> 動けない 50% 金縛りだ。話には聞いたことがあるのだが、カナヲにとっては初めての経験である。眠るときになることが多いと、医学に詳しい次兄から聞いてはいた。だが。今。自分はしっかりと起きている。
指先の筋肉がぴくりとも動かない。身体に動けと命じる。動かない。眼球だけが情報をもとめてさまよっている。
約120度。両目で見える視界の範囲だ。ここから動く手立てを考えて、カナヲは必死に目を動かした。
『なにをみている』
(ひ、っ……)
相変わらず、脳内に直接届く声。背後から生暖かいからだが迫り、両手が迫り、それが
ぼくのあたまを掴む。
あたまを掴んだその両手は、ぼくの骨のうちがわに沈み込む。
そのゆびさきが、ぼくの 目 を コテイ した。
瞳孔がふるふると揺れている。視界が涙でにじんでいる。これは恐怖か。怖い。何をされるのかわからない。怖い。こわい。コワイ。恐い。おそろしい。なにをされるのか わからない。
「……は、アッ……」
声を出すのも構わずに、口で呼吸をした。渇く。かわく。みずがほしい。口の中の水分が、すぐに消えていく。ああ。だめだ。どうしよう。
「、どうした」
すとん。
解けた。
からくり人形の糸がぷつりときれるように、カナヲはその場にへたりこんだ。木箱だけは最後の意地で死守したまま、ぺちゃりと廊下に尻をつく。
「あ、りがとうございます」