剣の修行ザ・ドリフターズ
公開コント【剣の修行】パロディ
本来なら私が率いる第一班は半休だったが、この日は違った。
それも普段のシフト変更ではなく、午前10時に横浜アリーナに我々吸対とハンターが集められた。
日時と場所、そして運動のしやすい格好での集合としか聞かされていないため、これから何が行われるかわからず互いに何を知ってるか探り合っていたため、アリーナはガヤガヤと騒がしかった。
「ちゅうーもーーく!!」
その一声でアリーナにいたもの全てが黙り、ステージ上の声の主へと目線を向けた。
その人物こそが、我々をここへ集めた張本人。
神奈川県警、吸血鬼対策課本部長ノースディン。
「おはよう!」
マイクを使わず、大きな声で挨拶をする本部長。
これは、本部長が集まりで話し始める前に必ず行う挨拶。
「おはようございます!」
我々吸対では当たり前だが、ハンター側は初めて見る光景に驚いていた。
「声が小さい!おはよう!!」
2度目だったため、先程何もできなかったハンター側も求められたことを理解した。
「おはようございます!!」
アリーナに響き渡る挨拶の余波を満足したような顔で静かになるまで聞くクソヒゲ本部長。これの何がいいんだか…
「本日諸君らを集めたのには理由がある!
先の吸血鬼ロナルド等によるシンヨコ奇襲の日ッ、我々は被害を最小限にすることができたが、このままでは甘すぎる!
更なる強敵の存在がここに来ることを想定せねばならない!
各々得意武器があると思うが、市街地での戦闘を視野に入れ、基本である刀の扱いを今一度その体に叩き込むことが今回の目的だ!」
「なぁ、隊長さん」
服だけではなく頭や口元も黒い布で隠すこの男。
ハンター名:ケン
ハンターの中でもトップクラスの戦力の男。だが、なぜかジャンケンを挑んできたり、野球拳について熱弁するところが玉に瑕…
「なんだい」
「おたくのトップってこんなことする人なのかよ」
「普段はカッコつけ歯ブラシヒゲ野郎だが、剣のことになると熱くなるお方なんだよ」
「へぇ…そうは見えなかったな」
本部長の合図で係の隊員が皆の手元に木刀を渡していく中、私が受け取ったのは…
「プラスチックのおもちゃの剣…?なぜだァァァァ💢」
「お前は木刀を振る体力はないだろ」
いつのまにかステージの上から降りて木刀を握る本部長がいた。
「ファーッ?!私にもその体力はありますゥ!いつまで昔のこと引きずってんだこのクソったれ本部長!」
「生憎、木刀は全て配られた後だ。大人しくそれで稽古について来い」
いつまで私のことを見下す気だあのヒゲ…!
「周りとの距離を取れ。そうだ…いいぞ。
よし。まず稽古する前に、今の君たちの実力を知りたい。自信があるものから腕を見せてみろ!」
「はい!」
一泡吹かせてやる…
「ドラルクか…よし、前に来い。さぁ、腕を見せろ」
場違いのおもちゃの剣を握り、腕まくりをする。
「はい!」
…
……
………
「何をしているんだ、不出来な弟子よ…」
「だから、腕見せてるんでしょうが!ほら、うで!」
「その腕ではないわ!私は【剣の腕を見せろ!】と言ったのだ!」
「あ、そういうことでしたか。失礼しました」
私は元いた場所へ戻り、隣にいた人物を連れてきた。
おそらくあのヒゲのことだ。『2対1でも勝てる』などと思っているのだろう。そんなわけあるか。
私は彼の腕をやつの目の前に差し出す。
「ほら、ハンター【ケン】の腕です✨」
先程とはまた違う意味で静まり返る。
そしてみるみる顔が赤くなる本部長…と、次の瞬間。
「バカモノォォォ〜!!」
大噴火。
後から聞いた話だが、本部長のあの声はロビーで待機してた係の隊員にも聞こえたらしい。
結局私は、この合同訓練から追い出されてしまった。
ロービーに戻り、会場から出ようとした時。
