非時香果(ときじくのかくのこのみ)/(7)【黑限】 無限と龍游へ来てから、1ヶ月が過ぎた。
2~3ヶ月かかると当初から告げていたためか、聡い無限はいつ戻れるのかとは訊いてこない。
元に戻る兆しも見えないままに、幼い無限との日常が少しずつ組み上がっていく。
朝は5時に起き、目覚めるとすぐに口直しの甘いものを添えて逸風の薬を飲ませる。無限の四書五経の素読に付き合い、ホテル近くの公園で軽い鍛練をして、朝食を取る。夕方までは、気ままだ。龍游の街や郊外の山で遊ぶこともあれば紫羅蘭と洛竹に会いに行くこともあり、人の少ない公園で鍛練や組み手を行い、無限の書の稽古を傍らで眺めもする。美味い店や屋台で昼食と夕食を食べ、日暮れにはホテルに戻って、無限は薬を飲むと早々に寝てしまう。
猫でもあり、小黒も寝るのは少しも苦にならない。
それでも、住み慣れた森を追われてあてどなく彷徨っていたあの頃を思い出すほどには、夜の長さを感じている。時折ぼんやりとあらぬ方を見つめている、無限の寂しげな横顔も気がかりだ。
冬が近づく曇天の土曜の朝、ウールのダッフルコートとニットのタートルネックにマフラーで厚着させた無限と2人で、鉄道の龍游站へ向かった。近頃は無限の強い希望もあって抱き上げるのを控えているが、週末のターミナルの混雑の中ではそうも言っていられない。不満げな表情は見えていないふりで無限を腕に抱き、改札からの止めどない人の流れと少し距離を置いた場所で客を待つ。気配は先に届いていたが、雑踏の間に明るい色の髪が見えたのは10分も過ぎた頃だ。人の波を、小柄な人影が抜けてくる。
「来た」
無限に聞かせるために呟いて、改札へ近付いた。
「小黒!」
銀の髪に抜きん出た長身の小黒が目立たずにいるのは無理だ。小ぶりのスーツケースを引く小白が、弾ける笑顔で大きく手を振った。小黒もまた、急ぎ足で改札を抜けてきた親友を笑顔で迎える。
「ごめん、お待たせ。なんか久しぶりな感じするね、小黒に会うの」
「うん。まだ1ヶ月くらいなのにな」
応えながらさりげなく荷物を受け取り、右手に抱いた無限へ視線を上げる。
「この子が話した子。無限だよ」
次いで、無限へ目顔で小白を示した。
「このお姉さんが話した人。小白だよ。俺の親友」
軽く頷いた無限が、小黒に抱かれたまま背筋を伸ばし、小白へ拱手する。
「您好(はじめまして)。高い場所から失礼いたします。私は無限と申します」
「あっ、はい! 小白です、よろしくお願いしますっ」
つられて拱手し、呆気に取られた小白が、すぐに明るく笑いだした。
「びっくりした~。すごい、小さいのに礼儀正しいんだね。私にはそんなのいいよ。仲良くしよ」
朗らかに差し出された手に、無限が戸惑う。
「握手っていうんだよ。こう」
小白と握手をしてみせると、得心がいったのか、それでも慎重に無限も手を差し出した。
「よろしく、お願いいたします」
「よろしくね!」
躊躇いがちな小さな手を小白ががっちりと掴んで、大きく上下に振る。右手に無限を、左手に小白の荷物を携えて、小黒は笑顔で促した。
「よし、行こ。結局山新来られなかったんだ?」
「そうそう。すっごい来たがってて、ギリギリまで頑張ってたんだけどね。抜けられなくて無理だって」
小白同様に幼馴染みの山新は、大学在学中の5年前にゲーム会社を起業している。間もなく新作ゲームローンチの忙しい時期に、それでも時間を捻り出して、1週間滞在予定の小白に1泊2日で同行してくる予定だったが、ゲーム内に大きなバグが見つかってどうしても抜けられないと連絡が来た。
「小黒によろしくって。し……無限にも」
