さみしいひとその横顔を見た時、ひどくさみしい顔だと思った。
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課題の途中、休息をとることとなった。近くに泉があると聞き、水浴びでもしようかと思い、訪れたそこにシルヴァンはいた。
座り、目を伏せて、ブーツも脱いだ素足のままその足を泉に浸していた。
絵になるな、とアッシュは思った。見目がよい、というのだろう。実際、彼がたくさんの女性を関係を持っているというような噂話は何度も耳にしたことはあるし、目にしたこともある。
ふ、と顔を上げたシルヴァンは自分には気づいていないようだった。どこか空虚な顔をして遠くを見つめていた。
さみしい顔だと思った。普段の彼は自分の見目の良さを自覚して、それを最大限発揮できるような笑みを作って振りまいている。
今の彼は、普段とは違って自分の見目の良さにも気が付いていないかのようなそんな表情だ。
その横顔を見た時、ひどくさみしい顔だと思った。行き場を失った迷子の子どもみたいに見えて。君は僕なんかより年上でずっと立派な騎士で、みんなの兄貴分、なのに。
近づくと、彼は僕に気が付いたようでこちらを見やる。にこりといつもの笑顔で手を振って「アッシュ、どうした?」と声をかける。
「シルヴァン」
隣に座って、彼の頭をそっと撫でた。どうしてだか、彼がいまにも泣き出しそうに思えたのだ。
昔、幼い弟が泣き出す直前のあの表情を思い出した。
ぽかん、と口を開けてシルヴァンは不思議そうな顔をする。
「泣きたいなら泣いてもいいんですよ」
僕はそう言った。分からないなら分からなくていいから。僕がそうしたかっただけだから。
しばらくして、ふっと口元を緩めたシルヴァンがありがとうな、とつぶやいた。