いたい この死体をどうしようか、とクラージィは柄になく隠蔽工作について思考を巡らせていた。襤褸を纏い、痩せた男は半目を開いた状態で息をしていない。触れればひやりと冷たく、それは体温をうしなったというより冷凍カジキマグロという方が似合いである。いまが夏であれば自然解凍されたかもしれないが、ここ一週間は氷点下も下回る寒さが続く真冬であり、まずひとりでに動き出すことはなさそうなことに安堵した。とはいえ、このままそう広くもない1LDKの部屋の真ん中に放置していれば見てくれといっているようなものである。
隠せる場所はクローゼット、風呂、トイレ。まず風呂は却下だ。今日、お隣の吉田さんは出張であり、そういう話をしたので万が一があり得る。言葉にして誘ったことはないが、暗黙の了解だ。朝日が昇る直前までゆっくりと過ごすのが通例で、彼はここを訪れる前に身なりを整えてくるが、稀に風呂場を使っていく。その時に浴槽に死体が転がっていれば、長く生きた身でもさすがに驚愕するだろう。今日に限っては帰ってもらってもいい気はするのだが、たかが冷凍カジキマグロ一本に多くない逢瀬の機会を潰されるのも癪だった。
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