「そっか。夜とか電話できそう?」
「うん。死にそうになってたけど、多分」
「ああ~」
苦笑いの小白に苦笑いで返し、人混みの熱気に蒸される駅から外へ出た。厚い雲に陽射しが遮られているせいで実際よりも低く感じる気温に、初冬らしい冷たい風が頬へ吹きつけてくる。まして、駅の構内は人いきれで汗ばむ熱気だった。
「さむっ」
呟いた小白が肩を竦めて、手に持っていたマフラーを慌てて巻いた。
「小黒」
このまま抱いていたいところだが、待ちかねていた無限に促されて、駅前の広い歩道の石畳へと下ろす。土曜の昼とあってそれなりに人通りも多いが、歩きにくさを感じるほどでもない。
「寒いよ」
鼻の頭を赤くしている無限の首へ、自分のストールをマフラーの上からさらにたっぷりと巻きつける。
「よし」
小さな顔の半分が埋もれてしまったが、これなら鼻の頭も冷たくないだろう。幼い頃、小黒も暑いくらいに無限に厚着させられた。
「謝謝(ありがとう)」
呟いた無限の声が、ストールの中でくぐもっている。
「ふ~ん、仲良い」
「なんだよ」
意味ありげに笑っている小白の肩を軽く肘でつつき、無限を間に挟んで歩き始めた。
ホテルまでは、龍游站から徒歩で10分ほどだ。タクシーは使わずに、街中を案内しながら歩いて戻ってきた。小黒が開けたドアの内側へ入り、小白が薄く口を開いて室内を見回す。リビングにカウンターキッチンのダイニング、二つの寝室、書斎、ゲストルームにバスとトイレのスウィートは、広さばかりではなく、モダンシノワズリの内装も上品に贅沢だ。
「うわー、すっごい部屋!」
「はは。うちの師父、お偉いさんだから」
「知ってたけど、すごいねえ。いいの、便乗しちゃって」
「うん。このスウィート、ゲストルーム付いてるんだ。荷物入れとく」
「ありがと」
「小黒、私が」
「ん、ありがと」
無限が差し出した手に、小白のスーツケースのハンドルを渡した。
「わかる? 向こうの部屋」
「うん」
カートを運んでいく無限を見送り、横顔に視線を感じる。小白が、嬉しそうに小黒を見上げている。
「ん?」
「いやいや。うまくやってるんだ」
「無限が出来たお子さんだから。お茶淹れるし座ってよ」
「ありがと。落ち込んでるかなって思ってたから、元気そうで良かった」
「ああ、まあ」
気長に待つしかないと知っているとはいえ、1ヶ月経っても無限には何も変化がない。周囲に少しも焦る素振りがないだけに、むしろ小黒の焦燥は募るが、態度に出せば無限をさらに不安にさせるだろう。
1ヶ月を過ごすうちに少しずつ2人の日常に染まり始めた部屋で、キッチンカウンターに並べたティーキャニスターへ手を伸ばす。小白の好きな祁門の茶葉を大きめの茶壺へ落として、沸騰した電気ポットの湯を注ぐ。茶を淹れながら、ソファに座る小白へカウンター越しに声をかけた。
「どっか行きたいとこある? 別に観光地もないんだけどさ。老街くらいかな」
「じゃあせっかくだし、そこ行きたいかも。あと久しぶりに小黒のお料理食べたい。市場行かない?」
「そんなんでいいの?」
「うん。あっ、公園も行きたい。紫羅蘭ちゃんと洛竹さんにも会いたいし、小黒が話してた風息さんの木に会ってみたいな」
「……あ~」
小黒の煮え切らない返事を勘違いしたらしい。眉を曇らせて、気遣わしげな表情に変わる。
「ごめん、嫌だった? 無理して行かなくても」
「いや」
「小黒、置いてきた」
会話の途中で、無限がリビングへ戻ってきた。これ幸いと、話題を切り上げる。
「ありがと。お茶淹れてるから無限も座って」
「ん」
