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    gyonoto

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    愛(と)読書とニキ燐 この間載せたやつの増補版進捗です 書けているところまで

    好きな本を聞かれるのが、昔から何故か自分の頭の中を覗き見されるみたいで怖かった。僕はこう思っています、という頭そのもの、あるいは心臓を曝け出すような気持ちがして、思考を読まれるみたいで、だから自分がどんな本が好きかという話をするのがなんだか苦手で、読書にはあんまり積極的ではなかった。嫌いではなかったんだけど、読むなら隠れて読みたかったし、どうせ隠れるなら何か食べたかった。

    だから燐音くんが、あのころ僕のカードを使ってしょっちゅう図書館に行っているのも僕からしたら変な感じだった。市立図書館のカードを作っていただけ僕もまだ読書と縁が皆無なわけではなかったけれど、レシピの本を探すとか、読書感想文の本を探すとかでしかいったことがなかったし、それすら最近は学校の図書室で済ませていたからご無沙汰だった。僕の市立図書館の貸出カードの履歴は急激に回転したことだろう。学校帰りによく迎えに行ったものだ。本当は他人にカードは貸与してはいけないルールがあるから、バレるんじゃないかとドキドキしながら。食料のこともあるのに、これ以上罪を重ねたくないのに、燐音くんは僕のそんな懸念すら跳ね除けて、この現代の子どもに珍しく図書館を愛好していた。軍記に伝記に、恋愛小説やエッセイ、ジャンルを問わず図書館で日中読み続けて、飽きたらなかったり僕にも見せたかったりするものは借りて来て、アパートで読み続ける。その真剣な横顔が、正直今まで見た同世代の男の子なかでも飛び抜けて、あんまりにもきれいだと思った、のを今でも思い出せる。

    なぜそんなことを思い出したかというと、僕にその読書絡みの仕事が舞い込んできて、数年越しの心に巣食ってきた小さな曇りの蓋を開けたからだ。毎年出版社が夏になるとブックフェアみたいなのをやって、そのキャンペーンのモデルになぜか選ばれちゃったのが僕ということだ。こんなチャラチャラした、読書と無縁そうな外見の奴にそんなの任せていいのかと本気で発案者のことを案じたけれど、副所長曰く、むしろ意外そうな人物のほうが話題性があって良いと。やっぱり意外だと思ってるんじゃん、と思った。そして、近々撮影とそのときに少しだけインタビューをされる予定で、椎名さんの思い出の本やおすすめの本を教えてほしいと事前に通知があって、自分の好きな本を考えなければいけなくなって今に至る。心の蓋を開けた中身を見てぼんやり感傷に耽っていると、燐音くんが僕の頬を摘む。

    「死んだ?」
    「まだ死んでないっす、この世の贅を食べ尽くすまではまだ……」
    「きゃはは、悪役っぽいっしょ。男の悩みは相手が話し出すまで待てって聞いたから俺っちは待ってるよ」

    燐音くんはそう言って僕の頭をぽんぽん撫でた。昔からいつもこうだ。僕のことをこうやって甘やかす。子供扱いして、なんて思ったりしなくもないけど、僕には兄はいないから、それはまた新鮮な経験だったりもしてうれしかったのもあって、反抗する気にはなれなかった。

    「好きな本の話って、頭ん中覗き見されてるみたいで怖くないっすか?」
    「いや話すの早えよ。近所のおばさんか? んで、謎の悩み」
    「なんか、自分で自分のこと話すより思考回路見られてる気がして怖いっていうか……」
    「気にしすぎっしょ。気にしない椎名ニキにしちゃあ珍しいンじゃねェの」
    「……そっすね。よかった、燐音くんに言って」
    「惚れ直した?」
    「え〜、それはちょっと……」
    「おいコラ」
    「痛っ。冗談っすよ」

    僕の頬をまた抓る燐音くんの手を除けたあと、除けるに使った自分の左手のまま燐音くんの後頭部に手を回して引き寄せて口づけを軽く交わした。燐音くんはちょっとムッとしている。

