次兄に何を渡したか 30% 宇髄の発言をさえぎって、カナヲが先に口を開いた。ゆるりとした部屋着の袖口から、生ぬるい風が滑り込む。大池の水気をたっぷりと吸った空気は、カナヲの皮膚を濡らすように、湿り気を分け与えた。
じとり。
畳についた下肢に、湿度が入り込む。
ぺたりと座り込んだカナヲの足を包み込むように、空気が動いている。
「何を」
「何を、渡したんだ」
鈍い空気がゆるりと動く。ぱしゃん。
大池で、魚が跳ねた。
「兄さんに、僕を通して、何を渡したんだ」
かしゃりと握った白の紙袋。細い小箱がいくつか入っていた指先の感覚と、薄く透けたRの字が見えていた。
握りつぶせば、簡単につぶれてしまう。
隻眼の宇髄がカナヲから視線を彷徨わせる。数秒あって、宇髄は観念するように息を吐いた。実際、観念していた。
「わーったよ」
子供のようなしぐさをして、宇髄は懐からちいさな箱を取り出す。成人男性・宇髄の掌にあれば、それは煙草であるとすぐに理解した。
【20歳未満の者の喫煙は、法律で禁じられています。喫煙は、様々な疾病になる危険性を高め、あなたの健康寿命を短くするおそれがあります。ニコチンには依存性があります。】
パッケージの50%を占領し、よく読める表記の注意書き。未成年の喫煙は禁じられていることが、当たり前に書かれている。
「コレをくれてやったんだ。アイツ、もうすぐ死ぬだろ。それまでに現世の楽しい事、全部やってきゃいいなと思ってな」
「しぬ」
「知らねェのか。『胡蝶しのぶは18で死ぬ』ってなァ、俺が輝利哉様から聞いた【決まり】だ」
「そんな、そんなことはない。兄さんは、しのぶ兄さんは」
「死ぬんだ。[[rb:十八で > ・・・」
ぱちり。現実が突きつけられる。しのぶ兄さんが、十八で死ぬ。あと何年だ。今、僕が14だから、兄さんは
17歳。
あと二年で、胡蝶しのぶは死ぬ。
カナヲは、現実を直視できずにいる。