無限が軽く顎を引き、リビングのローテーブルを挟んで小白の向かいへ座る。革張りのソファの右側は、このスウィートへ寝泊まりするようになってからの無限の定位置だ。小黒は、いつもその左隣に座る。
「無限、お茶飲んだらみんなで市場行こ。昼飯俺が作るけど、いい?」
木の盆で茶器一式をテーブルまで運び、お茶を渡してやりながら何気ない風に尋ねた。顔を上げた無限の目に、微かな驚きが浮かんでいる。
『え』
「……うん。わかった」
見たと思ったそれはすぐに消え、一呼吸の間の後で小さく無限が頷いた。面輪を縁取る藍い髪がさらさらと揺れ、無限の横顔を隠す。
『なに、今の』
眼差しも返答までのわずかな間も、ほんの些細なことだ。だが、聡い無限の今の反応に意味がないとは思えない。しかし、気づかなかった小白が明るい声を出す。
「なに作ってもらおうかな~、楽しみ! 無限はなに食べたい?」
「私はなんでも」
「そうだよね、いつも小黒の料理食べてるんだもんね」
朗らかに笑う小白に、無限が曖昧に笑い返した。
夕食を終えて無限を寝かせ、小白とリビングで寛ぐ。
「ごめんね、今日。余計なお願いだったかな」
紅茶のマグカップを手に、小白が苦笑いした。無限はすでにベッドへ入り、大人2人で声を抑えて語らう。
「いや、俺の作った飯より美味い外食の方がいいんじゃないかと思っててさ」
「小黒の料理、その辺のプロより美味しいよ?」
「うーん。サンキュ」
お茶で一息ついた後、小白のリクエストに応えるべく、3人で市場へ向かった。何者が紛れているとも知れない混雑は極力避けたく、無限とは価格帯が高めのスーパーを利用していたために、市場へ連れてくるのは初めてだ。人々の装いは変わっても、市場の風景は450年前と変わらないのだろう。小黒と小白が肉と魚を買い、野菜を選び、果物を手に取る間、小黒の服の裾をしっかりと握りしめた無限も楽しそうに周囲を見回していた。
買い物を終えて帰路につき、食材でいっぱいのレジ袋で両手がふさがった小黒に、自分も手伝うと主張する無限の手が差し出されてくる。せっかくの厚意を、無下にするつもりはない。軽めの1袋を渡し、空いている方の手を小白に繋いでもらった。念には念を入れて無限だけではなく小白のコートのポケットにも黑咻を忍ばせ、歳の離れた姉弟にも見える2人の後ろをゆったりとついていく。
ホテルへ帰りついたのは、17時少し前だ。
自分も手伝うと申し出てくれた無限をごく丁重に断って、小黒はキッチンへ入り、残る2人は並んでソファへ座った。買ってきた伝統菓子と欧風のケーキにジャンクなスナック、並々とお茶を注いだマグカップをローテーブルに並べて、コミュニケーション力の高い小白がしきりと話しかけている。
「えっ、四書五経なんて読んでるの ちっちゃいのにすごいね」
「すごくない。いずれ科挙を受ける者なら皆している」
「えぇ……400年前の子供って大変」
「ショッ!」
「シュッ」
「ね、だよねー」
「ハイン」
楽しげな声に頬を弛めながら、IHのキッチンで可能な限り腕を奮って、手際よく料理を作り上げていく。2人のリクエストに応じた華洋折衷の料理をダイニングテーブルいっぱいに並べて、黑咻たちも一緒に席に着いた。小白も無限も顔を輝かせて「好吃」を連呼しながら料理を平らげていくが、時折無限が微かに眉を寄せ、あるいは考え込むように箸を止める。
「だいじょぶ、無限?」
「うん。很好吃(とてもおいしい)」
口に合わなかったかと声をかけてみても、嬉しそうにそう答える。
「小黒は料理ができるんだな」