    「……キスで誤魔化そうとすンな」
    「誤魔化してないっすよ。あっじゃあ、誤解を与えてしまうといけないのでもうしないっす」
    「生意気言ってんじゃねェ」
    「いひゃいっふよ〜。べつに僕からしなくたって、燐音くんがしたかったら僕にしたらいいじゃないっすか」
    「そこは……5:5っしょ」
    「過失割合?」
    「キスなんて過失みたいなもんだろ」
    「はじめて聞いたんすけどそんなの」
    「いま考えた」
    「流石っすね。んじゃ、示談ってことで」

     過失。燐音くんらしい表現だと思った。僕たちは出会った瞬間から、罪を分け合って生きてきたのだから、口付けが過失だとすれば、それを共有すること、あるいはふたりだけの隠しごととすることも理にかなっているのかもしれない。おもしろくなって吹き出すと、なんだよ、と言って今度は燐音くんのほうからまた唇と罪を重ねてゆく。誰に断罪されるんだろうか。それすら僕たちにはどうでも良かった。どうでもいいというか、それがなんであろうと僕たちは生きていけると思う、というだけの話。

    「んで、急に本の話がどうした」
    「いやほら、今度撮影あるじゃないっすか。僕」
    「あ〜出版社のサマーフェアのやつ?すげえよなァ、ニキきゅんひとりご指名で来ちゃうんだもん」

    燐音くんは僕のことなのに僕より嬉しそうに笑っていた。それがなんだか申し訳なくもある。僕は意味もなくしっぽ髪の毛先をうねうね弄りながら話した。

    「ふだん読書しなさそうなひとがやったほうが話題性もあるし僕らのイメージアップにもつながるからって、副所長が。僕のイメージどんだけ底辺なんすか」
    「きゃはは。自分で出りゃいいのにな」
    「僕も言ったんすけど、眼鏡と読書は付き物だからダメって」
    「もっともらしいこと言いやがって。ま、毒蛇くんが普通にニキに振りたいと思ったんだろうし、いっちょかましたれや」
    「何をかますんすか……。んで、めちゃくちゃ話逸れましたけど、今度のインタビューで僕の好きな本を紹介してほしいらしくって。これといって好きな本もないからどうしよっかな〜って」
    「なるほどなァ……」
    「昔はほら、わかったさんシリーズとかこまったさんシリーズとか好きだったんすけど」
    「いいじゃんそれで」
    「出版社がちがうんすよ」
    「仕方ねえだろ」
    「いや仕方なくないっしょ、さすがに僕もそこまで空気読めなくはない!あっそうだ、燐音くんなんかおすすめあります?適当に答えてくるんでパクらせてください」

    僕は思いつきで燐音くんを頼ることを決めたものの、燐音くんが秒で後頭部を殴ってきた。痛い。いったい何がいけなかったのだろうか、そう思っていたら燐音くんがわりかし本気のトーンで語ってくれる。

    「アホか?てめェなら実際それっぽく答えられるんだろうけど、ああいうやつって『自担が読んでる本!』っつってファンがわりかし買いがちだし、きっと椎名ニキを好きな子たちは生涯にわたってニキが好きな本のこと話し続けるっしょ」
    「え〜、そんなに?」
    「そんなに。『デートプラン』のときも文句つけたの覚えてるかわかんねえけど、ファンってのはアイドルが思ってる以上にアイドルのことを隅々まで見てる。なんならアイドル自身よりアイドルに詳しいかもしれない。だいぶアイドル屋さんらしくなってきたと思ってたけどそのへんはまだまだっつうかなんつうか……。もっと自分が『想われてる』ってこと、自覚してほしいっしょ」
    「それは燐音くんもでしょ〜」
    「あ?」
    「なんでもないっす。……でもなあ、いまから好きな本を選ぶにも、買ってるお金の余裕がないし?食べられる本とかないんすかね?」
    「メモ帳ならあるって聞いたけど。……っと、おいおいニキきゅん、本は必ずしも買わなきゃいけないもんでもないっしょ」
    「はい?」
    「この都会で俺っちが最も感動した建造物のひとつだよ」
    「な、なにが……?」
    「図書館。カード持ってンだろォ」
    「ああ、しばらく使ってないっすけどいちおう、あることはありますね」

