さみしいね 俺の兄者は泥酔するらしい。
ちっとも知らなかった。
とある日の夜半である。水を飲みに部屋を出ると、ある部屋の襖の隙間から一筋の光としたたかな笑い声が漏れていた。その笑い声は紛れもなく我が兄髭切のものである。ひと声かけて襖を開けると、そこには数振の刀とともにすっかり頬を紅潮させて左右に揺れる兄者の姿があった。
髭切はもうだめだから連れて行ってくれ、いつもみたいに。
その場の一振にそう言われる。その刀も随分酔っていた。俺はわけもわからぬまま左右に揺れる兄者の腕を引き上げて、肩を抱いて部屋を出た。兄者からは、まるで皮膚から湧き出ているのかというほど酒の香りがしたが、思いの外足取りはしっかりとしていた。兄者の部屋は東だったはずだ。部屋を目指して夜の廊下を歩く。兄者は下を向いたまま何も言わない。
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