チョコレートの悪戯「今日はバレンタインなので」
そう前置きをした錬金術師の助手が、ウキウキとした様子で木製の机に四枚の皿と同数分の白いカップを置いた。カップの中からは既にベルガモットの爽やかな香りが漂っており、どうやら「三時のおやつは絶対に紅茶」と主張する師匠に従い、アールグレイを用意したらしい。
次の宿場町までの道程を地図で確認していたトラオは、その香りに誘われるように顔を上げた。四枚のツヤツヤとした皿の上にはキラキラという効果音が聞こえてきそうな程に見事なチョコレートケーキが乗せられており、さあ食べてくださいとでも言わんばかりであった。
「今日はケーキか」
「はい、バレンタインデーなので!」
「……その、"ばれんたいん"ってのは何だ?」
7450