を抜けて、金氏の私邸に入る手前、涼台へと出た。
     眼下には金鱗台の町の明かりが輝いている。
    「晩吟、どうしました」
     藍曦臣は藍家宗主に似合わない気おくれした様子で立っていた。
     江澄は遠慮せずににらみつけた。
    「どういうつもりだ」
    「どういうとは」
    「あなたは私を子どもだとでも思っているのか」
    「まさか、晩吟、そのようなことは」
    「では、何故、助けた」
     藍曦臣はたじろいだ様子だった。江澄の言葉が理解できないのか、返事はない。
    「私はこれでも江家の宗主として十年以上やってきた。あの程度の輩、一人で対処できる。あなたは私を友だとは思っていないだろう。あなたは」
     目の奥がじんと熱くなった。自分の至らなさを自分で披露する羽目になるとは、まったく情けない。
    「私を義弟の代わりにしたいのか」
     さすがに藍曦臣も眉根を寄せた。彼にとっては言いがかりなのかもしれない。だが、江澄はそうとしか思えなかった。
    「友ならば後で愚痴に付き合ってくれるだけでいい。あなたの庇護を受けるような歳ではない」
     沈黙が下りた。
     江澄はちらちらと瞬く町の灯を見つめた。なるほど、金鱗台は富んでいる。蓮花塢と比べればその富は莫大であろう。それを揶揄する者など、これからいくらでも湧いて出る。
     江澄は全てのものから金凌を守るつもりでいた。その力があると信じていた。
     出鼻を挫かれたようなものだ。
     もし、金宗主の背後に江家と藍家がいるとわかれば手を引く者も多いだろう。藍曦臣が関わる利点はある。しかし、藍家に返せるものはない。それに金家の未来はどうなる。
     江家だけであれば血縁のいいわけが通るが、藍家ともなれば下手を打つと勢力争いに転化する。金家の中から藍家に取り入ろうとする者が現れれば、逆に聶家や他の世家の権力を引き入れようとする者も出るだろう。
     そうなっては金凌と江澄の力だけでは収まりがつかなくなる。
     そのくらいのことを藍家宗主が想像できないはずもない。彼はそれでも口を出したのだ。
    「すみません、晩吟」
    「認めるのか」
    「いえ! いえ……、私が浅はかだったというだけです。決してあなたを、阿瑶の代わりだとは思っていません。それは信じていただきたい」
     藍曦臣は激しく首を振り、言い募る。江澄が驚くくらい必死な声だった。
    「お願いです、晩吟。もう二度、このようなことはしませんから」
    「あ、ああ」
    「私はあなたを大切な……、友と思っているのです」
     江澄はうなずいた。やけに熱っぽい視線にはひるんだが、考えてみれば藍曦臣は義兄弟を二人失っているのだった。彼もまた、失いたくないのだろう。
    「わかった、曦臣。これからもよろしく頼む」
     藍曦臣はほっとしたように表情をゆるめた。だが、すぐに彼は目を伏せた。
    「曦臣?」
    「いえ……、もう亥の刻を過ぎているようです」
    「ああ、そうか。早く戻らないと」
    「ええ、おやすみなさい、晩吟」
     深衣の裾をひるがえし、藍曦臣は客坊の方へと戻っていく。
     江澄はその背を見送りつつ、首を傾げた。
     このときになってようやく、彼と言葉を交わしたのが夜になってからだと気がついた。今までの様子であれば、金鱗台に着いた途端に駆け寄って来そうなものを、今日の藍曦臣はそうしなかった。他家宗主への対応に追われていたのだろうか。
     蓮花塢に戻ったら文を返そうか。まだ、十日前にもらった文に返事をしていなかった気がする。
     江澄は涼台を後にした。
     金鱗台の夜はまだ明るく、星の光はかすんでいる。今夜は月も出ていない。
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    PROGRESS恋綴3-2(旧続々長編曦澄)
    転んでもただでは起きない兄上
     その日は各々の牀榻で休んだ。
     締め切った帳子の向こう、衝立のさらに向こう側で藍曦臣は眠っている。
     暗闇の中で江澄は何度も寝返りを打った。
     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
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    PROGRESS長編曦澄17
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