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    pk_3630

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    平安時代AUの曦×澄♀ ⑥
    今回ちょっとだけセンシティブな表現があります。
    江澄を絶対逃がしたくないという独占欲ゆえに宮中から江澄を攫って隠しちゃう曦臣

    #曦澄

    平安時代AU 第6話「あなたは物の怪の気に当てられたのでしばらく宮中を出ていなさい」
    自分より高位の女官に突然そんなことを言われ江澄は途方に暮れた。
    普通であれば実家に里帰りをすれば済む話なのだが、あの実家に戻りたくはない。入宮してから一度も帰っていないのだ。
    幼い子がいる姉には悪いと思ったが、数日だけ金家の広大な屋敷の片隅に置いてもらおうと早馬で文を出すと、優しい姉は是非屋敷にいらっしゃいと快諾してくれた。姉の香がする手紙を見ると懐かしさに胸がきゅっと締め付けられてしまい、すぐに仕度をして牛車に乗った。

    「姫様、一の姫様にお会いするのは左大臣家の姫君の裳着の式以来でございますね」
    「ええ」
    「若君も大きくおなりでしょう。お会いするのが楽しみでございますね」
    最近気落ちしていることを幼い頃より仕えてくれたこの侍女はわかっており、何かと江澄に話かけてくれる。けれど江澄は適当な相槌しか打てなかった。
    文のやり取りをしている受領の男の妻になることを決め返歌をしたためた。部屋に戻ると何故かその紙は文机からなくなっていたため、きっと侍女が受領に送ったのだろう。
    もう自分の行く道は決まったのだ。この身一つで遠く離れた任地へと嫁ぎ、そうして二度と都の話も曦臣の話も聞かずに生きていく。これで曦臣に醜い姿を晒すことなくお別れできる。金家から戻ったら曦臣に別れの言葉を告げよう。
    悲しいと泣く心を、これで良かったのだと何度も何度も言い聞かせ自分自身を納得させようとした。

    「姫様。何かおかしゅうございます」
    「何が。私はおかしくなどない」
    「姫様のことではありません。この牛車、金家の方角に向かっていないような気がいたします」
    「そんな馬鹿な!」
    そっと横窓の御簾を上げて外を見ると、確かに見たことがない風景が広がっていた。ここはどこなのかと伴の者達に声をかけても誰一人口すらきいてくれない。
    怖ろしくなって震えている侍女を励まし身を寄せていると、やがてどこかの屋敷に止まった。横窓からそっと伺うと都の外れにあるというのに広くて立派な屋敷だった。するとぱっと御簾を上げられ思わず悲鳴を上げそうになる。
    「阿澄、こんばんは。よく来たね。」
    よく知っている優しい声に顔を隠すのも忘れていた。
    「曦臣、何故ここにいるのです。ここはどこ?」
    「ここは私の別邸だよ。阿澄、私につかまって」
    曦臣は牛車から江澄を横抱きにして降ろし、そのまま吊り灯篭が宵闇を照らす朱塗りの廊下を進んでいく。恥ずかしいから降ろしてほしいと江澄は請うたが聞き入れず、部屋に入ってからも曦臣はその腕に江澄を抱えたままじっと顔を見つめていた。
    「曦臣、今の私は物の怪の気に当たっているから離れてください。数日、金家にお邪魔することになっているのです。到着が遅れては姉上が心配してしまう。」
    「金家にはすでに使いを出している。それより、阿澄。あなたは結婚するのだと聞いたけれど私は何も知らない。どういうことなのか説明して」
    「まだきちんと決まったわけではありません。けれど、こんな私でも妻にしてくれるという方がいらっしゃったので、お言葉に甘えようかと」
    「何故急にそんなことを言うの。私にずっと仕えてくれるのではなかった?」
    「曦臣、私ももう年なのです。この期を逃せば本当に結婚できなくなってしまう。やはり私も姉上達と同じように結婚したいと思ったのです。」
    「では、何故受領の妻に?あなた程の人なら名家の貴公子も選べるはず」
    「名家に嫁ぐにはそれなりに仕度をしないといけないでしょう。父が私のために結婚の支度をしてくれるとは思えません。」
    いつか曦臣が女御や更衣を迎えて皇后をたてる姿を見ていることに耐えられないから、それが江澄が結婚をしようとした全てだった。受領の妻を選んだのは、十分な仕度をしてもらえないという理由もあったが、都からなるべく遠く離れ、曦臣が仲睦まじく暮らしている話すら聞かずにいたかったからだ。
    (それなのに自分の心を守りたいがゆえに、優しくしてくれた曦臣に嘘を吐いている。私はなんという程度の低い嫌な女なのだろう。こんな醜い姿をもう一時でも曦臣の前に晒してはならない。)
    予定が早まってしまったが、江澄は別れの言葉を言おうとした。しかし、その言葉が口から出るより前に、曦臣の恐ろしく冷たい声が聞こえてきた。
    「阿澄、私を置いて他の男と結婚するなんて許さない。私の前から勝手にいなくなることも絶対に許さない。」
    「幼い子供のような我儘はおやめください。主上も近いうちに女御を迎えられるでしょう。きっとその姫君と幸せになれます。私のような者はもう捨て置いてください」
    目を逸らして曦臣の顔を見ずに話している江澄は気づいていなかった。曦臣の目に冷たい炎を灯したような怒りが滲んでいたことを。
    「どうしても私から離れたいと…、受領の妻になると言うんだね。その考えを変えるつもりはない?」
    「そう申しております!すでに承諾の返歌も送りました。ですからこんな戯れはやめて早く私を金家に帰してください。私は人の妻となる身なのですから!」
    人の妻となる身、その言葉が江澄の口から発せられたことでついに曦臣の中で何かがぷつりと切れてしまった。
    母のように消えていなくならないで欲しい、大事に慈しみずっと側に置いておきたい。そう思っていた心はひどい嫉妬と独占欲でぐちゃぐちゃに塗りつぶされた。
    抱き上げた身体をそのまま寝台へと運び、細く柔らかい身体を組み敷く。
    突然のことに驚いていた江澄も打掛を脱がされれば、これから何が行われるのかわかった。
    「主上、おやめください!」
    「二人の時は曦臣と呼ぶようにと言ったのに。そのことも忘れてしまった?」
    深く口づけをして江澄の拒絶の言葉を塞ぎ、押しのけようとする手を絡めとる。
    「阿澄、これからあなたを私のものにする。いつものように私に身を委ねて」
    江澄はひどく混乱した。今まで見たことのない曦臣の冷えた目や、笑っていない顔を前にしてたいした抵抗もできず、そのまま行為が終わるまで自分の身の上に起こったことを直視することが出来なかった。