    僕がお財布をガサゴソして市立図書館の古びたカードを発見すると、燐音くんがにやりと笑って僕の肩を抱き寄せた。

    「んじゃ、デートしようぜ。恋人さん」
    「なんすかその呼び方は……」



    恋仲のふたりが出かけることはデート。デートは恋仲のふたりが出かけること。たとえ恋人が本に夢中で僕を見ていないとしても、僕たちが付き合っている限り今この状態はデートだ。じゃあ、燐音くんとデート以外で普通に出かけたいときはこの関係を終わらせるしかないのだろうか。もちろんそんなはずないけど、ことばって窮屈だなあ、と時々思う。だから、このことばに囲まれた図書館という空間も相当窮屈なはずなんだけれど、なぜか妙にリラックスできてしまうのは、本質的なものなのか、好きな子と一緒に来たからなのかはわからない。

    数年ぶりに図書館を訪れた僕と、数年ぶりの図書館だけれどはじめて僕と一緒に図書館にきた燐音くんは、それぞれ利用カードの更新と新規作成をしたのも束の間、燐音くんはさっきから僕そっちのけ(というか「てめェの本を選びに来たんだから選んでこい」と言って突き放された)で真剣に本を選んでいる。軍記がやっぱり好きみたいで、あとは神話、確率論、なんだか難しそうなものをすでに数冊手にしている。

    むかしは「この国の法律を知る」とか言って六法全書を借りてきては婚姻の性別についてああだこうだ言っていたりしてた気がする。なんか思い出した。いや、むかしの燐音くんを思い出している場合じゃなくて。僕は今日、ここでお気に入りの1冊を決めなくてはならない。お気に入りなんて更新されてゆくものかもしれないけれど、とりあえず今のうちの。明日死んだら、今日選んだ本が僕のいちばんになるし、燐音くんが僕が最後に恋した人になる。人生なんてそんなことの繰り返しだけど、繰り返せないのが人生だ。

    そう思いながらたまたま近くの棚に戻ってきた燐音くんをちらっと横目で見ると、マスクを顎に下げて、口だけで「バーカ」と言ってきたので僕も負けずとと舌を出して威嚇した。燐音くんは楽しそうにげらげら笑っている。言葉を交わさずとも、手を触れずとも、こうして戯れ合うことができる関係性が僕たちの強みだ。燐音くんはやがて棚に目を戻してしまった。あのときと変わらないけれど、すこし、いやだいぶ大人になったうつくしい横顔。僕が前を向けない日でも、せめて横向きでいられれば、いつもこの顔がそこにあった。僕も燐音くんにそう思ってもらえていたらうれしいけど。

    ふらふらといろんな棚を見てまわりながら辿り着いたのは児童書のコーナー。学級文庫にあって、教室でたまに読んでいた本もちらほら置かれている。懐かしい、と思いながら棚から取ってはぱらぱらとめくってみる。わかったさんもこまったさんもある。あとはがまくんとかえるくんとか。一度読んだことがあるだけあって、やっぱり読み進められる。読書をすすんでするような心と身体の余裕がなかっただけで、嫌いだったわけではないのかもしれない、と思い直せるような時間。気がつけば僕もまた燐音くんのことを忘れて、隣で眺めている小学生の視線にも、21歳の視線にも気が付かずに児童書コーナーに居座った。

