Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    6_rth

    @6_rthのポイピク。
    ボツ、えっち、習作含めてデータ保管のため全作品置きます。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 29

    6_rth

    ☆quiet follow

    目測を見誤る

    渋にあげた時の書き下ろし、モブ注意。

    #アサルトリリィ
    assaultLilly
    #神雨
    divineRain

    「お二人とも、今日も仲がよろしいのね」
     そう言ったのは、通りがかりの椿組のリリィだった。次いでごきげんようと挨拶する彼女は、神琳のクラスメイト。名前は……以前に一度、遠くから呼ばれているのを聞いただけだからすぐに思い出せない。
     私と神琳は顔を見合わせる。視線が一瞬だけ交わって、先に彼女へ向き直ったのは神琳だった。
    「雨嘉さんとはルームメイトですもの」
    「一番仲のよろしいルームメイトは、お二人ではありませんか? よく話題にあがっていますよ」
    「あら……そうなんですの? お褒めに預かり、光栄ですわ」
     淀みなく話を進めていく神琳の隣で、私は曖昧な微笑みを浮かべた。顔しか知らない人に応対ができるほど、人付き合いは上手じゃない。悲しいけれど。
     神琳は人当たりが良くて堂々としているから、こういった雑談にも花を咲かせることができる。
    「仲があまりによろしいものですから、恋人のようだという方もいらっしゃるくらいですわ」
     曖昧に浮かべていた笑顔の、口の端っこがほんの少し引き攣った。今なんて言ったんだろう? 恋人?
     思わず神琳の顔を見れば、ちょうどお互いに向き合ってしまった。神琳は相変わらずの微笑みを浮かべていて、感情の揺らぎなんてどこにも感じない。
     先に視線をクラスメイトへ戻した神琳が、意外そうに問いかける。私にはほんの少しだけ、いつもより努めてゆっくり話しているような気がした。
    「わたくしたちが、そういう風に見えますの?」
    「さぁ、どこまで本気なのか……。でも、それくらいにお互いを信頼していることは分かりますわよ」
     そう言って、よりによって私に微笑みかける。どうして神琳じゃなくて私を見るんだろう。慌てて口角を上げて見せたけれど、内心では焦りで冷や汗が止まらない。
     私の気持ちを一切知らない彼女は、「それでは私、図書館へ向かいますので。ごきげんよう」と挨拶をして去って行った。何も知られていないことが何よりのはずなのに、人の気持ちも知らないでと理不尽な気持ちが頭を過ぎる。軽く目を瞑って、そんな理不尽を追い出した。
     神琳が微妙に、椅子の位置をずらした音がした。



     自室に戻った途端に、張り詰めていた空気がふっと解けたのが分かった。パチンと電気のスイッチを入れれば、暗い部屋が明るくなって視界が白む。肺から大きく息を吐き出せば、つられて身体も弛緩するような錯覚に陥った。
     部屋に戻ってきた安堵からゆるゆるとベッドに腰掛ければ、神琳も隣に座る。
    「なんだか今日は疲れた……」
    「えぇ。雨嘉さん、気を張っていたものね」
    「神琳は構わないの?」
     お互いに何の話かははっきり言わないけれど、それでも今日で一番大きな衝撃だったことだから、話が止まることもない。
     動揺が行動にも出て、今日はずっとぎこちなかった私に、相変わらず変化のなかった神琳。
     余裕を崩さないその様子に、思ったよりも拗ねたような声が出た。
    「困ることがないもの。雨嘉さんは不都合なことが?」
    「不都合なんてことはないけど……」
     そうだけど。困ることではないけど。だって恥ずかしいし。言い淀む私の手が、神琳の手に包まれる。温かいと思ったのは、多分今日私が神琳と微妙に距離を取っていたからだ。
    「急に距離を取ったら、きっと逆に怪しまれてしまいますわ。わたくしたちは、今までと同じようにいるのがよろしいのでは?」
     言われてみれば、確かにそうかもしれなかった。神琳がそう言うのだから。
    「そう、かな。神琳が嫌じゃないならそうするけど」
    「……わたくしは嫌ではないわ」
    「うん……」
     私と神琳の間に横たわっている微妙な隙間を、今は0にしたっていい。話しながらそう思って、腿を神琳のそれにくっつけた。ギィとベッドが軋む。
     意識して距離を取るなんてこと、私だってしたいわけじゃなかった。慣れないことをした。
     ふ、と息を吐いてから、その肩に頭を乗せる。繋いだままの手を緩くにぎにぎして遊べば、神琳はくすくす笑う。それから、前髪に軽く何かが触れた。
     ほんの少しだけ上にある神琳の顔を見れば、色の違う双眸が優しく細められている。引き寄せられるように、その右の目尻に口付けた。またお返しとばかりに、今度は頬に軽いキスが落とされる。
     戯れのように触れるだけのキスを繰り返して、それから二人で顔を見合わせて頬を緩めた。
     本当に私たちが恋人だということは、誰も知らなくていい。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    6_rth

    DONE何が何でも5章までにかつに何とか付き合ってほしかった。
    断章Ⅱは含みませんがイベストメモストその他含んでます。大島家と東城さんは多分こんなに仲良くない。独自解釈あります。
    ほんのりめぐタマと月歌ユキとあさにーなの要素があります。
    blooming
     ヒトサンマルマル、購買から少し離れた階段の陰。天候は晴天、視界良好。風向きは……留意する必要なし。
     ピークを過ぎて人も少なくなった購買で、見慣れたオレンジのフードはやけに目立つ。壁に半身を押し付け、気配を殺してそっと覗くと、ちょうど観察対象の彼女が会計を済ませようとしているところだった。
     ……そうして観察対象はわたしの予想通り、購買でサンドイッチを購入した。種類は遠目で分からない。双眼鏡は生憎持って来ていなかった。諜報員たる者、いついかなる時でも準備をしていなければならないのだけれど、午前の座学が押して寮室へ取りに戻ることができなかったのだ。
     観察対象Aは速やかに会計を済ませ、教室の方へ戻っていく。その背中で黒くしなやかな尻尾が緩やかに揺れるのを見て、それからわたしはそっと壁から離れる。冷たかったはずの壁は、わたし自身の体温ですっかり温くなっていた。
    91526

    related works

    recommended works