    いつの間に意識が落ちていたのだろうか。白檀の香りに包まれながら、優しく頭を撫でられているのが気持ちよくてふわりと意識が浮上した。
    「阿澄、目が覚めた?」
    夜明けが近く空が白んできたようで、曦臣の顔が夜の灯の中よりもよく見える。
    昨日が嘘のように曦臣は優しい眼差しを向け、白絹の夜着を纏った江澄の身体を労わるように抱きしめていた。その様は宮中での逢瀬と同じなのに、昨夜を境に江澄は決定的に変えられてしまったことに心乱され、ふいに涙が溢れ手で顔を覆った。
    「…いくら私が後ろ盾のない者だとしても…、こんな扱いをするだなんて」
    「阿澄…!すまなかった。私はずっとあなたを恋い慕っていたのに、どうしても言う事ができなかった。私が悪いことは重々承知している。しかし、これは決してあなたを軽んじてのことではない」
    静かに涙を流した江澄に対し、曦臣は慌てて弁明し細い身体を抱きしめながら今までの想いを打ち明けた。
    曦臣は嘘をつくような人ではないから、男女の仲になれなかった理由にもある程度は納得したし、これほどに想われていたというなら素直に嬉しいことでもある。
    しかし、だからといって問題が解決したわけではない。曦臣に抱かれたことで他の男に嫁ぐことはもうできなくなり、曦臣から離れることは難しくなってしまった。人妻にもなれないのなら一体自分はどうすればいいのだろうか。
    「阿澄、愚かな私を許して。あなたが人の妻になると聞いて、私から離れていくと知って、どうしようもなく辛かった。」
    曦臣は江澄の胸に顔を埋めて何度も許しを請い、そして側にいてほしいと乞うた。
    常の優美な帝の姿ではなく、迷子のように必死に江澄を求める姿に絆されてしまう。こんなことがあっても江澄にとって、曦臣は情をかけてくれた優しい人であり誰よりも愛しい人であることに変わりはなかった。
    「曦臣、もう昨夜のことは怒っていないから…。どうか顔を上げて。」
    そっと曦臣の黒髪を撫でると、曦臣ははっとした目で江澄の顔を見つめた。そして、大きな腕に江澄を閉じ込めながら「阿澄、阿澄」と甘く囁き、恋い慕う言葉の数々を惜しみなく与えた。それは宮中に戻るために牛車に乗る時間になるまで続いた。
    「阿澄、今夜も必ずこちらに来るからどうか待っていて」
    嫁ぐことが出来なくなった以上、とりあえずは宮中で女官として働くしかないとわかっていたが、いつか曦臣が女御を迎える姿を見たくないという気持ちがいまだに強く、この時自分も宮中に戻ると言い出せなかった。