しかし、食後の逸風の薬の口直しに温かいココアを飲みながらぽつりと無限が呟いた言葉は、食事中の表情と無関係ではなかったように思う。小白も、なにかを感じたのだろう。おおらかな性質の一方で、優しく細やかな女性だ。
無限が寝室へ引き取った後のリビングでお茶を飲みながら、小白が悪戯っぽく笑う。
「1ヶ月だっけ? ずっと一緒だし、小黒のことなんでも知ってるって思ってたよね」
「なに、急に」
「小黒が料理できるの知らなかったの、ちょっと気にしてなかった?」
「いやいや。ないない。そんなの気にしないって、あの人」
「してるでしょ、あれは。愛されてるね~、小黒」
「ほんと、そんなんじゃないし」
否定しつつも、稚い無限が懐いてくれているのなら嬉しい。そうはいえ、小白にも言われたように1ヶ月が過ぎている。焦燥を覚えながらも小黒は待てるが、未来へ来てしまったと、両親や親しい人たちと引き離されたままだと思っている無限には、長い時間だろう。
「はあ」
思わずこぼれた溜め息に、小白が微笑んだ。
「1ヶ月お疲れ様。お姉さんが甘やかしたげるから、ここおいで」
左腕を小黒へ向かって大きく広げ、右手で自分の膝を叩く。
「いや要らないし。大体、なんで小白がお姉さんなんだよ。タメじゃん」
「私の方が学年上だもん」
「俺が読み書きできなくて下の学年入っただけだろ」
「いいからいいから。飼って飼われた仲でしょ」
「それ、誤解生むからやめて」
いつものように笑い合って、小黒はすらりとしなやかな成猫の姿へ戻った。
「お邪魔します」
「他人行儀だな~」
笑う小白の膝へ移り、スカートのウール地の上でくるくると円を描いて回る。細い腿の上に居心地のいいポジションを見つけて、長く前肢を伸ばしてゆったりと身体を預けた。
「ふふ、モフモフ」
嬉しげな小白の手が短くも艶やかな小黒の黒い被毛をゆっくり撫でていくが、明らかに手触りを楽しんでいる。
「ちょっとさあ、甘やかしてあげるとか言って小白がモフりたいだけじゃねーの」
「いいじゃない、久しぶりだし。小黒は頑張ってて偉いってほんとに思ってるよ」
「どうだかな~」
「えらいえらい」
それでも、誰かの膝の上で寛ぐのも頭を撫でてもらうのも久しぶりだ。腹を見せてごろりと仰向けになり、小白の手にじゃれつく。
「猫ちゃん、にゃーん」
「猫じゃないっつの」
「説得力ないな~」
顎の下をくすぐる指に盛大に咽喉が鳴ってしまうのは止められず、我ながら小白に同感だ。
「耳の後ろ掻いてよ」
「オッケー。いいよね、ここ。ふかふか。きーもちいい」
「ふあ~。あー、いいねいいね~。久しぶり~」
猫の扱いになれている小白の細い指先に絶妙な場所を掻かれて、長々と四肢を投げ出す。
「うわ、液体。師父さんにもやってもらわないの?」
「今の師父ってこと?」
「うん」
「んー、だって不安だろうからさ。だらしないとこ見せて頼りないって思われたくない」
「だらしないんじゃなくて可愛いよ」
「だから可愛いじゃダメだろって」
「そうかなあ」
小白にひっくり返されて腹をくすぐられ、盛大に笑い転げる。
「そうだ、山新に電話してみよっか」
「ああ。俺も話したい」
「ちょっと待って」
笑いすぎて涙目になりながらも猫らしいクールな身ごなして起き上がり、スマートフォンを取り上げた小白の手元を覗きこむ。
「喂」
短いコールの後で疲れた顔が液晶に映し出され、聞きなれた声が疲労を滲ませて応答した。
「おー、おつかれ」
「山新、生きてる?」
「なに、電話くれたの、ありがと。げんきげんき~。三徹目だけど」
「マジか。ちょっと寝た方が効率いんじゃね」
「なに、結局寝てないの? 寝なよ、少し」