    あ、と思わず小さな声が出た。児童文学のなかでも外国文学のコーナーにあった、僕でもうっすら知ったタイトルの本。なんだかんだ中身は見たことがなかったなあ、と思って手に取ってみたら意外と厚くてびっくりした。図書館のひとが手作りしたらしいおすすめのPOPには「大人の方にこそ読んでほしい」と書かれていた。そんなもんなのか、と思ってぱらりとめくってみた。たしかにやさしい言葉で書かれてはいるけれど、そんなに短くもないし、めちゃくちゃふつうの小説じゃん、と思った。これなら僕でも読めるかも。というか、燐音くんがいちど借りてきていたような気がする。気のせいかもしれないけど。

    「お、いいの選んでんじゃん」
    「うわっ!?」

    突然耳元で、よく頭に響く、縋るような、聴き慣れたけれど声がして思わず僕は大声を出した。俗っぽい言い方をすれば、どきっとした。周囲にいた人が一斉にこちらを見る。僕が気づかない間にずっと僕の顔を観続けていた小学生も流石にびっくりする。すいません、と僕は慌てて世間に向かって頭を下げた。燐音くんはさらにその縋るようなよく響く声で僕の耳元で静かに怒る。

    「おい馬鹿、図書館ででけえ声出すな……」
    「す、すんません……。脅かしたあんたが悪いんでしょ!?」
    「ふつうに話しかけただけだっつうの。責任転嫁は良くないぜェ?」
    「ふん……。り、燐音くんは僕より超借りてますね……」
    「ああ、今日は有名なやつ借りとこうかなと思って。坂口安吾の『堕落論』っしょ、アンドレ=ジッドの『狭き門』……なんだその顔」
    「……有名なんすか?」
    「なんだその顔……」
    「2回言わないでほしいっす」
    「……まあ、有名なんじゃないの。都会のひとたちには、わりと読まれていると見た、と俺っちが思ってるくらいだけど」
    「ふ〜ん……?」

    その2冊のタイトルを見てもさっぱりわからない。ずっと都会にいる僕が知らなくて、燐音くんが知ってゆくものはもう大多数になった。負けたから堕ちるのではなく、人間だから堕ちてゆくもの。そして、自己犠牲への批判。僕はこの時点で燐音くんの選書の由縁を知るところもないけれど、知ったところできっと、またそういうのばっかり、とため息をついたと思う。

    「つうか、俺っちのはいいンだよ。いいじゃん、それ」
    「いや〜、タイトル知ってるわりに中身知らないなあと思っただけっすよ」
    「たぶん訳本が、いろんな出版社から出てる」
    「はい?」
    「なんだその……」
    「さっきから何回僕のこと馬鹿にしたら済むんすか」
    「……ほら、原作が仏語っしょ。だからそれぞれの出版社でちがう翻訳者が訳してるから、微妙に印象ちがうと思うってこと。一人称ですら、性別とか立場でキャラ立てできるくらい存在すンのは日本語くらいならもんよ。おれって訳してたり僕って訳してたり」
    「無視しないでくださいよ〜。僕か燐音くんかってことっすか」
    「いや違うけど……。なんでそうなったンだよ。読み比べろとまでは言わないけど、それくらいいろんなところで読まれてるんだろうし、それを選んだことでてめェの印象が下がることはないし、ちょうどいいっしょ」
    「食べ物の話出てきます?」
    「砂漠に不時着した話だから水と酒くらいしか出て来ねェな……」
    「えー」
    「べつに本の世界にいるときまで腹空かしてなくたっていいだろ」
    「たしかに。いいこと言う〜」
    「だろォ?惚れ直した?」
    「直すとこはとくにないんすけど……痛っ!デコピン!」

    燐音くんはマスクから見える耳を少し赤くしながら僕を痛めつけた。棘を生やしながら真っ赤に咲き誇る薔薇の花は、こっちを見てくれない。燐音くんは照れたときに僕にデコピンをする癖がある。ちなみに僕は、照れているときは微妙に声が上擦るらしい。燐音くんが言っていた。そして機嫌が悪いときは声がちょっと低くなると。そして、その低い声も好きだと言っていた。燐音くんはよく僕の声を褒めてくれる。褒めるというか、気に入ってくれている。寝る前の、部屋の灯りを消して目を閉じているときでも、声はいつでも聞こえる。そのときに僕と話すのが楽しくて好きで、さらに、そのときの僕の、いつもより落ち着いた話し声が好きだと。不思議なことに、僕も燐音くんに対していつも同じことを思っていたから、なんだかすごく恥ずかしくなったのを今でも覚えている。
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    gyonoto

