台本にかこつけて今度の文化祭で、演劇部はオリジナル劇を披露することになった。そして俺は、現代文の成績が良いという理由だけで作家に選ばれてしまったのだ。
ざっと大まかに書き上げた俺は、家のメイドと読みあわせをしながら練り上げることにした。
内容は青春ラブコメ。
実は、俺はメイドの詩織さんに片思いをしていて、すごく気まずい。
内心バクバクしながらも、掛け合いをしながら赤ペンでチェックする作業は難なく進んでいく。
最後に挟んだキスシーンで「ちゅうっ」と間抜けな読み上げをして一段落ついた。
「ふぅ、終わったー」
俺は大きく伸びをした。
「お疲れ様ですわ」
「ありがとう。助かったよ」
俺はソファに座りながらそう言った。
そして少し間を置いて、俺の隣に座っている詩織さんが口を開いた。
「その……とても良かったです……」
「それはどうも……」
正直めちゃくちゃ恥ずかしい……
「そ、それでですね! あえて改善の要望を申し上げさせてもらうとですね!」
「はい?」
急に大声を出したかと思うと、今度は小声で何か言っている。
「……あのシーンの後に奏太様から『好き』って言ってもらえたらもっとキュンキュンすると思いますよ」
…………ん?
「なぁ詩織さんや」
「なんでしょう?」
「今なんて言いました?」
「えっと……だからですね、『好き』と言ってもらうといいんじゃないかなって思いました……です」
………………うん、聞き間違いじゃなかったらしい。
それ、告白してるみたいにしか聞こえない。勘違いなのか? 皆そう思うもんじゃないのか?
だって好きだし。めっちゃ好きなんだし。
そんなことを思っていると、詩織さんはさらに続けた。
「それとですねっ、手を握りながらだとさらにいい気がします!」
……何このメイド怖い。
こいつまさか狙ってやってないよな? 天然でこれならかなりヤバいんだけど。
「あ、あとそれから──」
「わかった! もう充分よく分かったからそれ以上言わなくていい!!」
これ以上聞いていたら頭がおかしくなりそうだ。
というかすでに若干おかしいかもしれない。
「というわけで解散しよう! ! あ、夜食に何か作ってくれよ!」
「もう終わりですかぁ?」
珍しく不満そうな顔を向けているが知ったことではない。
俺は一刻も早くここから脱出したかったのだ。
「では仕方ありませんね……腕を振るうとしましょう♪」
「ああ、楽しみにしてるな〜」
……よし、なんとかなった。
俺はほっとして部屋を出た。
その後ろ姿を眺めて、詩織がさん不敵に笑っていたことなど知らずに……