3.白髪で傷だらけの見知らぬ男性 71.4% ど。心臓が久しぶりに鼓動を再開する。はあはあと、肺が空気を求めて呼吸を繰り返す。身を切るようなつめたい空気が、呼吸器を循環する。
アオイの視線がとらえた人物は、見知らぬ人間であった。
朝明けに焼かれた透き通る髪、傷だらけの顔、山伏のような装いをした人間である。アオイはこの人物に心当たりがない。
現実と幻の教会があやふやな、それでいて老獪な、よくわからない印象を受けた。誰に近いだろう。ああ、そうだ。
本家の輝利哉おじいさま。
遠くからしか見たことのない、小さな老人を思い出す。お目通りしたのは何年前だろうか。小学生の時だったかもしれない。
身長は私より高くて、男の人だ。何センチだろう。カナエ様と同じくらい。180センチ。どんなひと、どんな人? こわい、ぶっきらぼう。直感が、肌がそう感じている。筒袖の先からちらりと覗く指が、動いた。
指が、動いた。
視るんじゃねェ。
「ひ、ッ……!」
低い声が、もう一度脳内に響いた。ひと睨み。彼のくちびるは動いていない。
少し上から見下すような、特徴的な三白眼。黒々とした瞳孔が、何もかもを拒絶するように揺らいでいる。
――、
一瞬。刹那。須臾。
ほんのわずかな時間。ふと、アオイが彼から意識をそらした瞬間。
一陣の風が吹いた。
そこには何もいなかった。
虚無と、見慣れた空間がただただ広がるばかりである。あれは一体何だったのか。幻にしては、現実味がある。よくよく思い出す。白髪で傷のある男性。親類にいただろうか。心当たりがない。ただ、どうしても。何かが胸につかえている。
あの、指が。
五指のうち、いくつかが
「アオイ、早いね」
背後から虚をつかれた。見知った声に振り向けば、そこには。
「カナエ、さま」
にこりと笑みを湛えた、自分よりも身長の高い、先日二十歳の祝いをした、本家の長男・カナエが【ガレージを開けて】立っていた。
いくつかが、黒くて
冬の装い、ハイネックのセーターに、暖かそうなパーカーとジーンズ。動きやすい服装で、ところどころ、白いワタがくっついている。
「今、作品を作っていてね」
さくひん。そうだ。カナエ様は。
「新しい花ができたんだ」
鳥の趾のようであった
「見ていくかい?」