    曦臣は朝の言葉通りその夜も、そしてその次の夜も別邸を訪れては江澄を抱いた。
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     その日、寒室の飾り棚には竜胆が生けてあった。小さな黒灰の器に、紫の花弁を寄せ合っている。
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    「お待たせいたしました、兄上」
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     藍曦臣が閉関を解いてから初めての清談会となる。藍曦臣自ら挨拶をするべき宗主、あちらから話しかけてくるのを待った方がいい世家、細々と確認していけばあっという間に時間は過ぎる。
    「こんなものでしょうかね」
    「はい」
    「ふふ」
     藍曦臣は堪えきれずに笑みをこぼした。藍忘機が首を傾げる。
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     それは今朝届いた文だった。
     ——次の清談会について打ち合わせるので、明日より数日金鱗台に滞在する。その帰りに雲深不知処に寄る。一晩、泊まらせてくれ。五日後だ。
     江澄からの文はいつもそっけない。今回は特に短い。しかしながら、その内容は今までで一番嬉しい。
     会ったときにはまた叱られるのかもしれない。あなたは何度指摘すれば覚えてくれるのか、と目を三角にする江澄は容易に想像ができた。
    「友が、会いにきてくれる 2893

    sgm

    DONE曦澄ワンドロお題「失敗」
    Twitterにあげていたものを微修正版。
    内容は変わりません。
    「なぁ江澄。お前たまに失敗してるよな」
     軽く塩を振って炒った豆を口に放り込みながら向かいに座る魏無羨の言葉に、江澄は片眉を小さく跳ね上げさせた。
    「なんの話だ」
     江澄は山のように積まれた枇杷に手を伸ばした。艶やかな枇杷の尻から皮をむいてかぶりつく。ジワリと口の中に甘味が広がる。
    「いや、澤蕪君の抹額結ぶの」
     話題にしていたからか、ちょうど窓から見える渡り廊下のその先に藍曦臣と藍忘機の姿が見えた。彼らが歩くたびに、長さのある抹額は風に揺れて、ふわりひらりと端を泳がせている。示し合わせたわけでは無いが、魏無羨は藍忘機を。そして江澄は藍曦臣の姿をぼんやりと見つめた。
     江澄が雲夢に帰るのは明日なのをいいことに、朝方まで人の身体を散々弄んでいた男は、背筋を伸ばし、前を向いて穏やかな笑みを湛えて颯爽と歩いている。情欲など知りません、と言ったような聖人面だった。まったくもって腹立たしい。口の中に含んだ枇杷の種をもごもごと存分に咀嚼した後、視線は窓の外に向けたまま懐紙に吐き出す。
     丸い窓枠から二人の姿が見えなくなるまで見送って、江澄は出そうになる欠伸をかみ殺した。ふと魏無羨を見ると、魏無羨も 2744

    takami180

    PROGRESS長編曦澄12
    おや兄上の様子が……?
     金鱗台で清談会が開かれる。
     その一番の意味は、新しい金宗主を筆頭にして金氏が盤石であると、内外に知らしめることである。
     江澄はそのために奔走していた。
     今回ばかりは金凌が全面的に表に立たねばならない。彼を支えられる、信頼に足る人物をそろえなければいけない。なにより江澄が苦心したのはそこだった。
     おかげさまで、金光善の時代に金氏を食い物にしていた輩は、金光瑶によって排されていた。しかし、今度は金光瑶に傾倒する人物が残されている。彼らに罪はない。しかし、金凌の側に置くわけにはいかない。
     江澄が目をつけたのは金深微という人物であった。金光善、金光瑶と二人の宗主の側近として職務を果たしてきた仙師である。すでに白頭の老仙師だが、その分見識は深い。
     彼を第一の側近として、その周囲を金凌の養育に関わってきた者たちで囲む。金光瑶の側近でもあった彼が中枢にいれば、派閥の偏りを口実にした批判は潰せる。
     金深微は忠実に黙々と実務に勤しむ。それは宗主が誰であろうと変わらない。そのような彼に信頼が置けるからこそ採用できた布陣である。
     金宗主として宗主の席に座る金凌を、江澄は江宗主の席から見上げ 4006

    sgm

    DONEプライベッターから移動。
    TLで見かけて可愛くて思わずつぶやいたカフェ曦澄の出会い編。
     その日、藍曦臣がその店に入ったのは偶然だった。
     一休みしようと、行きつけの喫茶店に足を向けたが、残念ながら臨時休業だった。そう言えば前回訪れた際に、店主が豆の買い付けのためにしばらく店を休むと言っていたことを思い出す。それがちょうど今月だった。休みならばまっすぐ家路につけばよかったのだが、喉が乾いていたのと、気分的にカフェインを摂取したくて仕方がなかった。ならば、と喫茶店を探しながら大通りを歩いたが、めぼしい店が見つからず、あったのはチェーン系のコーヒーショップだった。
     藍曦臣が外でコーヒーを飲むのは常に、注文を受けてから豆を挽き、サイフォンで淹れてくれる店で、チェーン系のコーヒーショップは今まで一度たりとも入ったことがなかった。存在そのものは知識として知ってはいるが、気にしたことがなかったため、今日初めてこの場所に、コーヒーショップが存在する事を認識した。
     戸惑いながらも店に足を踏み入れる。席はいくつか空いていたが、席へと誘導する店員はおらず、オーダーから受け取りまでをセルフで行い自分で空いている席へと座るのだと、店内を一瞥して理解した。
     あまり混んでいる時間帯ではないのか 3066