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    wave_sumi

    いろいろなげすてる。最近の推しはなんかそういったかんじ
    性癖が特殊。性転換が性癖

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    wave_sumi

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    ▶お餅を焼く(1/2)「餅食いてェ」
    「わかりました」
     一口大にまるめられた、まだ少しやわらかな餅を火にかける。ストーブの上に網を置き、転がらないようにふたつ。菜箸でつつけば、まだ固い。いまのうちにと、アオイは給湯室から調味料を持ち出した。醤油、七味、砂糖、ついでにマーガリン。小皿をいくつか揃えて、土間へ戻る。
    「焼けてきてんぞォ」
     網の上を転がる餅に、ほのかな焦げ目がついている。真っ白な肌に少しオレンジ色が差した。実弥が餅を返してくれていたようで、球状のもちが少し平らになっている。
    「面倒を見て下さったんですね。ありがとうございます……私は醤油で焼きますが、実弥さまは」
    「焼けてからつけるわァ」
     わかりました。アオイは実弥から菜箸を貰い、醤油皿に焼き色のついた餅を浸す。片面づつを浸して、網へ戻す。網の熱がじゅわりと餅に伝って、焦げた匂いが広がった。醤油のこげた香りは、なぜか胃袋を刺激する。喉の奥からわきあがる唾液をごくりと飲み込んで、アオイは餅を裏返した。
    「……神崎ィ」
     くい。異形と成った右手の人差し指が、餅を示している。わかりました。呆れたため息をついて、アオイは実弥のもちを菜箸でとった。醤油皿で餅を浸す。やはりこの匂いには抗えないのだろう。わかる。アオイは自分の餅と区別するために、実弥の分を少し離しておいた。
     じゅ、っ
     新鮮な焼ける餅の音と香りが広がっている。熱された網から温度が伝わって、餅が焦げた。くるりとどちらも裏返し、また醤油の香りに胃袋を殴られる。
    「実弥さまも、食欲は人のころと変わらないのですか」
    「そーだなァ」
     ふわりと空気が循環する。居住まいを正すように、実弥が鶴翼を動かした。使わないときはコンパクトに、それこそ鳥のようにたたまれている背の翼と、大正時代に欠損したという右手の二指、それと足先。彼が鳥であるところは、そこだけなのだ。それ以外は人間と変わらない。
    「大正が終わってから色々美味ェもん食わしてもらったがなァ、最後はやっぱ焼いた餅とかよォ」
     じゅっ
     餅から醤油が垂れて、ストーブの上に固まった。アオイは取り皿に餅を上げ、海苔を添えて実弥に差し出す。次いで、自分のものも取り上げて、ストーブの網と薬缶を取り換えた。
    「おはぎとか、こーゆーモンが恋しくなるんだァ」
     アオイは黙ってそれを聞きながら、醤油餅を海苔で包んだ。指先から熱が伝わる。火傷しそうだ。けれど、あつあつの餅を熱いと言いながら頬張って、それが美味しい。ぱりぱりになった海苔が、醤油の湿度となじんでいく。ふにゃりとした餅に張り付いた海苔を、餅と一緒に伸ばしながら千切って食べた。
     ふと目を上げれば、実弥も同じようにして、にゅるんと伸ばした餅を食べている。
    「熱ッ」
    「それはそうですよ。焼きましたから」
     ふん、と当たり前のことを言えば、実弥のまなじりがほのかに下がった。そうだなァ。何かを懐かしむような、何とも言えない顔を、この怪異は見せる。何を考えているのか、この鶴天狗の半分すら生きていないアオイには、何もわからなかった。
     アオイは、自分の餅に少しだけ七味をふって続きを食べた。海苔はすでにへにょへにょで、七味の刺激と、餅の甘みと、醤油の香りが鼻を抜けていった。
     目を細めて、焦げた餅を噛む。カリ。香ばしい焦げ目が、ほんの一瞬だけ。はるか昔に冨岡の焦がした真っ黒な餅を思い出させた。
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    ASIApixiv

    TRAINING昨日の自主練の手直し版。
    『縁取る』という表現を相互さんからいただいて広がりました!
    読んで感想いただけると嬉しいです😊
    同棲している恋人からの「明日は待ち合わせしねぇかァ?」という提案に、俺は「なぜ?」と質問で返す。

    「たまにはいいだろうがァ」と歯切れの悪い返事に少し疑問が湧いたが、昔を思い出して「懐かしいな」と返せば、「だろォ」と恋人は微笑んだ。




    待ち合わせに指定された場所へ向かう。
    恋人は俺よりも1時間以上前に家を出た。「色々寄ってから行くわァ」と言って。

    地図アプリが示したその場所は、大きな礼拝堂のある教会だった。
    重厚な扉を引くとギーっと音が響く。
    ゆっくりと中を覗き込む様に扉を開ける。

    最初に見えて来たのは、薄暗い中に並ぶ木製の長椅子。
    更に扉を開くと刺すような眩しい光が目に飛び込んで来た。それに俺は思わず眼を瞑る。

    開き切った扉から見えた室内は、中央に真っ白く大きな光を孕み、壁際の闇との対比を際立てていた。

    光の差し込む大きなガラス張りの窓には、十字架と薔薇の花や蔦のモチーフが施され、俺のいる入口まで真っすぐ伸びる艶めく通路にそのままの姿の影を落としている。

    闇と光の対比に眼が少しづつ慣れていく。

    高い天井まである窓からは、いくつもの光の環がまるで階段の様に俺へと伸びて 865