清麿先生と水心子先生の話彼は太陽に向かって背を伸ばす向日葵のように真っ直ぐで、一生懸命な人だからずっと応援したくなる。
「……あれ。灯り、消し忘れたのかな」
ある日の深夜、目が覚めた清麿はリビングの灯りがついていることに気がついた。照明を消しておこうとリビングに向かうと水心子がテーブルに突っ伏して眠っていた。久々に彼のこんな姿を見た気がする。
「……論文の査読をしていたみたいだね」
床に落ちた用紙を清麿は拾い上げた。びっしりと英文が書かれてあり、ところどころに赤ペンで線が引かれてあり、走り書きのような水心子のメモが余白に書かれてある。
「なるほど。今回は和訳されていないものを読んでいたんだね」
テーブルには開きっぱなしの電子辞書と医療スタッフ向けの図書室で借りてきた医学書が数冊、積まれていた。
「さて。内容はどんなものかな」
床とテーブルに散らばった論文を集め、清麿は目を通す。長いから要点を拾って読み進めていく。時折水心子の辞書を借りてわからない単語を調べる。
「ふう……」
清麿は息を吐き、論文を1つに纏めてからテーブルに置いた。
「……やっぱり、治療は一筋縄では行かないか。わかってはいたけど」
内容は自身が抱える疾患の症例報告だった。
「……まあ、稀な病気だから仕方ないよね。そんな中でも何とかして僕を治そうと模索する頑張り屋さんな水心子を僕は尊敬するよ」
親友の頭を清麿は撫でた。
「……でも、無理はしないでね。僕のせいで君が倒れてしまうのは見たくないから。僕に何か出来たらいいんだけど……あ」
清麿は椅子の背もたれにかけていた上着を水心子の肩にかけた。
「ひとまずは、これでいいか。他に出来ることは……」
じっ、と清麿は自分の手を見つめる。
「必要なら、この体を献体として水心子にあげることかな。今後、似たような症例に彼が出会った時に役立ててくれたらいいな」
彼は反対しそうだけれども。一度提案してみる価値はある。
でも、それは今でなくてもいい。
「おやすみ、水心子先生。……ありがとう」
小声で清麿は呟いてリビングを出た。