「それな。寝るよ、ちょっと。電話切ったら。小白無事にそっち着いたんだ、よかった。ちびっこ師父さんの実物どう?」
疲れた表情にわずかな生気が戻って、山新が画面の向こうで身を乗り出す。
「そうそう! 可愛い、すっごい可愛い! いや美人? ちっちゃいのにめちゃくちゃ綺麗だよ!」
穏やかに無限の相手をしてくれていた小白の食いつきぶりに、軽く身を引いた。
「いや、小白、それさあ」
「うおー、マジか。私も会いたかった~。小黒、師父さんと一緒に1度戻ってくればいいのに」
「うーん。師父ここで馴染んでるし、環境変えたくなくて」
「自分の住んでた部屋に帰ったら色々思い出して、元に戻ったりしないかな?」
「食べた物が排出されればって話だから関係ないっしょ」
「え~、そっかあ」
人間の身体であれば、1ヶ月も以前に食べた物などとっくに消化されて体外に出ている。しかし戻る兆しすら見えないところを見れば、普通の人の子のようでやはり神仙の身のままであるのか、あるいは食べた物が霊果であったためか。諦聽が言っていたように、彼の国の神に無限を診てもらうことも考えた方がいいのかもしれない。
「電話ありがとね、ちょっと寝たらまた頑張るわ。小白が居るうちに私も行けたら行きたいし」
わずかに張りの出た声に、肉球で画面に触れた。
「うん、2人で待ってるよ。がんば」
れ、と発した最後の一音に被って、小黒の猫の耳が微かな物音を拾う。小白の膝の上から振り返り、開いた寝室のドアと矩形の暗がりを背負った無限を見つけた。
「ん?」
小黒の視線を追った小白が、振り返りながら立ち上がる。膝から飛び降り、猫科の優雅な足取りで小白の足下を一緒に歩く。
「またね。ほんとに休んで、山新。バイバイ」
山新との通話を切り、無限の目の前に立った小白が腰を折って目線を合わせた。大きな碧い目が一瞬小黒に落とされ、すぐに小白を見上げる。
「ごめんね、起こしちゃった? うるさかったね」
「いや。厠所に起きただけだ」
言葉を交わす2人を見ながら、ひく、と鼻先を蠢かした。鋭敏な感覚器官である湿った猫の鼻は、体温の微細な変化も感じとる。常ならば子供らしく体温の高い無限の手足が、冷たい。ベッドを抜け出して、しばらくこの場に立っていたのではないだろうか。監視されているようで窮屈だろうと、気配への感度は下げていた。いつからここに居たのだろうか。
『うっそ、見られた』
小白の膝の上で無防備に腹を見せ、盛大に咽喉を鳴らしていた姿をすべて見られていたのだろうか。だらしないところを見せたくないと、その理由も嘘ではないが、覚えていないとはいえ恋人と同じ部屋に在って、他の誰かに気を許して思いきり甘えた後ろめたさもある。
子供らしからぬ滑らかな足取りで無限がトイレへ行き、小白が苦笑いする。
「声抑えてたつもりだったけど、うるさかったね。起こしちゃって悪かったな」
「うん。俺たちも寝よっか。小白も疲れたろ。バスルーム、そっちの部屋に付いてるから」
「おお。さすがラグジュアリー」
「俺の師父セレブだから」
「いやそれ、ほんとだよね」
真顔の小白に、小さく笑う。
「洗い物はそのまんま置いといて」
「うん、ありがと。明日は何時に起きればいい?」
「好きな時間でいいよ。し……無限は5時に起きるし」
「ごめん、さすがにそれ無理」
小白が笑ったところへ、無限がトイレから戻ってきた。猫から再び人の姿へ変じてた小黒の隣で無限が足を止め、小白を見上げる。
「じゃあ2人とも、おやすみ。また明日ね」
「うん、おやすみ」
「おやすみなさい」
「ショッ!」
「ショ」
無限の髪の間から顔を出した黑咻たちも、嬉しそうに囀ずった。