アシュフェリ人魚現パロうだるような暑さの中、自宅に帰ってまず風呂場の扉を開ける。
「ただいま、フェリクス」
「おかえり」
暑さのせいかぐったりしたフェリクスは水を溜めた浴槽の中でちゃぷちゃぷと尻尾を浴槽の淵を叩いて不満げだ。
僕の家の大して広くもない、狭い浴槽には人魚が住んでいる。
フェリクスが人魚になったのは、大学が夏休みに入って一週間ほど経ってからのことだった。フェリクスの部屋から僕の家へと彼を連れてきて浴槽に住まわせて数日経つ。慣れてきたのか、最初は困っていた彼だったが人魚になったのが夏休み中でよかったと言っていた。
人魚というのは足が、魚の尾っぽのようになって手にも水かきのようなものになってしまっている。僕は生まれて初めて見たが人魚は随分と美しいもので、暑さと熱に弱いらしい。
「暑い」
「うん、外も暑かった」
温くなった浴槽の水に氷を足していく。フェリクスが尻尾でぐるぐると水をかき混ぜていく。そう思っていると、フェリクスが浴槽の水を尾びれで掬って、ぴちゃりと水を跳ね上げる。頭からまともに水をかぶってしまう。ここ数日で随分と尻尾の扱いも上手くなったものだ。
「わっ」
「ふふっ、冷たくなっただろう?」
「もうっ」
人魚になると悪戯好きになってしまうのだろうか。びちょびちょになって肌に張り付いたシャツを脱げば、こちらに来いと手招きされて、両手で頬を挟まれてじっと見つめられる。そっと目を閉じて、唇を受け入れれば「熱い」とフェリクスがぼそりとつぶやく。
「この身体になってからお前の体温も熱くてたまらない」
「ごめん」
「謝るな」
「海でもいく?」
「それは、いいな。泳ぎに行きたい」
「昼間は難しいから夜に、だね」
「楽しみだな」
ざぶんと水を大きく跳ね上げて、また水浸しになった僕を見てフェリクスがけらけらと声を上げて笑った。