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    MWaruyoi

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    リハビリ一発書きでやばめファン♀にビビる千ゲ

    「ゲンくん、これもらって」
     そう言って、司が復活させた女のひとりがゲンになにかを差し出した。そのとき俺たちは羽京と三人でテーブルについていた。夕食時で、周りにも大勢の人間がいて騒がしいが、声がかき消されるほどじゃない。ゲンは俺の隣に座っていたから、そこへ差し出された物もよく見えた。

    「前にあげたのは、三千七百年も経ってなくなっちゃったでしょ? できるだけ似たのにしたかったけど、私にはこれが限界だったの。でも、素人にしてはじょうずにできてるよね? ゲンくんのために頑張ったの」

     女の手のひらに乗るそれは金属製の腕輪のようだった。多少歪だが、このストーンワールドではそこそこまともな装飾品に見える。
     女の口振りから、ゲンの石化前からの知り合いらしいとわかって眉根を寄せた。司だけじゃなかったのか、聞いてねえ。それも、アクセサリーをプレゼントされるような仲のやつかよ。
     ムッとして、テーブルの下で軽くゲンの脚を蹴る。スプーンを握ったままのゲンの手が一瞬震えた。

    「……わあ~! ゴイスー! つくるの、大変だったでしょ! ありがとう、嬉しいなぁ」
     ゲンは俺のほうをちらりとも見ず、大げさに喜んで見せながらその腕輪を受け取った。ぺらぺらと饒舌に出来を褒めそやしながら、フランソワの料理を放って腕輪をはめる。

    「そっちじゃないよね」
    「えっ?」
    「前にあげたの、右につけてくれた。忘れちゃったの? そんなわけないよね?」
    「そうだったっけ? あの頃はほら、俺けっこうたくさん着けてたから……今はこれ一個だけだから、着けやすいほうにしちゃった」
    「……覚えてないってこと?」
    「えーっと……」

     ゲンが珍しく口ごもって左腕に視線を落とした。記憶を探るように腕輪をじっと見つめるのを見て、さすがの俺もなにかおかしいと気づく。向かいに座る羽京を見ると、顔を強ばらせて女の様子を窺っていた。

    「メンゴ~! あのね、忘れたわけじゃないの。ほら、石化から目覚めてもうだいぶ経っちゃったじゃない? だからアクセつけるのも久しぶりでさ~! ちゃあんと覚えてるってば! 十月のマジックショーのときにくれたやつだよね。俺あのときゴイスー嬉しかったもん、忘れるわけないよ♪」

     ぱっと立ち上がったゲンがニコニコと女に笑いかける。すると、真顔になっていた女の頬が赤く染まり、十秒前とは別人のようにもじもじとしだして気味が悪かった。

    「そっかぁ、そうだよね。ゲンくんがわたしのあげたもの忘れちゃうわけないよね。あのバングル、ショーの後は放送で一回しかつけてるの見れなかったから、ちょっと心配だったの。あげる三日前に自分で買ったってインスタにアップしてたやつは何度も見たのに……重ねづけしにくかったかなって」
    「そっかぁ、不安にさせちゃってたんだね。嬉しくて大事にしすぎちゃったかな」
    「ううん、いいの! 今度はもっともっとゲンくんに似合うの頑張ってつくるね!」

     そう言うと、女はご機嫌で手を振って離れていった。その背をしばらく立ったまま見送っていたゲンが、のろのろと座り直して両手で顔を覆う。

    「……バイヤー」

     隣の俺でもギリギリ聞き取れるほどの小さな声だった。そのまま動かないゲンにどう声をかけていいかわからない。困って羽京に視線をやると、ゲン、と俺の代わりに呼びかけてくれた。

    「……俺の住所特定して、ショーの直前にマンション前まで渡しに来た子、だと思う。そのとき帽子とマスクしてたから、今まで気づかなかったけど」
    「マジか……」

     そういえばコイツ、芸能人だったな。そういうこと、マジであんのか。それにしてもなんつー確率だよ。百人程度の復活者の中にそんな奴が入っているとは、さすがのメンタリストも思いも寄らなかっただろう。

    「なんか、メンゴ……」
    「ゲンが悪いわけじゃないよ。それにしても、困ったね」
    「ー、まだなんかやらかしたわけでもねえしな……テメーしばらくひとりになんの控えろ」
    「りょ~……」

     ゲンががっくりと肩を落とした。食事の途中だったが、なかなか再開する気になれないらしく、スプーンに手を伸ばす気配がない。
     かける言葉が見つからず、俺は丸まったゲンの背を軽く叩いた。人の目がある。今はこれくらいしかしてやれなかった。


    「あのさ、君たちの仲、結構知ってる人、多いよね?」

     ゲンがようやく食事を再開させる気になり、食べかけのパンを手に取ると、落ち着くのを待っていたらしい羽京が口を開いた。

    「そーね。公表してたわけじゃないけど、隠してたわけでもないから」
    「彼女の耳に入ったら、まずいんじゃないかな」

     俺たちの仲。つまり俺とゲンが付き合っているということは、村の連中ならほぼほぼ気づいていることだ。確かにいつあの女の耳に入ってもおかしくはない。あの女はいわゆるガチ恋ってやつなんだろうし、知ればほぼ確実に不愉快な事実だろう。

    「仮にそれでキレるとしたら、矛先どっちに行くもんなんだ?」

     正直言って、俺はこの手の話はまったく詳しくない。ストーカーによる傷害事件だとかは聞いたことがあるが、その詳細は興味の範疇外だったし、今回のようなやばそうなファンもそういうやつらと同じように考えていいのかもいまいちよくわかっていなかった。

    「ん~、まだあの子のことそんなに知らないから、なんともいえない。攻撃的になるタイプかどうかもわかんないし」
    「とりあえず、千空もひとりにならないようにしようか。僕も気をつけて見ておくから」
    「わかった」

     とりあえず、念のため防犯ブザーもどきでもつくっておいたほうがいいかもしれない。できれば使わずに済むといいんだが。
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    MWaruyoi

    REHABILIリハビリ一発書きでやばめファン♀にビビる千ゲ「ゲンくん、これもらって」
     そう言って、司が復活させた女のひとりがゲンになにかを差し出した。そのとき俺たちは羽京と三人でテーブルについていた。夕食時で、周りにも大勢の人間がいて騒がしいが、声がかき消されるほどじゃない。ゲンは俺の隣に座っていたから、そこへ差し出された物もよく見えた。

    「前にあげたのは、三千七百年も経ってなくなっちゃったでしょ? できるだけ似たのにしたかったけど、私にはこれが限界だったの。でも、素人にしてはじょうずにできてるよね? ゲンくんのために頑張ったの」

     女の手のひらに乗るそれは金属製の腕輪のようだった。多少歪だが、このストーンワールドではそこそこまともな装飾品に見える。
     女の口振りから、ゲンの石化前からの知り合いらしいとわかって眉根を寄せた。司だけじゃなかったのか、聞いてねえ。それも、アクセサリーをプレゼントされるような仲のやつかよ。
     ムッとして、テーブルの下で軽くゲンの脚を蹴る。スプーンを握ったままのゲンの手が一瞬震えた。

    「……わあ~! ゴイスー! つくるの、大変だったでしょ! ありがとう、嬉しいなぁ」
     ゲンは俺のほうをちらりとも見ず、大げさに 2350

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