3.人魚との関係について聞く「……来てしまいました。手土産におはぎもあります。まずは私の話を聞いてください」
半ば無理やり、靴を脱いで拝殿に上がる。冷え切った板張りの奥には、ぽつんと申し訳程度のご神体が置いてある。御簾に隠れて見えないそれを無理に見ようとはせず、アオイは拝殿の廊下奥に置かれた座布団を二枚取り出して、ただ広いだけの板張りに向かい合わせで置いた。
「どうぞ」
有無を言わせぬ笑顔で、アオイは鶴に話しかけた。示された指先は、紫色の座布団上。しぶしぶといった感じで、不死川はそれに従った。
不死川が座布団上で居住まいを正す。アオイはおはぎの包みを開いて、蓋を開けた。
「おォ」
不死川の目つきが変わった。どうやら、おはぎが好きだというのは本当らしい。どうぞと声をかければ、おずおずと手をのばして、真ん中のおはぎを取った。
「……お味は」「美味ェ」
ほ。何とか胸をなでおろし、アオイは鶴に向き直った。もくもくとおはぎを食べる鶴を見守る。無言で食べている、ということは。美味しいのだろうか。そういえば水分を菜にも用意していない。おもてなしの心を忘れてしまった自分を恥じて、何かないかと周囲を見渡す。特に何もなかった。
「懐かしい味で止まらなくなっちまったァ」
重箱のおはぎをきれいに平らげて、ばつが悪そうに不死川はアオイから視線を逸らした。もしかして、ツンデレというものなのだろうか。ふとアオイは思いついて、疑問を投げた。
「不死川様、人魚の冨岡様とはどういったご関係で?」
不死川の眉間にしわが寄る。その隙を見逃さず、アオイは残ったおはぎをチラつかせた。
「……ただの同僚だァ。聞いてンだろォ、輝利哉様からよォ」
確かに、輝利哉様からすべてを聞いている。けれど、あの二人に流れている空気は何だろうか。アオイには断定できないでいた。
「腐れ縁、ってやつだァ」
これ以上はない、と。しぐさが告げている。仕方がない。アオイは全てをあきらめて、鶴におはぎを明け渡した。
「不死川様は、不器用な方ですね」
もくもくと無言でおはぎを貪る鶴の背が、びく、と揺れる。図星だ、あたった。わかりやすい。アオイは心中でにやにやと笑みを浮かべ、不死川に取引をもちかけた。曰く。
「不死川様、私を……冨岡様との連絡係として、任命していただけませんか」