    MOURNING以前書いていた創作です。自分の名前が嫌いな女の子たちの話。
    名前(或いは過去の話)高校の頃まで、母親がつけてくれたこの名前が私は嫌いだった。外国人と結婚しても違和感がないようにとつけられた柚莉愛という名前とは裏腹に私は日本をこよなく愛する文学好きの地味な女に育った。おしゃれには興味がなく、1500円のファンデーションを買うなら1500円のハードカバーを買いたいと思っていたような女だ。眼鏡をかけた、前髪の長い、本当に目立たない女に、ユリアなんて不釣り合いすぎて恥ずかしくて、私はいつだって苗字で井丸です、と名乗った。

    高校で出会った佳子ちゃんはみんなにはカコちゃんと呼ばれているけれど、私は正しくヨシコちゃんと呼んでいる。私はカコちゃんなんて呼ぶ柄ではないし、烏滸がましいとさえ思って今でも一度もカコちゃんと呼んだことはない。それでも最初は芳村さんと呼んでいたのだから、ヨシコちゃん呼びになったことは褒めてほしくすら感じる。佳子ちゃんこそ柚莉愛を名乗るべき女の子で、モデルさんみたいに(尤も、モデルさんなど知らなかったけれど、佳子ちゃんに宿題として渡された雑誌のモデルさんの女の子たちがとても佳子ちゃんに似ていた)綺麗で、肌が白くて、頬はピンク色で、いい香りがして、外国人とかお人形さんみたいなのだ。佳子ちゃんがどうしてカコちゃんと呼ばれているかというのも、佳子ちゃんがヨシコっぽくないからだ。佳子ちゃんのお母さんとかお父さんには失礼だと思うけれど、佳子ちゃんは本当にヨシコって感じではなく、専らユリアなのだ。しかも、ヨシムラさんという苗字なのにヨシコと名前をつけたセンスも疑ってしまう。ヨシムラヨシコ。野比のび太じゃないんだから、と思うし、佳子ちゃん本人もそれを少し気にしていて、カコちゃんと呼ばせていたようだ。交換してあげたい。佳子ちゃんをどうにか柚莉愛にして、私が佳子ちゃんになりたい。いつも思っていた。
    14213

    gyonoto

    MAIKING愛(と)読書とニキ燐 この間載せたやつの増補版進捗です 書けているところまで好きな本を聞かれるのが、昔から何故か自分の頭の中を覗き見されるみたいで怖かった。僕はこう思っています、という頭そのもの、あるいは心臓を曝け出すような気持ちがして、思考を読まれるみたいで、だから自分がどんな本が好きかという話をするのがなんだか苦手で、読書にはあんまり積極的ではなかった。嫌いではなかったんだけど、読むなら隠れて読みたかったし、どうせ隠れるなら何か食べたかった。

    だから燐音くんが、あのころ僕のカードを使ってしょっちゅう図書館に行っているのも僕からしたら変な感じだった。市立図書館のカードを作っていただけ僕もまだ読書と縁が皆無なわけではなかったけれど、レシピの本を探すとか、読書感想文の本を探すとかでしかいったことがなかったし、それすら最近は学校の図書室で済ませていたからご無沙汰だった。僕の市立図書館の貸出カードの履歴は急激に回転したことだろう。学校帰りによく迎えに行ったものだ。本当は他人にカードは貸与してはいけないルールがあるから、バレるんじゃないかとドキドキしながら。食料のこともあるのに、これ以上罪を重ねたくないのに、燐音くんは僕のそんな懸念すら跳ね除けて、この現代の子どもに 6285

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