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    MeltsXIV

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    MeltsXIV

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    Dragon's Song
    0話
    (令和なだけに

    序章満月の夜、暗い森を一人の青年が、赤ん坊を抱えて歩いていた。
    森の奥は静寂に包まれ、木々の隙間から差し込む銀の光が、彼の顔を淡く照らす。
    セルシオは、胸に抱いた赤子――妹のミラを見つめる。
    「……すまない」
    彼の声は微かに震えていた。
    すやすやと眠るその子は、まだ何も知らない。
    自らの運命も、何者かに狙われていることも――
    邪竜レガリアが、彼女の力を求めていることも。
    森を抜け、街道へと出る。巨木の根元に静かに膝をつき、セルシオは赤子をそっと寝かせた。
    「朝になれば、このあたりの人通りは多いはず……」
    何度も自分に言い聞かせる。
    彼女を置いていくことが、最善なのだと。
    「……どうか、幸せに生きてくれ」
    最後にそっと額に口づけると、セルシオは立ち上がり、闇の中へ駆け出した。
    ――そして、夜空へと飛び立つ。
    漆黒の毛並み持つ竜の翼が、月光を受けて輝いた。
    彼の向かう先は、かつて邪竜が滅ぼした国があったとされる地アストラ大陸。
    ミラを守るために――邪竜レガリアを、完全に封じるために。
    海を望む断崖の上に、荒れ果てた廃城がそびえていた。朽ちた城壁が夜風に軋み、まるで泣いているように響く。
    開かれた城門から、一人の少女が現れた。邪竜レガリア――その人間の姿。
    「やあ、セルシオ」
    月明かりに浮かぶ、白い顔。深紅の瞳が愉悦に歪む。
    「まだ右目は痛むかい?……君の両親、あっけなかったね。ねえ、弱いって、罪だと思わない?」
    薄く開かれた唇が、嘲るように釣り上がる。
    セルシオの体が膨張し、瞬く間に黒銀の竜へと変貌する。
    「おもしろい……」
    レガリアの笑みがさらに深まる。
    次の瞬間、彼女の姿が揺らぎ、漆黒の竜へと変わる。紅い瞳が妖しく煌めく。
    夜空に、二匹の竜がぶつかり合う。
    ――だが、セルシオには、戦い以外に目的があった。
    彼女を、ここで終わらせること。
    ミラを狙うこの邪竜を、二度と復活させないこと。
    どんなに傷を負い、身を焼かれてもセルシオは退くつもりなどなかった。
    『例え殺すことが出来ないとしても、お前を封じられるこの水晶で……!』
    漆黒のその姿は、未だ強大な力を宿していた。
    だが、光の鎖が巻きつき、次第にその動きを封じていく。
    爪を振るおうとするたびに、その腕を縛る鎖がきしみ、竜の身体を押さえつける。
    レガリアは歯を食いしばり、悔しげに苛立ちの声を上げた。
    「こんなモノで……この私を……ッ!」
    咆哮とともに魔力を解き放つ。しかし、それすらも封印の力にかき消される。
    「馬鹿な……!! こんなことが……!」
    ――否。
    こんなところで負けるはずがない。
    ずっと見下していた神竜族の青年ごときに、この私が――!
    レガリアの紅い瞳が、怒りと憎悪に燃えた。
    「私は……こんな檻の中で終わる存在じゃない……!!!」
    全身の力を振り絞り、光の鎖を引き千切ろうとする。しかし、すでに封印は完成へと向かっていた。
    焦りと怒りが入り混じった表情で、レガリアはセルシオを睨みつける。
    「よくも……よくも、私をここまで追い詰めたな……!!」
    声が震える。それは怒りだけではなく――悔しさの滲んだ声だった。
    この敗北だけは認めない。
