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    wave_sumi

    いろいろなげすてる。最近の推しはなんかそういったかんじ
    性癖が特殊。性転換が性癖

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    wave_sumi

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    続いてます!!

    ▶煙草が欲しい 要求は煙草だった。ハンガーにかけた上着に隠し持った煙草を引き出して、人魚が慣れたようにフィルタを咥える。ライターのこすれる音で、火がともる。
     ぽ、と灯った煙草を人魚が呑めば、ずくずくと嫌な音を立てて魚がヒトになっていく。人工物を摂取すると、魚はヒトになるという。ならば、鶴はどうなるのか。そこまで考えながら、アオイはこの光景を眺めていた。
    (……ホストクラブ)
     聞きかじった情報の中から、このシーンに近い体験ができるだろう場所をはじきだした。歌舞伎町にあるというホストクラブでは、男が女にかしづいて、煙草に火を灯すという。兄の容姿ならトップになるのも問題はないだろう。その上の兄も、弟も。三兄弟が店に出るホストクラブで一儲けできるのではないだろうか。アオイはそこでスタッフとして勤務、元締めは……というところまで想像して、切り上げた。おそらく、この家の主はそういったことはしないだろうし、もしそういったことをするようになったら、産屋敷もいよいよということだ。いや、秋の祭りでやるかもしれない。その時は……ええと。おはぎを作ることに徹しよう。
     くだらない想像から現実に目を戻す。人魚はすっかりヒトの形になり、鶴はそれを、なんだか複雑そうな視線で見ている。それもそうか。昔好きだった女が、突然現れたぽっと出の人間にかっさらわれたのだ。そんな気持ちにもなる。鳥なんだから自分でかっさらえばいいのに、などと思ったことは秘密だ。
     もそもそと人魚が浴衣に袖を通す。視線を感じて、アオイはそれを手伝った。冷たい肌には触れぬよう、座敷にこぼれる水滴を拭う。豊かな黒髪をタオルで包み、水滴の入り込んだ身体を丁寧に拭う。鎖骨のくぼみ、胸のはざま、脇の下、脚の付け根。それから指先。
     浴衣をまとって、人魚がずりずりと座敷の上に上がる。足は少し不自由なので、アオイが補助をして座布団に座らせた。
    「すまない」
     ぽそりと人魚がつぶやいた。お気になさらず。アオイが返す。最近、ようやくこの人魚の扱い方がわかってきた。
     彼女は、とんでもなく鈍感なのだ。
     だから、実弥さまも冨岡さまに思いを告げることなく今に至るのだろう。
     神崎アオイは知っている。主である鶴天狗の不死川実弥が、人魚である冨岡義勇に惚れていることを。主自身が諦めているようなので、アオイは黙って様子を観察していたところ、どうやらだいぶ複雑な関係のようだということに気づいた。
     現在、この人魚はアオイが兄と呼ぶしのぶに惚れている。惚れている、というと語弊がありそうだ。正確には、恋心でないかもしれない。
    【不死川実弥(鶴)】→【冨岡義勇(人魚)】→【胡蝶しのぶ(人)】
     脳内でざっくりとしたメモを展開し、アオイはため息をついた。そうこうしているうちに、異形の新年会は謎の盛り上がりを見せ、いつのまにかお開きの空気になっている。アオイは手早く片づけを終え、誰かの後についていくことにした。
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