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    wave_sumi

    いろいろなげすてる。最近の推しはなんかそういったかんじ
    性癖が特殊。性転換が性癖

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    wave_sumi

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    ▶お餅を焼く(2/2)(なんであんなクソ不味ィやつ思い出すんだァ)
     鼻に抜けた炭の香りから、人間だったころの人魚を思い出す。揺れる黒髪が艶めかしいと思ったのはいつ頃からだっただろうか。それを知ってから、実弥は義勇を嫌うようになった。今思えば、避けていたのだろう。本能でアイツが女だということを嗅ぎ取って、それを認めたくなくて、避けていた。真正面から見れば、うっかりアイツに惚れちまいそうで、俺は避けていた。
    『不死川、神崎から餅を貰った』
     最終決戦後、蝶屋敷から退院してお館様に挨拶を終えた後だったか。急に冨岡が話しかけてきた。片腕になったアイツは、未だに女であることを隠していた。書生のような男の装いで、前よりはよく笑うようになっていた。
    『焼いて食べよう』
     生返事をして、俺はいつのまにか冨岡の家に居た。水柱として宛がわれている屋敷だ。焼いてくる、待っていろ。ほどなくして、完全に焦げた匂いが漂ってくる。
    『し、不死川! 焼けすぎてしまった』
     焼けすぎた、じゃねェんだァ。そもそも火加減っつーものを知らねえのかァ。真っ黒にこげた餅のこげを丁寧に落としてやれば、なんとか白い中身が出てきた。どうやら、最初から強火で焦がしたらしい。炭を削りきって、中の餅を皿に置く。
    『炊事くらいできるようにしとけェ』
     火のくべてあった七輪に網をはり、その上に餅を乗せる。不死川は器用だな。普通だろォ。ちりちりと焼けていく餅が、溶けて形を崩していく。溶けきる前に持ち上げて、皿に盛って、突き返した。
     てろりとした餅を、冨岡が箸でつつく。無くなった右腕のかわりに、左で箸を持ち、なんとか器用に動かそうとしている。蝶屋敷で使っていた洋食器を使えばいいだろうに、この冨岡という人間はそれをしない。元々が不器用なのだと知ったのはいつだったか。
    (あのクソ人魚よりは全然美味ェ)
     カリカリした焦げをかみ切り、少しだけ粒感の残るとろけた餅を噛む。熱くとろけた餅からは、米のあまみがにじんでいる。
    「しょっぱいものの次は、甘いものですよね」
     神崎がニヤニヤと笑いながら、網の上に銀紙を敷いておはぎを置いた。淡い藤色のあんこに包まれたおはぎに熱がつたわり、かぶれてゆく。じりじりと焦げる藤色を転がして、仄かに湯気がたったころ、新しい皿に焼きおはぎを乗せた。
    「どうぞ、実弥さま」
     遠慮なくアオイからおはぎの皿を受け取る。鶴の指先に物おじしなくなったアオイを、実弥は信頼していた。ずけずけと人の心に土足で踏み込んでくるが、最後の一線はうまく躱す。百年前から変わらねェなァ、と思いながら、実弥はおはぎを掴んだ。じんわりとしたぬくもりを、鳥の趾は感じない。親指と薬指で、整えられたおはぎを持つ。しょっぱいものの後にあまいものと食べると、甘みが引き立って異様においしく感じる。
     手製のあんこは、今の時代にめずらしい。少しだけムラのある甘みと、つぶされずに残った小豆のはごたえから立ち上る香りが大正を思い出させる。このおはぎを食べると、鬼狩りのころを思い出す。
    「……美味ェなァ」
     こんこんと湯の沸く薬缶が鳴いている。一人と一羽は黙々と腹を満たした。

    「ふう」
     仕上げの緑茶は格別である。陽が傾きはじめたころ、唐突に社務所の扉が開く。実弥はさっと身を隠し、アオイは来訪者を迎えた。
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