    認めてなるものか。
    「お前ごときが……! 私に勝ったと思うなよ……!!!」
    その瞬間、レガリアの口元が皮肉げに歪んだ。
    「フフ……でもね、セルシオ……」
    最後の最後まで、憎らしいほどに傲慢な微笑みを浮かべる。
    「このまま私が終わるなんて、思ってないでしょう?」
    水晶の中へと吸い込まれながら、レガリアは確信に満ちた声で囁いた。
    「私は必ず、戻る。」次の瞬間、邪竜の身体は光に飲み込まれた。
    だが、セルシオも限界だった。
    黒く染まった水晶と共に、彼の身体は断崖から海中へと落ちていく――冷たい海風が頬を切り裂く。血の匂いが潮風に混じり、黒水晶が月光を反射して鈍く光った。
    翌朝、森の街道に取り残されていた赤ん坊は、ストーリア王国の騎士に拾われた。
    そして十六年の時が流れる。 
    ――廃城の奥、ひときわ広い玉座の間。
    高い天井には無数の亀裂が走り、壁にはかつての豪奢な装飾の名残がある。しかし今や、そのほとんどは崩れ落ち、ただ静寂だけが支配していた。
    その中心に、一つの玉座があった。
    かつてこの城を統べていた者のものなのか。
    玉座の表面は煤け、ひび割れ、もはや王の威厳を感じさせるものではない。しかし、その座に鎮座する黒水晶だけは異質だった。
    光の届かぬはずの場所で、それは微かに輝いていた。
    「おい、あれを見ろ……」
    入り込んでだ盗賊の一人が、玉座の黒水晶を指差した。
    「すげえ……こんなデカい水晶、見たことねえ」
    仲間の男が近づく。息を呑みながら、ゆっくりと手を伸ばした。
    「これ、いくらになるんだ……?」
    指先が黒水晶に触れた瞬間、異変が起きた。
    男の身体が一瞬、強張る。
    「……おい?」
    仲間が呼びかける。しかし、返事はない。引きつったような息づかいだけが返ってくる。
    男の指は、黒水晶から離れなかった。いや、離れられなかった。
    ふと、その肌の溶けるように黒水晶へと沈んでいく。
    男は声を上げようとしたが、喉からは空気しか漏れない。
    まるで玉座に座る王の供物のように、彼はゆっくりと引ずりこまれていった。
    足が玉座に触れた。次の瞬間、彼の皮膚がひび割れ、中から黒い何かが滲み出る。
    「う、ぐ……」
    顔が歪む。目が見開かれ、何かを訴えようとするが、その口はもう動かない。
    仲間の一人が男の腕を掴んだ。しかし――
    腕が崩れた。
    骨と肉が、灰となって砕け散る。
    「うわああああ!」
    叫び声が響く。
    男の身体は、もはや人の形を保てなかった。
    黒水晶がそれを喰らっていた。
    血の匂いが漂う。しかし、滴るはずの血液は、一滴も残らなかった。
    すべてが、黒水晶の中へと吸い込まれていく。
    「やめろ! 離れろ!!」
    仲間の叫びも虚しく、男の身体は飲み込まれた。
    完全に取り込まれた。
    そして、黒水晶はより深く、より禍々しく輝きどす黒い腕を伸ばしてくる。
    残された盗賊は凍りついたように動けない。逃げられる者は、誰もいなかった。
    最期の瞬間、男は感じた。
    黒水晶の奥で、何かが目覚めつつあることに。
    それを知らせる仲間など、もうどこにも居なかった。




    柱の陰で、その様子を静かに見つめる少年がいた。
    目を細め、唇を歪める。
    微笑みが、その顔に浮かんでいた。
    それは、凍りつくような微笑みだった。

    やがて黒水晶が爆ぜ、破片が宙を舞う。

    その中心で――
    紅い瞳が、ゆっくりと開かれた。
    「ほらね……言ったでしょう?」
    私は、戻ると――
    封印は、破られた。
    邪竜レガリアが、今まさに目覚めようとしていた。

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