「あれ?ドラルクゥ〜!」
ドッカドッカッと絶対に1人で持てる量じゃないはずの大きいクーラーバックを5個も体にくっつけて走ってくる父の姿が見えた。
「お父様?どうしたんですか、その大荷物」
「あぁ、これ?今日の合同訓練の参加者のおにぎりなんだ〜」
「そうなんですね。配膳のお手伝いしますよ」
「本当かい!ありがとう〜。今先輩たちがコンロと豚汁を持ってきてくれて、もしかしたら人手不足かなって不安だったから助かるよ〜」
お父様と合流した食堂の方々の手伝いをし、時間になったので再び合同訓練の会場の扉を開けると、ものすごい熱気を感じた。
これだけの人数が真剣に打ち合っている。
そして誰よりも声を出し指導する本部長。
良かったですね〜。父はあなたの勇姿を見て夢中になってますよ。ま、教えませんけど…
「お昼の時間ですよー!」
メガフォンで食堂のおばちゃんが伝えると、よほどキツい練習だったのか一部の隊員が走ってきた。
特に3人の隊員がずば抜けて速く、我々の元へ一直線に向かってくる。しかし、勢いが止まらずこのままではぶつかってしまう!と身構えた時…
見慣れた大きい背中が目の前に現れた。
ドシンッ!と相撲の立合いのような衝撃。
たった1人で3人を受け止め、次の瞬間地面に叩きつけた。
普段割烹着を着て、周囲に明るく接してくれる優しい男はそこにはいなかった。
そこにいたのは鬼の形相をする父の姿…
そんなこととは知らず、走ってきた残りのメンバーの足音が近づくと、顔を上げる。
「やめたまえ君たち!!」
この一喝により、走ってたメンバーは足を止め、普段とは違う形相の父の顔を恐ろしそうに見ていた。
「腹が減ってるのはわかる!速く食べたいのもわかる!しかし、君等は生徒!!
許可を得ずに、師より先に食べていいわけがないだろう!!そういう心の甘さが己の弱さに繋がる!
それに、その汚い手でご飯を触ることは俺が許さん!!そこにあるウェットティッシュを取って手を綺麗にしてから列に並びなさい!!」
「!!………。す…すみません…」
「みんなが腹一杯になるほどのご飯はちゃんとあるし、準備をしてくれた方々に感謝をして、ゆっくり味わって食べてほしいんだ。できるよね?」
「はい!」
走ってくる鍛えられた男3人を受け止め薙ぎ倒すって…お父様の武勇伝がまた1つ増えた。
フライングした一部の隊員が左右に分かれ、真ん中を堂々と歩く本部長。どうせ、内心では「流石ドラウスさん…かっこいい」とか思っているんだろう。ケッ。
本部長の配膳が終わり、ハンター、吸対の順でそれぞれお昼ご飯を貰えた。
私は自分の隊員に訓練の様子を聞いていると、先に食べ終わった本部長の横に小走りでタオルを持って駆け寄る父を見かけたのでバレないように近寄った。
「指導お疲れ様です。本部長さん」
「ありがとうございます。ですが、私もまだ甘い…彼らのことをちゃんと見えていなかったので…」
「こんな大人数ですから仕方がないですよ」
いいことを閃いた。
ニヤリと口を開き、隠れるのをやめ2人の前へ現れた。
「あの〜お熱いところ申し訳ございません」
「!」
「ど、ドラルク?!どうしたんだい??」
「先ほどのお父様の勇姿、ご立派でした。それに、本部長殿もなかなかの剣の達人とお見受けします…どうでしょう。午後はお2人の勝負を見て学ぶ事にしませんか?」
「お前ッなにを!」
「そ、そうだよドラルク!私なんかが…」
「ですが、周りを見ていただきたい。ここには疲れ果ててる隊員もいますし、このまま続ければ怪我につながるかもしれません」
「……」
「確かに…みんな疲れてるね…」
お父様は後少しで傾く!つまりそれは本部長も道連れになる!
「お2人の戦いから学ぶこともありますから…ぜひ!!」
次回!
本部長VS割烹着ウス!!
【USODESU】